神世界と素因封印

茶坊ピエロ

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35.初日から問題を起こす

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 俺とルナトは額に手を当て天を仰いでいた。現在授業が終わり放課後、学長が俺たちの教室に来ていた。目の前には意識を刈り取られた男子生徒3人が転がっている。ミナは慌てふためき、ソルティアとカナンさんは学長を睨んでいた。


「困るよー君たち。カレブ君も貴族の家名を持ってるとはいえ、君は教師で彼らは生徒なんだから」


 学長は絶賛説教中である。貴族3人昏倒させて反省の色もみせないソルティアとカナンさん。
 なぜこんな状況になっているのか。それは少し前に遡る。


◇◆◇◆◇


 今日は学校が初日だが授業があり全て終わった。あとは帰りのホームルームだけだが、朝のホームルームではカナンさんは色々問題発言をしていた。貴族だろうが生徒である以上問題を起こしたら鉄拳制裁に出ると言ったのだ。21世紀から体罰は色々と言われてきている。その中でのかなり際どい発言である。
 帰りのホームルームまでまだ時間があるからか俺たちの方に3人組が歩いてきた。はぁまたかぁ。
 ミナとソルティアは美少女だ。ソルティアはルナトと婚約しているから言い寄られることが少ないが、ミナには平民であるため休み時間のたびに誰かが妾にと押し寄せていた。


「僕の名前はムラサキ・フォン・グレースだ。ヒュゲールくん。君は美しい。ぜひとも僕の側室に入っていただけないだろうか?」


「ごめんなさい。わたし好きな人がいるからその申し出はお断りさせていただきます」


 好きな人とは俺のことだろうか?正式にお付き合いしてるわけじゃないから一瞬ドキッとしてしまう。
 毎回こうやって断ってきたわけだが、今はルナトがトイレに行っていていないから取り巻き2人が煽ってくる。


「平民がムラサキ様の妾になることができるんだ。光栄な事なんだぞ」


「平民如きが伯爵家の申し出を断るなんて何を考えている」


 休み時間はルナトがいたから下手になにも言えなかったのか、それともこいつらの人柄問題ないのか、食い下がらない。これ以上突っかかってくるようなら俺も一言言ってやろうと思っていたところ、ソルティアが煽ってきた2人に怒鳴りつける。


「あなた達!貴族の家の者として恥ずかしくないのかしら!それに女性をなんだと思ってるのかしら?」


 取り巻きの2人は今度はソルティアに突っかかる。


「アクター家のソルティアに言われても説得力ないなー。殿下にどう腰振って篭絡したんだ?」


「さぞや殿下を満足させられたんだろうなぁ。男爵家の分際で殿下の婚約者になって生意気になったもんだ!」
 

 ソルティアは顔を真っ赤にして震えていた。うわーかなり怒ってる。殴りかかる勢いじゃないかこれ。そう思ったらムラサキというやつが取り巻き2人を宥めようとしていた。


「やめないか!側室という言い方は悪かった。身分上そうなってしまうから言ったんだ。僕は君を妻に娶りたかったが好きな人がいるのでは仕方ないな」


「えぇ。昔からずっと好きな人です」


「昔から?ククク、乙女だなぁ。伯爵の妾になっていれば一生楽な暮らしができるのに」


「そうですか。別にわたしは楽がしたいわけではないので問題ないですね」


 ミナは動じない。普段は抜けてるのにこういう時は流石だな。ムラサキというやつはマトモみたいだけど、他2人の行動が目に余るな。


「くっ・・。平民の女の分際でぇ!」


 怒りが頂点に達したのか取り巻きの1人がミナに殴りかかろうとする。さすがにミナに暴力を振るおうものなら俺は動く。しかし俺が動く前に殴りかかろうとしていた1人が吹き飛ばされる。捉えきれない速度ってことは・・・。


「ミナに暴力を振るおうとしたな!いいだろう君たち全員わたしのがご所望のようだ。歯を食いしばれよ!」


 やはりカナンさんだった。そして瞬く間にもう1人の従者とムラサキの意識を刈り取った。あーやってしまった。もう1人の従者はともかく、ムラサキってやつは告白以外何もしてない。告白するだけで気絶させたんじゃ完全にこちらが悪くなる。


◇◆◇◆◇


 そしてトイレから戻ってきたルナトに今あったことを話し、学長に事のあらましを説明して今に至るというわけだ。


「もう少し穏便にできなかったのかね?彼らは伯爵と子爵だ。陛下の直々の依頼だから無理矢理教師枠を作ったがこれでは解任も考えないとならんぞ」


 それはまずい。ミナを守るための戦力が削られるし、なによりカナンさんくらい親しく接することができる教師は学長しか俺にはいない。


「学長、どうかそれは一考願います。たしかにカナンさんの行動は軽率だったかもしれません。グレース様は何もしていないわけですし。しかし他2人の行動は目に余りました。カナンさんが手を出さなかったら俺がこの現状を作っていたかもしれません」


 事実取り巻きの1人が殴りかかってきた時、カナンさんがやらなきゃ俺は彼を意識を刈り取っていただろう。学長も彼ら2人のことは擁護できないようだ。


「わかった。和澄くんもそう言ってるし、彼らに非があったのも事実。今回は痛みわけでお咎めなしとしよう。グレース家の人間は取り巻きの監督不行き届きということで納得してもらう他あるまいな」


 俺は学長に向かって頭を下げる。ルナトも学長に礼を言うのだろうか学長の前に行く。


「寛大な処置感謝する。そういうことならこの2人、爵位剥奪で良いか?」


 あ、なんだかんだでソルティアをバカにされたことは怒ってるのね。ミナは煽られただけだから俺はそこまで怒る要素もなかった。


「爵位剥奪はやり過ぎじゃないか?」


「何を言う!皇族の婚約者をバカにされたんだ。爵位剥奪だけで済むんだ。むしろありがたいだろう」


「お前は兄さんとは違う意味でめんどくせぇ」


 こういう時だけ自分の殿下という立場を利用する。普段は権威なんて微塵も気にしないのに。


「和澄はミナが言い寄られて良い気持ちはしないだろう!」


「まぁそれはしないけど、ミナが穏便に済まそうとしたのに俺がなにかするのもあれだろ?」


 実際暴力するまでは俺は介入する気が全くなかった。ミナはこんなことで動じないと信じてるからだ。むしろ下手に介入したら、ミナに怒られるだろう。


「まぁとりあえず帰ろうぜ。カナンさんどうする?」


「わたしは新任だからまだ仕事が残ってるよ。そのあとはその・・・」


「あ、デートね。兄さんと楽しんできて」
 

「和澄くんは察しがいいんだから。さっきはありがとう。また明日ね」


 そう言って二階に上がっていくカナンさん。そうだソルティアもこのあとどうするか聞かなきゃな。ルナトは今俺の家に住み込みな訳だし、婚約者としてはもっと一緒にいたいだろう。


「ソルティア、俺たち今全員俺の家に住んでいるんだが来るか?なんならルナトと同じ部屋で寝泊まりしてもいいぞ」


「いいんですの?」


「もちろん。ミナも女の子の友達がいたら気が楽だろ?」


「うん!昨日もお母さん仕事でいなくて1人だったし、今日の夜はパジャマパーティーしようよ!」


「じゃあお言葉に甘えますわ。ふふっ、楽しみですわね」


 ミナもソルティアも嬉しそうだ。みればルナト口元が少しにやけてる。なんだかんだあいつもソルティアと会えなくて寂しかったのだろう。そんなこんなで俺たち4人は家に向かって歩いていく。
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