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あざみの呼びかけで、大学時代の友人と三人で集まることになった。場所は、名古屋駅近くのイタリアンレストランだ。元々は百合音を入れた四人グループだったのだが、今回の招待状のことがあってから、全員が百合音と縁を切ったり連絡を取らなくなった。
「美咲、なんて言っていいのか分からない。何かの間違いだと思いたかったけど、まさか百合音が江島君と結婚するなんて。人間性疑っちゃうよ」
お通夜ムードの中、恐る恐る第一声を発したのは阿南茉莉花(あなみまりか)だった。普段温和な彼女が他人を悪く言うことは殆どないが、今回だけは別のようだった。もう一人の友人であるあざみは、傍から見ても分かるほどに憤慨している。
「百合音がこんなことする奴だとは思わなかった。友達の彼氏を略奪して、能天気に式を挙げるなんて。江島君も江島君よ。八年付き合った彼女見捨てて、浮気した挙句に招待状送るって……本当に、新郎新婦どっちも最低だわ。っていうか、何が招待よ、偉そうに。頼まれても願い下げだわ」
あざみは正義感が強く、曲がったことが嫌いだ。既婚者であることも相まって、今回の件に相当な嫌悪感を示していた。いつもはそんな彼女を宥めるのが私や茉莉花の役目だが、今ばかりは彼女のキツイ言葉に救われている。
「江島君、三年前から大阪に転勤で、美咲とは遠距離恋愛だったんでしょ? 絶対、それを狙ってたんだよ。百合音が大阪の企業に転職した時、気づくべきだったね」
「普通の人間だったら、略奪なんて考えもしないわよ。友人の彼氏と接するときは距離取るもんでしょ。大体、謝罪も何もなく招待状を送り付けるなんて、どんな神経してんのよ。ほんと、面の皮厚過ぎ。幸せになる権利無いよ、あの二人」
あざみの暴言が冴えわたる。けれど、ここで何を言っていても、あの二人が幸せに生活を送っていることは確かで、それを止める権利は私にはない。
招待状を見た時に迸った憎しみが再燃する。
式を挙げたいなら黙って挙げていれば良かったのに、どうしてわざわざ私に招待状を送った? 私に対する見せしめ? 何も気づかずに別れを受け入れた私を今度こそ嘲笑うため?
もし別れの原因が私にあったのだとしても、こんな仕打ちはあんまりだ。だったら二股をかける前に別れてくれれば良かったのに。百合音も、私に謝罪もせずにこんなものを送り付けるなんて、本当に酷い女だ。最低。二人とも幸せになる権利なんてこれっぽっちもないのに。
絶対に許せない。仕返ししてやらないと気が済まなかった。涙はもう枯れ果てている。私の憎しみをどうにかしてあの二人に伝えてやる。自分達のみっともない行いを恥じて、後悔すればいい。
どうすれば彼らに思い知らせてやれるのだろう?
今になって、あざみが結婚した時に花を贈ったことを思い出す。希望と幸福の象徴、ガーベラ。あの結婚式はとても幸せだった。あざみが綺麗なドレスに身を包んでいて、参列者は全員笑顔で。百合音と江島君が、そんな幸せな空間に包まれるなんて許されない。世界が許しても、私が許すものか。
「――決めた。あの二人に不吉な花を贈る」
「不吉って……仏花とか?」
「違うの茉莉花、そういう意味じゃなくて。憎しみを表す花を贈るの。知り合いに花屋の店員さんがいるから、何か良いものが無いか聞いてみる。それを、この二人の招待状に書いてあった、新居の住所に送りつけてやるの」
「美咲、本気なの? そんなことしたら恨みを買って、何が起こるか分かったもんじゃないよ」
「茉莉花、何を勘違いしてるの。先に恨みを買ったのはあの二人の方。式を挙げるなら黙ってれば良かったのに、わざわざ美咲を招待するなんて、美咲のことを傷つける意図しか感じられない。結婚式はそんなふうに使われるべきじゃない。あたしは美咲の行動を支持する」
あざみの力強い言葉に後押しされて、私は決意を固める。二人と別れた後、目的の人物と連絡を取った。大学時代の後輩・須ヶ口晴也だ。誰かに花を贈る時――昨年、あざみへ結婚祝いの花束を贈った時も、彼に相談に乗ってもらったのだ。
「美咲、なんて言っていいのか分からない。何かの間違いだと思いたかったけど、まさか百合音が江島君と結婚するなんて。人間性疑っちゃうよ」
お通夜ムードの中、恐る恐る第一声を発したのは阿南茉莉花(あなみまりか)だった。普段温和な彼女が他人を悪く言うことは殆どないが、今回だけは別のようだった。もう一人の友人であるあざみは、傍から見ても分かるほどに憤慨している。
「百合音がこんなことする奴だとは思わなかった。友達の彼氏を略奪して、能天気に式を挙げるなんて。江島君も江島君よ。八年付き合った彼女見捨てて、浮気した挙句に招待状送るって……本当に、新郎新婦どっちも最低だわ。っていうか、何が招待よ、偉そうに。頼まれても願い下げだわ」
あざみは正義感が強く、曲がったことが嫌いだ。既婚者であることも相まって、今回の件に相当な嫌悪感を示していた。いつもはそんな彼女を宥めるのが私や茉莉花の役目だが、今ばかりは彼女のキツイ言葉に救われている。
「江島君、三年前から大阪に転勤で、美咲とは遠距離恋愛だったんでしょ? 絶対、それを狙ってたんだよ。百合音が大阪の企業に転職した時、気づくべきだったね」
「普通の人間だったら、略奪なんて考えもしないわよ。友人の彼氏と接するときは距離取るもんでしょ。大体、謝罪も何もなく招待状を送り付けるなんて、どんな神経してんのよ。ほんと、面の皮厚過ぎ。幸せになる権利無いよ、あの二人」
あざみの暴言が冴えわたる。けれど、ここで何を言っていても、あの二人が幸せに生活を送っていることは確かで、それを止める権利は私にはない。
招待状を見た時に迸った憎しみが再燃する。
式を挙げたいなら黙って挙げていれば良かったのに、どうしてわざわざ私に招待状を送った? 私に対する見せしめ? 何も気づかずに別れを受け入れた私を今度こそ嘲笑うため?
もし別れの原因が私にあったのだとしても、こんな仕打ちはあんまりだ。だったら二股をかける前に別れてくれれば良かったのに。百合音も、私に謝罪もせずにこんなものを送り付けるなんて、本当に酷い女だ。最低。二人とも幸せになる権利なんてこれっぽっちもないのに。
絶対に許せない。仕返ししてやらないと気が済まなかった。涙はもう枯れ果てている。私の憎しみをどうにかしてあの二人に伝えてやる。自分達のみっともない行いを恥じて、後悔すればいい。
どうすれば彼らに思い知らせてやれるのだろう?
今になって、あざみが結婚した時に花を贈ったことを思い出す。希望と幸福の象徴、ガーベラ。あの結婚式はとても幸せだった。あざみが綺麗なドレスに身を包んでいて、参列者は全員笑顔で。百合音と江島君が、そんな幸せな空間に包まれるなんて許されない。世界が許しても、私が許すものか。
「――決めた。あの二人に不吉な花を贈る」
「不吉って……仏花とか?」
「違うの茉莉花、そういう意味じゃなくて。憎しみを表す花を贈るの。知り合いに花屋の店員さんがいるから、何か良いものが無いか聞いてみる。それを、この二人の招待状に書いてあった、新居の住所に送りつけてやるの」
「美咲、本気なの? そんなことしたら恨みを買って、何が起こるか分かったもんじゃないよ」
「茉莉花、何を勘違いしてるの。先に恨みを買ったのはあの二人の方。式を挙げるなら黙ってれば良かったのに、わざわざ美咲を招待するなんて、美咲のことを傷つける意図しか感じられない。結婚式はそんなふうに使われるべきじゃない。あたしは美咲の行動を支持する」
あざみの力強い言葉に後押しされて、私は決意を固める。二人と別れた後、目的の人物と連絡を取った。大学時代の後輩・須ヶ口晴也だ。誰かに花を贈る時――昨年、あざみへ結婚祝いの花束を贈った時も、彼に相談に乗ってもらったのだ。
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