1 / 6
1
しおりを挟む
大学時代から八年間付き合っていた江島君に振られたのは、半年前のことだった。私は結婚も考えていたのに、彼はそうではないようだった。美咲のことはもう好きではないから、と彼は申し訳なさそうに告げてきた。
八年間も付き合っておいて、なんて無責任な人なのだろうと思った。でも、私に何か落ち度があったのかもしれないと無理やり涙を堪えて、別れを受け入れた。大学時代から応援してくれていた友人達にも報告をして、沢山励ましてもらった。次に進んだ方が良いよと言われて、傷ついた心をなんとか奮い立たせていた。
それなのに今、目を疑う事態が発生している。事の発端は、大学時代からの友人の一人である間橙百合音(まとうゆりね)から、結婚式の招待状が届いたことだ。問題なのは、新郎の欄に江島君の名前が記されていたことだった。式場が、ほんの数ヶ月そこらで手配できるわけがない。
江島君が二股をかけていて、最終的に百合音を選んだということを、私はその時初めて知った。悔しさと悲しさと、全てのものに対する不信感で胸が埋め尽くされていく。そういえば最近、百合音は友人の集まりに参加していなかった。
今まで気づかなかった自分を殴りつけてやりたくなる。それ以上に、百合音への憎しみが体全体から沸き立ってきた。
彼女はどうして、今まで何も言ってくれなかったのだろう。百合音は私と江島君が付き合っているのを知っていたはずなのに。私だけ何も気づかないまま、弄ばれていたのだ。友人だと思っていたのは私だけだったのだろうか。
大学時代から付き合いのある他の友人たちも、このことを知っていたのかもしれない。私に味方なんていなかったんだ。心臓が締め付けられていって、胸の底がどんどん冷えていった。
江島君と付き合っていた間は幸せだったはずなのに、その記憶が全て意味のないものへと塗り替えられていく。「美咲の明るくて優しいところが好きだ」と言ってくれていた江島君は、最初から存在しなかったのだろうか。別れの時は耐えていられたはずの涙が、堰を切ったように流れ出す。冷えた胸の底から、どす黒い感情が溢れるのを止められない。
今まで彼と過ごした時間も、百合音達と過ごした時間も、全てが私を嘲笑っている。どうして、どうしてと問うことしかできない。どうしてこんなに酷いことをするの? 私があなたたちに何をしたって言うのよ!
携帯が鳴り響いた。大学時代の友人である、小原あざみからの電話だった。招待状のことだというのはすぐに分かった。今の私には、誰かからの言葉を受け取れるほどの余裕はない。電話を取らないでいると、留守電に切り替わって、あざみの肉声がスピーカー越しに聞こえてきた。
「美咲。電話できる状態になったら連絡して。あたしはあんたの味方だからね」
あざみの言葉を信じていいのかどうか、今の私には判別がつかなかった。ただ、誰かにこの悲しみを知ってほしい。何かに縋れるなら縋りたい。憎しみと不信が私自身を壊す前に、逃げ場が欲しかった。
八年間も付き合っておいて、なんて無責任な人なのだろうと思った。でも、私に何か落ち度があったのかもしれないと無理やり涙を堪えて、別れを受け入れた。大学時代から応援してくれていた友人達にも報告をして、沢山励ましてもらった。次に進んだ方が良いよと言われて、傷ついた心をなんとか奮い立たせていた。
それなのに今、目を疑う事態が発生している。事の発端は、大学時代からの友人の一人である間橙百合音(まとうゆりね)から、結婚式の招待状が届いたことだ。問題なのは、新郎の欄に江島君の名前が記されていたことだった。式場が、ほんの数ヶ月そこらで手配できるわけがない。
江島君が二股をかけていて、最終的に百合音を選んだということを、私はその時初めて知った。悔しさと悲しさと、全てのものに対する不信感で胸が埋め尽くされていく。そういえば最近、百合音は友人の集まりに参加していなかった。
今まで気づかなかった自分を殴りつけてやりたくなる。それ以上に、百合音への憎しみが体全体から沸き立ってきた。
彼女はどうして、今まで何も言ってくれなかったのだろう。百合音は私と江島君が付き合っているのを知っていたはずなのに。私だけ何も気づかないまま、弄ばれていたのだ。友人だと思っていたのは私だけだったのだろうか。
大学時代から付き合いのある他の友人たちも、このことを知っていたのかもしれない。私に味方なんていなかったんだ。心臓が締め付けられていって、胸の底がどんどん冷えていった。
江島君と付き合っていた間は幸せだったはずなのに、その記憶が全て意味のないものへと塗り替えられていく。「美咲の明るくて優しいところが好きだ」と言ってくれていた江島君は、最初から存在しなかったのだろうか。別れの時は耐えていられたはずの涙が、堰を切ったように流れ出す。冷えた胸の底から、どす黒い感情が溢れるのを止められない。
今まで彼と過ごした時間も、百合音達と過ごした時間も、全てが私を嘲笑っている。どうして、どうしてと問うことしかできない。どうしてこんなに酷いことをするの? 私があなたたちに何をしたって言うのよ!
携帯が鳴り響いた。大学時代の友人である、小原あざみからの電話だった。招待状のことだというのはすぐに分かった。今の私には、誰かからの言葉を受け取れるほどの余裕はない。電話を取らないでいると、留守電に切り替わって、あざみの肉声がスピーカー越しに聞こえてきた。
「美咲。電話できる状態になったら連絡して。あたしはあんたの味方だからね」
あざみの言葉を信じていいのかどうか、今の私には判別がつかなかった。ただ、誰かにこの悲しみを知ってほしい。何かに縋れるなら縋りたい。憎しみと不信が私自身を壊す前に、逃げ場が欲しかった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
姉の代わりでしかない私
下菊みこと
恋愛
クソ野郎な旦那様も最終的に幸せになりますので閲覧ご注意を。
リリアーヌは、夫から姉の名前で呼ばれる。姉の代わりにされているのだ。それでも夫との子供が欲しいリリアーヌ。結果的に、子宝には恵まれるが…。
アルファポリス様でも投稿しています。
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる