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2章    海の街からの波瀾万丈

37話 だけど、やることはやるよな。面倒臭い事でも(題名つけ忘れ、誠に申し訳ありませんでした)

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「……リ、リリ?」

 セオドアは大いに戸惑っていた。なぜなら、先程まで気絶していると思っていた少女が起き上がり、自分の上に乗っかってきたからである。

「私も、いきます」

 そして、少女は想像もしなかったことを言う。

「へ?」

「私も、セオドア様といっしょにいきます!」











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










 事の次第は少し前、リリアンヌを抱えて宿屋に向かった時の事である。
 緊急事態故に、廻りは無人だった。
 セオドアはすぐに、グスカンとレオンハルトを見つけることができた。

「おう、おつかれ」

「師匠、大丈夫でしたか?」

 二人の問いかけに、軽く頷いて応える。

「リリアンヌは保護できた。大丈夫だ。
 怪我もない」

「良かったな。これからどうすんだ?」

 グスカンが言った。ギルドマスターの命令はこなしたが、この先どうすればいいのかわからかい。と、見覚えのある影がこちらに近づいていた。オリバーだ。
 セオドアの会いたくない人ランキングの上位常連者だが、そうは言ってられない。

「おい、作業に一区切りついたから来た。どうだ?」

「見てのとーり、リリアンヌは無事。俺達どうすればいい訳?」

 オリバーの質問に、グスカンが答えた。

「このままオレのところに来ても、あんまりアレだよなぁ。
 いつ命令つれて来いってくるか分かんねぇし」

 本人の意思が大切だが、今は気絶している。
 ある程度考えておいた方がいいだろう。

「とりあえず宿に入りますか、座りましょ」

「そうだな」

 という事で、宿屋で話し合う事になった。




「……親戚も知らないしなぁ」

「剣術道場?」

「あっちの意志も確認しなくてはならん」

「今かんがえても、無理じゃねぇか? これ」

 グスカンが言うが、それもそうだ。全て机上の空論でしかない。

「どうしようか……」

 セオドアが体を伸ばしながら、ベッドの上で眠るリリアンヌを見た。
 現在セオドア達は、ベッドの上のリリアンヌを囲むようにして座っている。
 完全に怪しい大人たちの図だ。

「んっ……」

 磨ると、リリアンヌが微かに身じろぎした。

「リリ!」

「リリアンヌ!」

「大丈夫ですか⁉」

 セオドア達が迫るが、リリアンヌはいまいち現状を理解していないようだ。
 それも当たり前だ。彼女の記憶は、父親に気絶させられたところで止まっているのだから。

「セオ、ドアさま……? なんでここに……あれ? お父様に私……」

 リリアンヌがゆっくりと起きあがる。

「リリ、実はな………」

 セオドアは、正直に話すことにした。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「お父様がそんな……おそろしいことを!!」

 驚きに目を見開いたリリアンヌが言った。まさか、父親が自分を教会に売ろうとしていたなど想像もつかなかっただろう。

「リリアンヌ……」

 グスカンと気まずげな顔をする。セオドアは変わらず無表情だ。

「わかって、いました。お父様が私をどうにかするって事は……分かって、いたんです。
 だから、そんなに悲しくありません」

 吐き出すように言ったリリアンヌを男達はなんとも言えない気持ちで眺めた。リリアンヌの気持ちが、哀れであった。

「それでな、お前のこの先の話をしていたんだ。
 どこか心当たりはあるか?」

 オリバーが聞いた。本人ならば、何か知っているかもしれない。

「親戚は、居りません。私を引取ってくれる方は居ないでしょう」

「そうか……希望はあるか?」

 それならば、知り合いのつてを頼ってもいいかもしれないと考えながら、オリバーが言った。

「希望?」

「あぁ、いきなりで申し訳無いがな」

「あります」

「なんだ」

「セオドア様といたいです」

「は?」

 一斉に呆ける四人。

「それは、栄光の祝福がいいって事か?」

「はい」

「「いやいやいやいやいや」」

 セオドアとグスカンが同時に首を振りながら言った。

「俺ら冒険者だし!」

「リリにはきついだろう」

「大丈夫です!」

「なんでよりにもよって!」

 セオドアが渋い顔をする。その瞬間、リリアンヌが襲いかかってきた。いや、セオドアの上に乗っかった。

「リ、リリ……?」

「私も、いきます」

 そして、少女は想像もしなかったことを繰り返し言う。

「へ?」

「私も、セオドア様といっしょにいきます!」



「落ち着け、俺は定住しないぞ。住む家なしだ」

「お家で私は、居場所がありませんでした」

「リリは戦えないだろう」

「“愛”を使います」

「使用人はいないぞ」

「昔からいないも同然でした。掃除洗濯、大体できます」

「体力無いだろう」

「あります! 辛くても平気です!」

 いくら言っても意思を変えないリリアンヌ。セオドアは、あまり言いたくなかった事を言うことにした。
 これを言えば、自分の心も傷ついてしますことは、容易に想像できた。

「俺は、お前の父親を殺したぞリリアンヌ」

 冒険者より、オリバーのつ伝の安定した家の方がいい。

「化物に変わるところを、止めもせず切り捨てた。死体は燃やしたぞ。
 親殺しの許にきたいか」

 リリアンヌが押し黙った。そして、俯いた。

「セオドア様は、どうしてお父様をころしたのですか?」

「化物に変わり、最早それしか手が無かった」

「だったら、仕方ないです」

「え?」

「冒険者の仕事です。それは」

「だが……!」

「私にざいあくかんがあるのなら、なおさら連れて行ってください!
 連れて行って、私をさみしくないようにしてください!
 それがつぐないです!」

 リリアンヌが顔を赤くしながら言い続ける。

「一緒に、いたいんです!」

 セオドアが天を仰ぐ。軽い現実逃避だ。

「なぁ、思ったんだが領主はセオドアが殺したんだよな」

 グスカンが突然言った。

「そうだ」

「今回の騒ぎは、領主も責任を取らなきゃなんねぇよな?」

「当たり前だ」

「でもその領主は居ない。領民はすぐに気がつくだろうな」

「暴動が起きるかもしれない」

 領主の無責任さにキレた民が、屋敷に押し寄せ物を奪ったり、壊したりするだろう。

「その時リリアンヌがここに居たらヤバくね?」

 リリアンヌが領主の娘である事は、見る者が見れば分かる。

「ヤバい」

 セオドアの顔が、サーッと青褪めた。

「危険ですね」

 つまり、八つ当たりの対象がリリアンヌになるかもしれないのだ。

「今回の魔物は片付けつつあるぞ。行動を起こされるのは時間の問題だ」

 オリバーもこう言う。

「つまり、この場所でのんびり引き取り手を探す訳にはいかないのか」

「そういう事だセオドア。どうする?」

「なぁ、少し我儘を言うぞ」

「どうぞ!」

 レオンハルトが何故か、嬉しそうな顔をした。

「リリを危険から守るため、一次的に引き取る。旅の途中で、ちゃんとした引き取り手を探す」

 グスカンがにやっと笑った。

「そうこなくっちゃな」

 実は、リリアンヌの生い立ちに同情していたグスカンは引き取れるなら引き取りたいなと思っていたのだ。

「だったらもう、行かなきゃなんねぇぜ」

 オリバーがパンッと手を叩く。

「面倒事は任せた」

「ここは格好良く、面倒事は任せろ!って言わせろよ!」

 オリバーが思わず突っ込んだ。

「世話になったな」

「また会いましょう!!」

「ありがとう御座いました。お母様も、喜んでいると思います」

 リリアンヌが頭を下げた。

「俺の事知ってんのか?」

「昔、一度だけお母様のものを見たときにあなたのことが書いてある手帳がありました。
 いい人だって、書いてありました」

 オリバーが少し、涙目になる。

「そうかぁ、幸せになれよ……!」

「はい!」

 これが、オリバーと栄光の祝福の最後の会話となった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「くぁー! どこに行くか!」

「北の方はどうだ?」

「次は山を見たいです!」

「この国を出るのもいいかもしれないな!」

「あの、よろしくお願いします。リリアンヌを・シンガライです」

 リリアンヌがペコリとお辞儀した。

「おう!」

「はい!」

「あぁ、宜しく」

 四人は歩き出した。その行き先は、誰も知らない。












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