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1章 徒然クラッシャー、現る
6話 よう! 久しぶりだな! 面白そうなことやってんじゃねーか
しおりを挟む「あの、どちら様ですか?」
レオンハルトが先程やってきた冒険者、焔の剣に尋ねる。
「あぁ、俺はB級冒険者、グスカン・べベス!! さっき聞いたとは思うが、二つ名は“焔の剣”だ!」
男、グスカンがキメ顔で言った。
大きな体と相まって、迫力を感じる。
「僕は、レオンハルト・リペクトラーといいます! B級だなんてすごいですね!」
レオンハルトもつられてキメ顔で自己紹介をする。
セオドアが呆れたように溜息を付いた。
「はぁ、何の用だ……?」
「ありがとよ! 坊っちゃん!
おい、そんなことよりどういう風の吹き回しだ?
お前がこんな坊っちゃんと一緒にパーティー組むなんてさ、平均さんよ。
俺が誘ったときは断っておいて」
グスカンがジトッとした目でセオドアを睨む。
どうやら彼とセオドアは浅からぬ関係らしい。
「あ、平均?」
「なんだ、知らないのか? こいつ、ギルドの申請試験と昇進試験、その他諸々ぜーんぶ、数字と結果が平均なんだよ。
だから平均って二つ名が付いているんだ」
テーブルの空いている席に勝手につきながらグスカンが答える。
「なるほど!」
「そんな訳あるか、こいつが勝手に呼んでいるだけだ」
しかし、セオドアは冷めた様子で否定している。
実際、グスカン以外に平均と呼ばれたことがない。
完全にグスカンのオリジナルだ。
「俺は広める予定だ!」
「やめろ」
はた迷惑なグスカンの宣言に呆れるセオドア。
その様子を見たレオンハルトが呟く。
「仲良しなんですね! お二人とも!」
「おう!」
「そんなことない」
全く違う二人の答えに思わず笑ってしまうレオンハルト。
すると、グスカンが何かを思い出したような顔をする。
「ん? レオンハルト・リペクトラー……?
レオンハルトって、もしかして勇者か?」
唐突に正体を当てられ、驚くレオンハルト。
まさか自分の名前を知っている者がいるとは思っていなかった。
「ええっ? なんでわかったんですか?」
「こいつ、勇者とか英雄とか好きでな、そういうのに詳しいんだ。創神教は勇者の名前を公開しているから」
「そうなんですか!……でも、僕あまり強くないんですよ……ランクもまだE級ですし…」
レオンハルトが落ち込んだ様子で言う。
己の実力が “勇者” という称号に見合わないと知っているからだ。
その様子を見たグスカンが熱く語りだす。
「そうだな、レオンハルトはまだまだ弱い、しかし! 勇者ってのは可能性の塊なんだぜ!
これからお前はどんどん強くなるんだ!」
「グスカンさんっ! ありがとうございます!」
グスカンの言葉に感動するレオンハルト。
ガシッと手を組み、友情を深める。
彼らは気が合うようだ。
「それは置いといて! なんでパーティーなんか組んでんだよ! ずっと! ソロで! 一匹狼気取ってた! お前が!」
グスカンが納得できないといった表情で叫ぶ。彼は何度かセオドアをパーティーに誘ったのだ。
しかし、けんもほろろに断られてしまっていた。
知らない奴ととパーティーを組むのが納得行かないのだろう。
「別に一匹狼を気どっていた訳ではない。
やむにやまれぬ事情があったんだ。」
「ほーう? 何だそれは?」
「言えんな」
セオドアは冷たく返す。相手にするつもりはないらしい。
顔をしかめるグスカン。面白くない。
「チッ、何だよつまんねーな……よしっ!」
そして、不満そうな顔から一転、グスカンがニヤリと笑う。
そしてパーティー申請書に手を伸ばし、サラサラと何かを書きつける。
そして爆弾発言をした。
「俺もこのパーティー入るわ」
「はあああああああああああぁっ!?」
セオドアが驚きの声をあげる。
「えええええええええええええっ!?」
遅れてレオンハルトが叫ぶ。
「ししょ…セオドアさんが大声あげてるっ!」
レオンハルトがビビる。そこなのか、驚くところは。
「何をそんなに驚いてるんだ?」
グスカンはどこ吹く風で耳をほじっている。彼もかなりのマイペース人間だ。
「いらない、お前、いらない」
セオドアが片言で言う。
顔も不機嫌さが二十倍ほどになっていることから納得していないことが分かる。
「なんでだよー!」
「いいじゃないですか」
そしてレオンハルトがグスカンを援護する。どうやら彼を気に入ったらしい。
何も考えていない可能性もあるが……。
「大体、こいつとパーティー組んだのも、やむにやまれぬ事情があったからだ。これ以上いらん」
落ち着きを取り戻したセオドアが素気無く断る。いきなり大声を出した為、決まりが悪そうだ。
「そういえばお前目立ちたくなかったんだよな」
「そうだ。知ってたなら還れ、土に還れ」
あ~っそうだった! と思い出した風のグスカンに、暴言を返すセオドア。
……もうこれ以上目立ちたくない。
勇者と焔の剣とパーティーを組んでいるなんて目立って仕方ないだろうと考えている。
「フッフッフ……じゃあさ、考えてみろよセオドアくん?
ふふっ、ふふっ、ふふふっ」
「唐突にウザくなった……何だ?」
いきなり、グスカンが勿体ぶった調子で言った。笑い声が少々気持ち悪い。
「勇者のパーティーメンバー、これは目立つ。それに、いくら秘密にしたってバレるだろうな。
しかもお前のほうがランクが高いからリーダーになってしまう。
リーダーは何かと目立つ。パーティーの顔といってもいい位だから」
「そうだな」
「そこでだ、俺がこのパーティーに入る。
そりゃあ話題になるだろう。
今までソロを貫いてきた天才冒険者、グスカン様だからな!
ああっ……まてまて、紙を破ろうとするな! 続きを聞け!
ったく、せっかちだな……そうしたら必然的に俺がリーダーになる。これでお前が目立つ要因の一つが減った」
「だが、それについてはなんとかなる問題だ。あいつのランクを上げさせればいいだけの話だからな。
冒険者ランクは基本、本人の申請がないと上がらない。俺がランクを上げずにいればいいだけだ」
「俺は一つ減った、とだけ言ったんだ。
まだ解決する問題はあるぜ! 俺がまるっと解決してやんよ!」
ドヤ顔で言うグスカン。かなり自信があるようだ。
「俺とレオンハルトがパーティーを組んだら、周りはその事ばかりに注目するだろう。
その間お前は隅の方でじっとしていればいいんだ。僕はただの荷物持ちですぅーって顔しながら。
そうしたらみーんなお前に注目なんてしないぜっ!
もし、なんか言われても俺が同期の誼で誘ったといえばいい。
たまにあるからな、そういう身内贔屓だけで作ったようなガタガタパーティーは」
最後までドヤ顔で言い切ったグスカン。
確かに一理ある。
この二人が注目されたとき、うまく動けばセオドアに目を向ける奴なんて殆どいないだろう。
冒険者には脳筋、というかバカが多い。
目先のセンセーショナルなことには取り敢えず飛びつく習性がある。
一部が猜疑の目を向けも、数の理論で押し通せるだろう。
(だがなぁ…………)
なんとなくグスカンの言うとおりになるのは腹が立つ。
思惑通りに事が運ばれたときのグスカンがするであろうドヤ顔が頭に浮かんだ。
……しかし、感情論だけで断るには惜しく感じてしまっている自分もいる。
チラッと前を見る。…………レオンハルトがキラキラとした瞳でこちらを見ていた。
今のセオドアの気持ちは、捨て犬を拾ってきた子供を見る親と同じだろう。
「B級冒険者の俺は、そこそこに金持ちだぜ? 家を一軒買えるくらいには持っている」
なおも売り込みを仕掛けてくるグスカン。高い財力は魅力だ。
しかし、セオドアも、冒険者をやりながらだったら、二人くらいその日暮しでも何とかなるくらいには持っている。
レオンハルトも、装備はいいものだしそこそこ持っていると思われr「すごいです! 僕の全財産、今のところ 500デイラ(1デイラ=1円)だけなんですよ!」
「……まてまてまてまて、なんでお前それしか持っていないんだ? 昼食代一人分で飛んでくぞ!」
グスカンが驚きの声を上げる。
証拠とばかりに巾着袋の中身を見せてくるレオンハルト。この国で一番価値の低い、小銅貨だけで500デイラあった。
「なんでお前それしか持ってないんだよ………」
「教会ってお小遣い殆どくれないんですよ。金銭を求める者は卑しき者だからって……
それに冒険者活動で稼いだ分も殆ど取られちゃうんで、頑張って貯めました!」
教会の闇を見た気がした。なんか勇者に厳しい。
「おいおい、じゃあ今現在、どうしているんだ? まだ教会にいるのか?」
「いえ、十五歳になったら自由にしていいって決まりなんですよ。だから、二週間前に十五歳になった僕は自由ですっ! 儲けを九割九分九厘、取られることもないんです!
冒険者活動を始めたのは、半年くらい前からなんですけどね。なので、実質二週間しか稼げてないんです」
「「………………」」
E級冒険者が受けることのできる依頼は力仕事や、郵便配達などの、子供のお使いに毛が生えた程度だ。
二週間ではそれが妥当なのかもしれない。
((教会こわい…………))
「何だ、その、いや良かったな……」
グスカンが歯切れの悪い口調でフォローする。
「なんか不安になってきた。お前本当に大丈夫か?」
セオドアも、若干顔色が悪い。
「大丈夫ですよっ!」
「そんなときに! 安心安全のグスカン・べベス! 仲間にするしかないぜ!」
セールスを繰り返すグスカン、だんだん訳がわからなくなってきた。
後、ちょっとどうでも良くなってきた……。
「あーもう、わかった。パーティーを組もう」
…………
「いよっしゃああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!」
「良かったですね! グスカンさん! 僕も嬉しいです!」
「はぁ」
ぐでっと顔を突っ伏す。顔は苦虫を噛み潰したようになっているだろう。
…………なんだかデジャヴだ。最近、こんなことばかりな気がする。
(俺が何したって言うんだ……)
喜ぶグスカンとレオンハルトを睨みながら、セオドアはそんなことを考えていた。
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