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第5章 ~ペイン海賊団編~
―93― 襲撃(37)~英雄たちは無敵じゃない ディランvsジム~
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トレヴァー vs ルイージ、そしてルーク vs エルドレッド。
だが、ルークの右拳がエルドレッドの左頬で炸裂する少し前に物語の時を巻き戻そう。
本来なら時という者は巻き戻せはしないし、血が溢れた傷口が瞬く間にふさがったり、死んだ者が帰ってくることなどはないが……
トレヴァーと同じく、殊更に余裕のない状況へと追い込まれていた、もう1人の者・ディラン。
彼も明らかに自分よりも数段、剣の腕に秀でた海賊と戦っていた。
奴とディランの力の差も、如実であった。
ディランは、風を切り裂き血肉を裂かんとする奴の刃をなんとか”防ぎ続けていた”。
そのうえ、彼が今、対峙している相手は剣技が数段勝っているというだけではない。彼はかつての同僚と――数年前まで寝食をともにしていた”(仲は最悪だったにしろ)一種の家族”ともいえる関係であったジェームス・ハーヴェイ・アトキンスと、戦っていたのだから。
数年前の別れの時も、ジム&ルイージと自分たちは、互いにろくすっぽ別れの挨拶をすることもなかった。”エルドレッドや”ランディーのように別れを惜しんで自分たちと抱き合ったりなんてことももちろんなく、そのままとうに縁が切れた者たちだと思っていた。
だが、奴らと過去に紡いだ縁は切れてなどおらず、こうして海にて因縁に満ちた再会をしてしまった。
ディランの瞳に映る21才のジムは、今も目鼻立ちがわりと整っていることには変わりはない。だが、その険のある目つきや滲み出てくる性悪さや凶悪さは、数年前よりも増している。
身長の割に手足が長く均整の取れた体つきなことも変わりはないが、ジムのまくりあげた袖や裾から見えるその筋肉は、野生の獣のごとく”さらに”引き締まってもいた。
ジムの肌は、海賊らしく(?)陸地で暮らしていた頃よりもやや日に焼けたようなトーンにも変わっていた。けれども、他の海賊たちのように(例えば、あのロジャーとかいう鉈使いたちに比べると)肌そのものはそう荒れてはおらず、海賊にしては美肌な方であるだろう。
だが、全身より荒み切った生活――生き方をしていることは、世の大多数の者が見ても一目で感じ取れるだろう。裏社会にたっぷりと浸かりきり、もう娑婆では絶対に生きられないような凄まじい奴のオーラを……
その奴から発され続けているのは、本物の容赦なき殺意だ。
生か死か、どちらかだ。
今現在、ディランが追い込まれている状況を考察すると、「生」の天秤はジムへと傾き、「死」の天秤はディランへと傾いているのは明らかであった。
――こいつ……!
だが、ジムもまた、目の前のディランが自分の剣を防ぎ続けていることに、ほんの少しばかり体の奥から立ち上ってくる”苛立ち”のごときねばつきを己の肌に感じていた。
ジムは、ディランと面識がある。彼と今日ここで初めて顔をあわせたというわけではない。彼とルークは、自分とルイージには及ばないにしても、身体能力や習得能力に優れているということを分かってはいた。
――やっぱり……てめえはなかなかにデキる野郎だな。昔も(正義の味方ぶって)俺とルイージに真っ向から生意気に立てついてくるウゼえ野郎どもは、てめえらぐらいだったしな。
ジムにとっては、ディランが”自分の剣を防ぎ続けていること”は、まずまず想定内であったのだろう。だから焦りはないが、目の前の獲物と完全に決着をつけるには、いつもより時間がかかるであろうことに苛立ちを感じているのだ。
戦闘中にも関わらず、わりと形のいい鼻より、フッと馬鹿にしたような息を吐いたジム。
「おい、”てめえら2人”。揃いも揃って、異例の大出世したみてえだな」
ディラン vs ジムの戦いにおいては、あろうことかジムの方から口火を切ったのだ。
ディランは答えない。
一体、ジムは何を考えているのか? 明らかに奴に押されている獲物(ディラン)に喋ることで集中力を削ぎ、防御の綻びの糸を生じさせ、一気に止めをさすつもりなのか?
「返事ぐらいしろっての。俺は一応、てめえらの元先輩だぜ」
ジムが猛禽類のごとき鋭い眼光を光らせ、鋭い爪のごとき剣をディランに向かって振りかざす。喋っているというのに、奴の剣筋に乱れはない。
やはり、奴の剣を手に戦う者としての資質も飛び抜けていた。
恵まれた資質。
国に仕える正統な兵士――戦闘と守備のプロとして、生きることを選択しても適性は充分すぎるほどにあっただろう。けれども、奴は兄弟同様に育ってきたであろうルイージとともに”戦闘と殺戮のプロ”として生きることを選択し、今こうして、かつての同僚へと容赦ない殺意を風とともに発しているのだ。
ガキン! と剣は交わり――いや、ディランがジムの剣を防いだ。彼は、互いの熱い息がかかるほどの距離で再び睨み合った。
「……この剣で……っ……お前は一体、何人……殺してきたんだ?」
息を喘がせながらディランが問う。ディランの息はあがっていた。
”やっと、喋る気になりやがったか”というようにジムは、ククッと喉を鳴らす。
ペイン海賊団が、有名に――悪名をはせるようになったのはここ数日のことじゃない。数年前から、奴らは海で暴れまくっていたらしい。それは、ディランも出港前にトレヴァーから聞いてはいた。
「……ンなモン、いちいち数えているわけねえだろ。”死んじまった奴ら”が何人かなんてことより、てめえ自身と、”てめえのお仲間”の心配した方がいいんじゃねえのか? てめえは、俺の剣の”世話になる”のは確定として、他の奴らはうち(ペイン海賊団)の野郎どもがギッタギタにしてるところだろうしよ」
”絶望へと向かって”背中を押し出してくるようなジムのその言葉に、ディランは顔を悔し気に歪ませた。
仲間たちの安否。
皆、持ちこたえているのか?
ジムに狙いを定められ、剣を交え始めてからというもの、ディランは仲間たちの――ルーク、トレヴァー、ヴィンセント、フレディ、ヒンドリー隊長たちの安否を確認する余裕などあるはずもなかった。
けれども、ジムを真正面から倒さない限りは、あるいは例え刺し違えてでもジムをここで食い止めなければ、ともに出港した仲間たちが新たな犠牲となってしまう。
カシャン! と2本のいがみあう剣は離れ、再び剣の主たちは構え直す。
やはりジムの方が動きは早い。
それに本人が言う通り、相当に場慣れもしている。何人――いや、何十人単位の罪なき者の命を奪ってきたジム。今日、奴はその何十人目かに、ディランを加えようとしている。
なんとかジムの剣を防ぎ続けることができているディラン。だが、あと何回、奴の刃を防ぎ続けることができるのであろうか?
「やっぱ、てめえ、顔に似合わずポテンシャルが高いな。何があっても諦めずに最期の最期まで戦い抜く英雄気取りってとこかよ。何も守れやしねえのに。カンゼンチョーアク(勧善懲悪)ってのは、ガキ向けの物語だけのモンだっての」
闘志の炎を決して消さないディランを見たジムが、低い声で笑う。
「てめえとルークの生首、親方”にも”手土産として持っていくこととするわ。あのおっさんとも感動の再会ができるぜ。まあ、てめえは死んじまってるけどよ」
ディランは唇をギリリと噛みしめた。
ジムはそれをディランが傷ついたととったらしかった。
「ンだよ、その顔? もしかして、思い出の中であのおっさんのこと美化でもしてたってワケかよ? あのおっさん、今も昔も単なる酒浸りのおっさんでしかねえよ。おまけに自分の娘でもおかしくないぐらいの若い女といい年してヤりたがるし、俺たちも正直困ってンだよ」
ディランも、そしてルークも、決して思い出の中の親方――セシル・ペイン・マイルズを美化していたわけではない。それに、彼ら(ジムも含め)はまだ若いから実感がないのかもしれないが、男が若い女を好むということは(実行にうつすかうつさないかに大きな違いはあるが)種を残したいという男の本能から来る欲求であるのかもしれない。
ディランもルークも昔は少年――子供であった。
13才当時には、親方の背中がとても大きく見えており、しかも親方のように厳つい顔面と厳つい肉体というダブルパンチのような迫力があったため、なおさら親方は――大人の男は強大な存在に見えてもはいた。
だが、ともに暮らすうちに子供であったディランにも分かるほど、親方の大人としての綻びは出てきていた。あの人は、単に自分より長く生きただけの人であったのでは、と。
そのうえ、親方は、いまや悪名高きペイン海賊団の頭となっている。
40代半ばに差し掛かっている親方は、大人としての綻びを垣間見せてはいたものの、人生の大半を真っ当に生き、周りからも出来た人――身寄りのない少年たちを集めて、躾けて(?)、職を与えて、食べさせている人――だとの評価を下されていたにも関わらず、培ったものを全て捨ててまで……
正直、”いい年しての超転落人生”だ。
まるで綻んだ糸をほどきにほどき、もみくちゃにして、こんがらがらせたかのような……
まだ子供であったジムやルイージを正しい道へと導く(いや、だが奴らの性根は凶悪すぎるので、親方だけでなく教育の専門家の力をもってしても難しいかもしれないが)のではなく、ともに美しい海を血と悲鳴に染め続けてきたのだ。
「ディラン、てめえにとっては……あのおっさんよりも、すかした絵描き気取り(エルドレッド)が海賊になったってことの方が、ショックだったろ?」
ジムは片方の唇の端を歪ませ、まるでルイージのような笑みを見せた。
こうもベラベラ喋っているにも関わらず、ジムの剣筋にはまだまだ”確実な乱れ”は見られなかった。
「実を言うなら、俺たちの昔の同僚で”現・ペイン海賊団”なのは、エルドレッドだけじゃねえんだけどな。てめえらのよく知っている”あいつ”も、今じゃ立派な一員ってワケよ」
ジムは、わざと含みを持たせて”あいつ”の名を――ペイン海賊団の見張りボーイ、ランディー・デレク・モットの名をディランには言わなかった。
――”あいつ”が誰のことを言ってるか知りたいか? てめえらは、あいつのこと”ショタ可愛い弟ポジションのランディー”なんてイメージを抱いていたんだろうが、あの短小ヘタレ(ランディー)も今や立派な俺たちの仲間なんだよ。
だが、ルークの右拳がエルドレッドの左頬で炸裂する少し前に物語の時を巻き戻そう。
本来なら時という者は巻き戻せはしないし、血が溢れた傷口が瞬く間にふさがったり、死んだ者が帰ってくることなどはないが……
トレヴァーと同じく、殊更に余裕のない状況へと追い込まれていた、もう1人の者・ディラン。
彼も明らかに自分よりも数段、剣の腕に秀でた海賊と戦っていた。
奴とディランの力の差も、如実であった。
ディランは、風を切り裂き血肉を裂かんとする奴の刃をなんとか”防ぎ続けていた”。
そのうえ、彼が今、対峙している相手は剣技が数段勝っているというだけではない。彼はかつての同僚と――数年前まで寝食をともにしていた”(仲は最悪だったにしろ)一種の家族”ともいえる関係であったジェームス・ハーヴェイ・アトキンスと、戦っていたのだから。
数年前の別れの時も、ジム&ルイージと自分たちは、互いにろくすっぽ別れの挨拶をすることもなかった。”エルドレッドや”ランディーのように別れを惜しんで自分たちと抱き合ったりなんてことももちろんなく、そのままとうに縁が切れた者たちだと思っていた。
だが、奴らと過去に紡いだ縁は切れてなどおらず、こうして海にて因縁に満ちた再会をしてしまった。
ディランの瞳に映る21才のジムは、今も目鼻立ちがわりと整っていることには変わりはない。だが、その険のある目つきや滲み出てくる性悪さや凶悪さは、数年前よりも増している。
身長の割に手足が長く均整の取れた体つきなことも変わりはないが、ジムのまくりあげた袖や裾から見えるその筋肉は、野生の獣のごとく”さらに”引き締まってもいた。
ジムの肌は、海賊らしく(?)陸地で暮らしていた頃よりもやや日に焼けたようなトーンにも変わっていた。けれども、他の海賊たちのように(例えば、あのロジャーとかいう鉈使いたちに比べると)肌そのものはそう荒れてはおらず、海賊にしては美肌な方であるだろう。
だが、全身より荒み切った生活――生き方をしていることは、世の大多数の者が見ても一目で感じ取れるだろう。裏社会にたっぷりと浸かりきり、もう娑婆では絶対に生きられないような凄まじい奴のオーラを……
その奴から発され続けているのは、本物の容赦なき殺意だ。
生か死か、どちらかだ。
今現在、ディランが追い込まれている状況を考察すると、「生」の天秤はジムへと傾き、「死」の天秤はディランへと傾いているのは明らかであった。
――こいつ……!
だが、ジムもまた、目の前のディランが自分の剣を防ぎ続けていることに、ほんの少しばかり体の奥から立ち上ってくる”苛立ち”のごときねばつきを己の肌に感じていた。
ジムは、ディランと面識がある。彼と今日ここで初めて顔をあわせたというわけではない。彼とルークは、自分とルイージには及ばないにしても、身体能力や習得能力に優れているということを分かってはいた。
――やっぱり……てめえはなかなかにデキる野郎だな。昔も(正義の味方ぶって)俺とルイージに真っ向から生意気に立てついてくるウゼえ野郎どもは、てめえらぐらいだったしな。
ジムにとっては、ディランが”自分の剣を防ぎ続けていること”は、まずまず想定内であったのだろう。だから焦りはないが、目の前の獲物と完全に決着をつけるには、いつもより時間がかかるであろうことに苛立ちを感じているのだ。
戦闘中にも関わらず、わりと形のいい鼻より、フッと馬鹿にしたような息を吐いたジム。
「おい、”てめえら2人”。揃いも揃って、異例の大出世したみてえだな」
ディラン vs ジムの戦いにおいては、あろうことかジムの方から口火を切ったのだ。
ディランは答えない。
一体、ジムは何を考えているのか? 明らかに奴に押されている獲物(ディラン)に喋ることで集中力を削ぎ、防御の綻びの糸を生じさせ、一気に止めをさすつもりなのか?
「返事ぐらいしろっての。俺は一応、てめえらの元先輩だぜ」
ジムが猛禽類のごとき鋭い眼光を光らせ、鋭い爪のごとき剣をディランに向かって振りかざす。喋っているというのに、奴の剣筋に乱れはない。
やはり、奴の剣を手に戦う者としての資質も飛び抜けていた。
恵まれた資質。
国に仕える正統な兵士――戦闘と守備のプロとして、生きることを選択しても適性は充分すぎるほどにあっただろう。けれども、奴は兄弟同様に育ってきたであろうルイージとともに”戦闘と殺戮のプロ”として生きることを選択し、今こうして、かつての同僚へと容赦ない殺意を風とともに発しているのだ。
ガキン! と剣は交わり――いや、ディランがジムの剣を防いだ。彼は、互いの熱い息がかかるほどの距離で再び睨み合った。
「……この剣で……っ……お前は一体、何人……殺してきたんだ?」
息を喘がせながらディランが問う。ディランの息はあがっていた。
”やっと、喋る気になりやがったか”というようにジムは、ククッと喉を鳴らす。
ペイン海賊団が、有名に――悪名をはせるようになったのはここ数日のことじゃない。数年前から、奴らは海で暴れまくっていたらしい。それは、ディランも出港前にトレヴァーから聞いてはいた。
「……ンなモン、いちいち数えているわけねえだろ。”死んじまった奴ら”が何人かなんてことより、てめえ自身と、”てめえのお仲間”の心配した方がいいんじゃねえのか? てめえは、俺の剣の”世話になる”のは確定として、他の奴らはうち(ペイン海賊団)の野郎どもがギッタギタにしてるところだろうしよ」
”絶望へと向かって”背中を押し出してくるようなジムのその言葉に、ディランは顔を悔し気に歪ませた。
仲間たちの安否。
皆、持ちこたえているのか?
ジムに狙いを定められ、剣を交え始めてからというもの、ディランは仲間たちの――ルーク、トレヴァー、ヴィンセント、フレディ、ヒンドリー隊長たちの安否を確認する余裕などあるはずもなかった。
けれども、ジムを真正面から倒さない限りは、あるいは例え刺し違えてでもジムをここで食い止めなければ、ともに出港した仲間たちが新たな犠牲となってしまう。
カシャン! と2本のいがみあう剣は離れ、再び剣の主たちは構え直す。
やはりジムの方が動きは早い。
それに本人が言う通り、相当に場慣れもしている。何人――いや、何十人単位の罪なき者の命を奪ってきたジム。今日、奴はその何十人目かに、ディランを加えようとしている。
なんとかジムの剣を防ぎ続けることができているディラン。だが、あと何回、奴の刃を防ぎ続けることができるのであろうか?
「やっぱ、てめえ、顔に似合わずポテンシャルが高いな。何があっても諦めずに最期の最期まで戦い抜く英雄気取りってとこかよ。何も守れやしねえのに。カンゼンチョーアク(勧善懲悪)ってのは、ガキ向けの物語だけのモンだっての」
闘志の炎を決して消さないディランを見たジムが、低い声で笑う。
「てめえとルークの生首、親方”にも”手土産として持っていくこととするわ。あのおっさんとも感動の再会ができるぜ。まあ、てめえは死んじまってるけどよ」
ディランは唇をギリリと噛みしめた。
ジムはそれをディランが傷ついたととったらしかった。
「ンだよ、その顔? もしかして、思い出の中であのおっさんのこと美化でもしてたってワケかよ? あのおっさん、今も昔も単なる酒浸りのおっさんでしかねえよ。おまけに自分の娘でもおかしくないぐらいの若い女といい年してヤりたがるし、俺たちも正直困ってンだよ」
ディランも、そしてルークも、決して思い出の中の親方――セシル・ペイン・マイルズを美化していたわけではない。それに、彼ら(ジムも含め)はまだ若いから実感がないのかもしれないが、男が若い女を好むということは(実行にうつすかうつさないかに大きな違いはあるが)種を残したいという男の本能から来る欲求であるのかもしれない。
ディランもルークも昔は少年――子供であった。
13才当時には、親方の背中がとても大きく見えており、しかも親方のように厳つい顔面と厳つい肉体というダブルパンチのような迫力があったため、なおさら親方は――大人の男は強大な存在に見えてもはいた。
だが、ともに暮らすうちに子供であったディランにも分かるほど、親方の大人としての綻びは出てきていた。あの人は、単に自分より長く生きただけの人であったのでは、と。
そのうえ、親方は、いまや悪名高きペイン海賊団の頭となっている。
40代半ばに差し掛かっている親方は、大人としての綻びを垣間見せてはいたものの、人生の大半を真っ当に生き、周りからも出来た人――身寄りのない少年たちを集めて、躾けて(?)、職を与えて、食べさせている人――だとの評価を下されていたにも関わらず、培ったものを全て捨ててまで……
正直、”いい年しての超転落人生”だ。
まるで綻んだ糸をほどきにほどき、もみくちゃにして、こんがらがらせたかのような……
まだ子供であったジムやルイージを正しい道へと導く(いや、だが奴らの性根は凶悪すぎるので、親方だけでなく教育の専門家の力をもってしても難しいかもしれないが)のではなく、ともに美しい海を血と悲鳴に染め続けてきたのだ。
「ディラン、てめえにとっては……あのおっさんよりも、すかした絵描き気取り(エルドレッド)が海賊になったってことの方が、ショックだったろ?」
ジムは片方の唇の端を歪ませ、まるでルイージのような笑みを見せた。
こうもベラベラ喋っているにも関わらず、ジムの剣筋にはまだまだ”確実な乱れ”は見られなかった。
「実を言うなら、俺たちの昔の同僚で”現・ペイン海賊団”なのは、エルドレッドだけじゃねえんだけどな。てめえらのよく知っている”あいつ”も、今じゃ立派な一員ってワケよ」
ジムは、わざと含みを持たせて”あいつ”の名を――ペイン海賊団の見張りボーイ、ランディー・デレク・モットの名をディランには言わなかった。
――”あいつ”が誰のことを言ってるか知りたいか? てめえらは、あいつのこと”ショタ可愛い弟ポジションのランディー”なんてイメージを抱いていたんだろうが、あの短小ヘタレ(ランディー)も今や立派な俺たちの仲間なんだよ。
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