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第7章 ~エマヌエーレ国編~

―78― 白魔(3)「フレディ含む7人の青年兵士を凍らせた人物の答え合わせ」後編

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 白と灰色で構成されていた視界に突然に生じた赤。
 苦悶とともに吐き出された血は、みるみるうちに雪に浸み込んでいく。

 「どうしたんだ?!」「大丈夫か?!」といった言葉がフレディ含む六人の口から反射的に飛び出してしまったが、問うよりも迅速な救命行動を優先すべき状況なのは明らかである。
 あまり体を動かさず、安静にさせたままの方が良い場合もあるだろうが、ここは場所が場所だ。
 次の任務地まで、あとどれぐらいだ?
 先刻までいた任務地にまで引き返した方が確実だし早いのではないか?
 ともかく一刻も早く運ばなければ――!!!

 六人で交代しながら、彼と彼の荷物を背負い、全速力でこの山間部から折り返す……はずだった。
 だが、また別の仲間が「ぐ……っ!」という同一の種類の呻きとともに口元を抑えたのだ。
 その口から吐き出されたのは、やはり血だ。
 この彼もまた、その場に崩れ落ち、雪もまた、みるみるうちに二人目の新しき血を吸収していく。

 けれども、この二人だけでは終わらなかった。
 三人目、四人目、五人目……の苦痛の呻きと吐血が、”次々に”この場を驚愕と混乱に塗りつぶしていった。

 七人のうち五人が吐血し、倒れた。
 この時点でのフレディは、倒れなかった方の二人に振り分けられてはいたものの、何が……いったい何が起こっている?!
 
「……っ……!」

 しかし、フレディの肉体にも明確な異変が現れた。
 立っていることもできなくなり、膝から崩れ落ちた。
 膝へと浸み込む冷たい雪。
 だが、その冷たさを無慈悲までに凌駕するほどの熱がフレディの体内で暴れていた。
 臓腑が煮えたぎるように熱い。
 体内を流れる血がたてているドクドクといった音までもが聞こえてくるようだ。
 いや、血が暴れているのだ。
 暴れ狂う血は意志を持った無数の蛇のごとく、己が皮膚を突き破らんとしている――!!!

 フレディと同じく倒れていない方に振り分けられていた仲間もまた、雪の上に仰向けに倒れていた。
 彼は血こそ吐いていないも鼻血を出し、「なんだよ……これ……っ……!?」と苦し気に喘いでいた。

 本当に何が起こっているんだ?
 誰一人として外傷は負ってはおらず、自分も含め、先天的な疾患を持っている者など皆無だ。
  何より症状が出てきたが、わずかに早いか遅いか、そして重いか軽いかの差はあれど、皆、同じ症状だ。

 腰に挿していた剣を杖上がりとし、フレディは立ち上がろうとした。
 両脹脛に内側から獣の牙を立てられたような痛みが走ったが、症状が比較的軽い、一番体の自由が利くのは自分であるとフレディは見て取った。
 だから……俺が助けを呼ぶしかない。
 走ったり、大声を出したりすることは無理であっても、狼煙をあげて緊急事態を知らせることはできる……いや、俺が知らせなければならない――!
 今は皆かろうじて息があるも、もう一刻の猶予もない状況なのだから。

 伝染病の類か?
 それとも、毒でも盛られたのか?
 最後に食事をしたのは出立前……わずか数時間前だ。
 七人ともが同じ物を口にしていたし、満足に食べることができるのが次はいつになるのか定かでもないこともあって、皆、出された食事は完食していた。
 体を温めるからと、酒もわずかに……二口、三口分程度であったが貰った。
 出された食事や酒の味には何ら違和感を感じることはなかった。
 そもそも敵兵に出されたものではなく、所属している兵団から出されたのだ。
 身分なき一兵士たちなど”使い捨ての命”でしかなくとも、兵団がまだ使える駒を使えなくしたところで何の特になる?
 
 這いつくばりながらも、フレディは狼煙をあげるための木の枝を何とか集めることができた。
 指先には、断続的に内側から錐で突かれているかのような痛みが走り、爪が剥がれて浮き上がっているのではないかと思うほどだ。
 絶え間ない激しい苦痛と思うように体を動かせない悔しさ、そして焦りに唇を噛んだフレディの視界が、その明度を急にガクンと下げた。

 太陽すら見放された七人の若者たちの頭上には、巨大でどす黒い蜘蛛のような物体が浮かんでいた。
 怪物としか言いようのない異形。
 異形から発せられているは捕食者としての欲望のみだ。
 その異形の腹の下に……自分たちと数メートルしか離れていない距離に”いつの間にか”、黒衣に身を包んだ白髪頭の見知らぬ男が立っていた。

 フレディは悟った。
 いや、瞬時に”答え合わせ”をした。
 全ては仕組まれていたのだ、と。
 兵団は……自分たちが所属している組織は、内部から腐っていた。
 七人とも同じタイミングで同じ配属先(任務地)に異動の命を受けたことには、やはり不穏で不吉な目的が隠されていた。
 その目的が何かなど見当もつかないし、心当たりもない。
 ただ突然に現れた白髪頭の爺さんは……一目で魔導士だと分かる爺さんは、自分の身分というか所属を隠す気はさらさらないようであった。
 その身を包んでいる上等の黒衣には、我がアドリアナ王国の紋章が刻まれていたのだから……。
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