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第7章 ~エマヌエーレ国編~

―55― 市場にて(9) ペイン海賊団も、ついに年貢の納め時か。

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 ついに年貢の納め時か。
 ペイン海賊団の二本の柱、ジェームス・ハーヴェイ・アトキンスとルイージ・ビル・オルコットが捕らえられたなら、ペイン海賊団は実質的にはもう終わりだ。
 エルドレッド・デレク・スパイアーズも含め、まだ海の上にいる本船待機組の構成員たちも多数いるが、この二人が捕らえられたことを知らされたなら、空中分解してしまうに違いない。

 迫りくる幾つもの馬蹄の音。
 それらを”中から打ち破るかのように”空へと向かって、ズドォォン!!!と爆音が発された。
 その爆音であるも、兵士たちや海賊たちの誰もが初めて聞く種類のものであった。
 仮にこの場にレイナがいたとしたなら、すぐに銃声だと――威嚇のために発砲されたのだと――分かったろうが。
 
 ジムやルイージも、自分たちが求めていた最新式の武器(殺戮道具)をこのタイミングで実際に目にするとは何たる運命の皮肉であるのか。
 そして、奴らがそれを好き勝手にぶっ放すことができる機会など、もはや永遠にやってこないであろうことも状況的に明白であったが。

 なお、この世界のこの時代の者たちにとって、銃とはやはり相当な希少品であった。
 駆け付けてきた警備の者たち二十数名全員に支給されているわけではなく、手にしているのは隊長らしき男性ただ一人のみだったのだから。
 その代わり――
「両手を上げろ!! 全員、動くな!!」
 馬から素早く降りた者たちは半円を描くような形でザザザッとフォーメンションを組み、ギン!と弓矢を構えてきた。
 弓矢の先も彼らの眼光も、今にも射貫いてこんばかりに鋭く光っていた。

 誰一人として所属の証明となるアドリアナ王国の兵士の制服を着用してはおらず、ペイン海賊団はペイン海賊団でそもそも制服制度自体がない。
 背景や経緯を何も知らない者たちが見たなら、血気盛んでガラの悪い異国の若者たちの喧嘩というか、殺し合いにしか見えなかったろう。
 血を流し、あるいは返り血を浴びていない者など誰一人としておらず、現に数名の死体も転がっているのだから。

 とりあえずは全員がしょっ引かれてお縄につくのか……と思いきや、馬を走らせて駆け付けてきた者たちの中に我らが兵士隊長パトリック・イアン・ヒンドリーの姿があった。

「その中に指名手配中のペイン海賊団構成員がいる! そいつらを除けば、あとは”うちの者たち”だ!」

 パトリック・イアン・ヒンドリーの声に、というよりも「指名手配中のペイン海賊団構成員」という言葉に、警備たちの顔色は一瞬にして変わった。
 娼館と牢獄での凶悪な殺人事件の容疑者たちを一刻も早く(新たな被害者が出る前に)捕まえなければとしていた彼らは彼らで、このところ相当にピリピリとした日々の連続であったのだ。
 そして、異国からやってきた長髪で長身のいかにも勇ましい兵士隊長が「うちの者たち」と言ったということは、アドリアナ王国の兵士たちがペイン海賊団と戦っていたのだとも悟った。

 ちなみに、物凄く久しぶりの登場となるパトリック・イアン・ヒンドリーであるが、この町の警備隊長たちと打ち合わせしていた時にちょうど通報を受けたため、急遽、馬を借りてともに駆け付けてきたのであった。
 しかし、彼一人で馬に乗っていたのではなく、身体の大きな彼に隠れて”今は”見えていないだけで、実は後ろに若い女性も乗せていた。

 ジムとルイージは、クソ野郎どもの親分であり仲間(ロジャー・ダグラス・クィルター)の仇でもある兵士隊長の登場に、さらなる悔しさを湧きあがらせずにはいられなかった。

 ”お前たちももう終わりだ”。
 パトリックは口にこそ出さなかったが、その目は奴らに向けてそう言っていた。
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