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第7章 ~エマヌエーレ国編~

―53― 市場にて(7) ディラン vsルイージ! そして、なんと○○○○○が背後から刺されてしまう!

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 どちらが剣を抜くのが速かったであろうか。
 ディランとルイージの剣も、間髪を容れず再戦の音を響かせた。
  不謹慎な例えだが、団体戦として考えるなら再戦となるも、個人戦としてなら初対戦に該当する。
 海の上ではやりあえなかったルークvsジムのみならず、ディランvsルイージもこの市場にて初めて剣を交えることになったのだから。

「……ランディーはどこだ?!」
 ディランもまた、ルークと同じくランディーの遺体の場所を眼前の憎き海賊に問うていた。
 しかし、対するルイージの答えはジムとは異なっていた。

「ンなこと、俺らが聞きてえっての。でもよ、俺もジムも、次こそはあいつを地の果てまで追い詰めてブッ殺してやるつもりなのには変わりねえよ。あの夜はたまたま死神にスムーズにバトンタッチできなかっただけだからよぉ!」

「?!」

 ランディーは生きている?!
 ランディーがたった一人で、こいつらから逃げることができたのか?!
 だが、ランディーは依然として行方不明のままである。
 事件から幾日か経った現在も、どこかに無事に保護されたなんて情報はもたらされてはいない。

 この状況にあっても、口元を歪ませ舌なめずりをするような下卑た笑みを浮かべて、得意気に剣を発してくるルイージの底意地の悪さについては、ディランは昔から”これでもか”というほど知っている。
 ルイージの言葉が真実であっては欲しい。心からそう願わずにはいられない。
 だが、こいつの性格上、俺を翻弄させたいがゆえに、ランディーの生存という”偽りの希望の光”をチラつかせているのかもしれないのだ。

 市場にての因縁の再会は、双方にとって想定外の再会であった。
 ジムとルイージに至っても、事前に口裏を合わせておく時間などはなかったわけである。
 ランディーについては状況的に判断すると生存の可能性は極めて低いわけではあったが、ルイージの言葉の方が真実ではあった。


 ちなみに、この再戦の場に不運にも居合わせてしまった市民たちの大半は避難していたものの、やはり遠巻きに様子をうかがっている見物人たちはいた。
 思考がオーバーフローしてしまい「逃げる」という行動を取れない状態に陥ってしまったのか、はたまた、平和な市場では滅多に起こらない大事件の目撃者となりたいのか(彼らの手にスマホなるものがあったならスマホを向けていたであろうし、SNSなるものがあったならSNSにもあげていたであろうし、バズってもいたあろう)、火の粉が降りかかりそうな――海賊たちに人質に取られるなどして巻き込まれるかもしれない――極めて危険な位置にいながら動こうとしていなかった。

「……こいつらはペイン海賊団だ!!! 早く逃げろ!!!!」

 トレヴァーの怒声のごとき声が響き渡った。
 おかっぱ頭の少年――ルークがランディーと間違えた少年――を筆頭に、見物人の何人かは顔を引き攣らせ、バラバラと逃げ出した。
 あのペイン海賊団が?!
 なんで陸地に?! しかも市場にいるんだ?!
 そのペイン海賊団とやりあっている奴らは奴らで、いったい何者なんだ?!
 ああも滅茶苦茶にやりあっている状態だと、いったいどっちがペイン海賊団なのか――少なくとも声をあげた褐色の肌で超長身の筋肉男はペイン海賊団の構成員ではないのだろう――なんてパッと見で判断できるかよ?!

 逃げ出した見物人たちも、滅茶苦茶にやりあっている若い男たちを一列に並べて、その眼光の鋭さに始まる顔つきや醸し出すというが滲み込んでいるオーラを見たなら、どっちがペイン海賊団なのかを当てることは容易だったに違いないが。
 
 それはさておき、まさに”此処で会ったが百年目”である。
 此処で出会ったしまったことが運の尽きだ。
 しかし、どちらの運が尽きかけているのかは明白であった。

 海の上での戦いで、アドリアナ王国兵士軍団もペイン海賊団も各々の戦力を大幅に削り取られてはいた。
 その後、ペイン海賊団は人員補充を行ったものの、奴ら的に言う”試験”をパスした新入りたちとはいえ、正統派の訓練を積んできたアドリアナ王国兵士相手ではちと、厳しい。
 なお、この現場に真っ先に駆け付けた兵士たちの十人前後ではあるも、市場内には他にも兵士たちがいる。
 その兵士たちが、いくらルークやディランと折り合いが悪いとはいえ、これだけの騒ぎに知らん顔はできない。
 しかも、同僚がやりあっている奴らの顔に見覚えがある、というよりも二度と忘れることのできない顔であったなら、今度こそ決着を付けようとするだろう。

 第一、ここは市場だ。海の上ではない。
 警備が駆け付けてくるのも時間の問題というか、市民からの”通報”を受けた警備たちはこの現場へと馬を走らせているところでもあった。
 明らかなる劣勢。
 そう、モノホンの戦いの経験が浅い新入り海賊たちですら悟らずにはいられない劣勢。

 その焦りからか恐怖からかは分からぬが、突如、新入り海賊の一人が獣の雄叫びのような声をあげた。
 そして、奴はそのまま剣を手に”相手側の中でひときわ目立つ筋肉の鎧をまとっているかのごとき大男の背中”へと向かっていったのだ!

――!!!

 背後から刺し貫かれたトレヴァーは血を吐き、その場へと崩れ落ちた。
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