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第7章 ~エマヌエーレ国編~
―45― ところ変わって、レナートの今(1) レナート vs チリチリ頭
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牢獄に収監中のペイン海賊団構成員、レナート・ヴァンニ・ムーロの元にも、外で仲間たちがしでかしたことのザックリとした概要は伝えられていた。
それがゆえに、こちらの牢獄の警備はさらに厳重なものとなってしまっている。
すなわち、荒れ狂うレナートが暴言を吐きメンチを切る看守の人数が増えたということである。
――くそ……っ! なんでだ!?
腑に落ちない。
いや、腑に落ちないなんてレベルじゃない。
もともと血の気が多いレナートの全身は、もはや沸騰しているといっても過言ではなかった。
――”あいつら”は先にランディーのところに行きやがった……なんでだ!? 普通、俺が先だろ!? 戦力としての期待値も実力値もド底辺のランディーなんかより、この俺を優先すべきだろうが!!!
レナートとて、ジムやルイージたちがランディーを戦力として数えていないことは分かっている。
正直なところ、ランディーよりもそこら辺の道端でウロウロしている気性の荒い犬っころでも手懐けて構成員ならぬ構成犬とした方がよっぽど俺たちの役に立つだろうということも。
ランディーがジムたちに対して何をしてしまったのかはレナートは知らないが、制裁のために牢獄から連れ戻され、もう”制裁は完了した後”であるのは間違いないとも思われた。
いや、理由や経緯はどうであれ、仲間たちに自分という存在を軽んじられた。
後回しにされたという屈辱。
さらに言うなら、あいつらが自分を取り戻しに来てくれる日を――ついでに、ここのクソ看守どもを血祭りにあげてくれる日を――指折り数えて待っていたというのにその期待までもが踏みにじられたのだ。
沸騰寸前のレナート。
だが、牢屋の格子の向こうから響いてきた足音によって、その火力の勢いは少しばかり弱まったようであった。
足音は複数のものだ。
そして、レナートは足音とともに近づいてくる”におい”に鼻をヒクリと鳴らさずにはいられなかった。
奴は職業柄、これが何の”におい”であるのかは知っていた。
横並びの状態で姿を見せたのは、三人の男であった。
両サイドの二人はレナートが何度もメンチを切ったことのある看守であったも、真ん中にいる”雷の直撃を受けたかのようなチリチリ頭”の男はレナートの初めて見る顔だ。
チリチリ頭だけが、看守の制服を着ていない。
さらに、より強く漂ってくる”におい”――腐りゆく肉の”におい”――は、チリチリ頭が抱えている木箱の中が源泉なのは明らかだった。
腐臭の源泉を抱えている当の本人は”どこか楽し気である”のに対し、両サイドの看守二人の顔はわずかに引き攣っていることがレナートにも分かった。
チリチリ頭――レナートと同じく浅黒い肌をしたこの男の年齢は三十手前ぐらいか、けれども、いまだ子どものままであるかのようにキラキラとした妙にアンバランスな瞳をしている――は、レナートをじっと見て、さらに”顔をほころばせた”。
「いやあ、こんな近くで有名犯罪組織の一員を見るのは初めてだよ。吊るされる前に握手してもらっとこうかな?」
レナートの頬が、頭が、もはや全身が瞬時にカアアッと熱を取り戻す。
「うるせえ!!! 俺はこのままで終わらねえ!! この俺がこのまま終わるわけねえ!! そもそも、てめえらは俺たちペイン海賊団の強さと恐ろしさを知らねえだろ!!! ”あいつら”が俺を取り戻すことを優先してたなら、死体になっていたのは間違いなくてめえらの方だ!!!」
両手でガッと格子を掴み、唾を飛ばしながらレナートは喚いた。
確かにレナートの言う通りになっていた可能性は高いだろう。
ジムとルイージの選択によって、こちらの牢獄の看守たちは命拾いをしたといえるのかもしれない。
「何が握手だ!! そんなにこの俺と握手したいっていうなら、握手してやってもいいぜ!! 即座にてめえのその”おてて”を握り潰してやっからよ! おい、聞いてんのか!? このチリチリ頭!!! そもそも、てめえはナニモンだ!?!」
興奮しまくっているレナートを見て、看守の一人が「ちょ、ちょっと、早く本題に入った方が……」と苦々しい顔でチリチリ頭に促した。
「あ、そうだね。本題に入ろうか? ”これ”は確認のために借りてきただけとはいえ、さすがにこの”におい”は、長く嗅いでいたいモンじゃないしね」
レナートの喚きがピタリと止まった。
あの腐臭が漏れ出している木箱――最悪の想像をするなら、人間の頭部がすっぽり入るサイズの木箱――には何が入って、いや”誰が”入っていやがるんだ?
まさか……ランディーか?
ゴクリと唾を飲み込んだレナート。
いや、唾を飲み込んだのは奴だけでない。二人の看守もそうであった。
しかし、どこかネジがぶっ飛んでいるのは明らかなチリチリ頭は表情一つ変えず、木箱の中の者の”髪の毛”をガッと掴んで取り出し、レナートへと突き付けた。
「ねえ、”この人”が魔導士クリスティーナで合ってる?」
それがゆえに、こちらの牢獄の警備はさらに厳重なものとなってしまっている。
すなわち、荒れ狂うレナートが暴言を吐きメンチを切る看守の人数が増えたということである。
――くそ……っ! なんでだ!?
腑に落ちない。
いや、腑に落ちないなんてレベルじゃない。
もともと血の気が多いレナートの全身は、もはや沸騰しているといっても過言ではなかった。
――”あいつら”は先にランディーのところに行きやがった……なんでだ!? 普通、俺が先だろ!? 戦力としての期待値も実力値もド底辺のランディーなんかより、この俺を優先すべきだろうが!!!
レナートとて、ジムやルイージたちがランディーを戦力として数えていないことは分かっている。
正直なところ、ランディーよりもそこら辺の道端でウロウロしている気性の荒い犬っころでも手懐けて構成員ならぬ構成犬とした方がよっぽど俺たちの役に立つだろうということも。
ランディーがジムたちに対して何をしてしまったのかはレナートは知らないが、制裁のために牢獄から連れ戻され、もう”制裁は完了した後”であるのは間違いないとも思われた。
いや、理由や経緯はどうであれ、仲間たちに自分という存在を軽んじられた。
後回しにされたという屈辱。
さらに言うなら、あいつらが自分を取り戻しに来てくれる日を――ついでに、ここのクソ看守どもを血祭りにあげてくれる日を――指折り数えて待っていたというのにその期待までもが踏みにじられたのだ。
沸騰寸前のレナート。
だが、牢屋の格子の向こうから響いてきた足音によって、その火力の勢いは少しばかり弱まったようであった。
足音は複数のものだ。
そして、レナートは足音とともに近づいてくる”におい”に鼻をヒクリと鳴らさずにはいられなかった。
奴は職業柄、これが何の”におい”であるのかは知っていた。
横並びの状態で姿を見せたのは、三人の男であった。
両サイドの二人はレナートが何度もメンチを切ったことのある看守であったも、真ん中にいる”雷の直撃を受けたかのようなチリチリ頭”の男はレナートの初めて見る顔だ。
チリチリ頭だけが、看守の制服を着ていない。
さらに、より強く漂ってくる”におい”――腐りゆく肉の”におい”――は、チリチリ頭が抱えている木箱の中が源泉なのは明らかだった。
腐臭の源泉を抱えている当の本人は”どこか楽し気である”のに対し、両サイドの看守二人の顔はわずかに引き攣っていることがレナートにも分かった。
チリチリ頭――レナートと同じく浅黒い肌をしたこの男の年齢は三十手前ぐらいか、けれども、いまだ子どものままであるかのようにキラキラとした妙にアンバランスな瞳をしている――は、レナートをじっと見て、さらに”顔をほころばせた”。
「いやあ、こんな近くで有名犯罪組織の一員を見るのは初めてだよ。吊るされる前に握手してもらっとこうかな?」
レナートの頬が、頭が、もはや全身が瞬時にカアアッと熱を取り戻す。
「うるせえ!!! 俺はこのままで終わらねえ!! この俺がこのまま終わるわけねえ!! そもそも、てめえらは俺たちペイン海賊団の強さと恐ろしさを知らねえだろ!!! ”あいつら”が俺を取り戻すことを優先してたなら、死体になっていたのは間違いなくてめえらの方だ!!!」
両手でガッと格子を掴み、唾を飛ばしながらレナートは喚いた。
確かにレナートの言う通りになっていた可能性は高いだろう。
ジムとルイージの選択によって、こちらの牢獄の看守たちは命拾いをしたといえるのかもしれない。
「何が握手だ!! そんなにこの俺と握手したいっていうなら、握手してやってもいいぜ!! 即座にてめえのその”おてて”を握り潰してやっからよ! おい、聞いてんのか!? このチリチリ頭!!! そもそも、てめえはナニモンだ!?!」
興奮しまくっているレナートを見て、看守の一人が「ちょ、ちょっと、早く本題に入った方が……」と苦々しい顔でチリチリ頭に促した。
「あ、そうだね。本題に入ろうか? ”これ”は確認のために借りてきただけとはいえ、さすがにこの”におい”は、長く嗅いでいたいモンじゃないしね」
レナートの喚きがピタリと止まった。
あの腐臭が漏れ出している木箱――最悪の想像をするなら、人間の頭部がすっぽり入るサイズの木箱――には何が入って、いや”誰が”入っていやがるんだ?
まさか……ランディーか?
ゴクリと唾を飲み込んだレナート。
いや、唾を飲み込んだのは奴だけでない。二人の看守もそうであった。
しかし、どこかネジがぶっ飛んでいるのは明らかなチリチリ頭は表情一つ変えず、木箱の中の者の”髪の毛”をガッと掴んで取り出し、レナートへと突き付けた。
「ねえ、”この人”が魔導士クリスティーナで合ってる?」
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