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第7章 ~エマヌエーレ国編~

―29― 私刑へのカウントダウン(4)

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 クリスティーナは、この娼館の主を”あの子”とは言ったものの、子供であるからそう呼んだわけではない。
 名前は確か……オスカル・”なんとか”・トゥーリオとかいう、やたら身綺麗でやたら背筋がピンと伸びている、ちょっとばかし良い男風味な娼館の主は、ジムやルイージだけでなく誰の目から見ても”純然たるおっさん”――クリスティーナ自身と(外見年齢においては)二、三歳程度の誤差しかないであろうおっさん――だ。
 それなのになぜかというと、オスカル・”なんとか”・トゥーリオとやらは、クリスティーナの弟子であったからである。
 ジムとルイージは正直なところ、社会からはみ出た「奇人変人」としか言えない”こいつ”(クリスティーナ)が人並みに弟子なんてモンを持っていたことに、内心は驚いていた。


 一体いつから、あのおっさんがクリスティーナに師事するようになったのかは知らねえが、こんな奴に教わるの嫌じゃなかったのか?
 ”泣く子も黙る”どころか、泣く子はもっと泣き喚くほどの奇怪さだっての。

 
 さらに言うなら、魔導士としての修行(?)を積んだであろうにもかかわらず、魔導士ではなく裏娼館の経営に携わっていることにも、ジムとルイージは疑問を抱いていた。


 だが、細かいことはよく分からねえし、別に知ったところで何の得にもならねえけど、魔導士の力というのは生まれ持ったもので、その強さなり何なりは、ほぼ決まっちまうモンらしい。
 努力だけでは決して超えることのできない、目に見えぬ壁が魔導士たちの間にもあって……誰もが魔導士として成功し、第一線で活躍できるわけじゃねえってことか。


 ということは、あのオスカル・”なんとか”・トゥーリオは、一応は魔導士であるも、魔導士一本で食っていけるほどではない。
 性産業の商才と裏社会の人脈こそが、今のあいつの主たる力なのだと、海賊一本で食っていっている(?)ジムとルイージは思う。
 そして、あいつは師であるクリスティーナになら、その主たる力を惜しげもなく使うらしく、師の頼みとあらばこうして”ペイン海賊団の新メンバー候補者”をかき集めてもきた。

 
 まさに麗しい師弟愛といったところか?
 絵面にすると、女装した中年男×中年男にはなっちまうけどwww
 ま、俺らと親方(セシル・ペイン・マイルズ)とは大違いだな。
 俺らはもう、あの酒浸りのおっさんの頼みなんて素直に聞く気はねえし、何かしてやりたいなんてことも思わなくなっているからよ。
 むしろ、今やあのおっさんは俺らの士気を下げる一方だ。



「……一応、礼は言っておいた方がいいか?」

「あ、あら、いいのよ、そんなこと。まあ、今はちょっと動けないけど強化週間だと思って我慢して。それとレナートのことはもう少しだけ待ってね」

 ジムからの意外な言葉に、クリスティーナは少し頬を赤らめた。
 ほんのりと赤くなった無精ひげつきの頬っぺたに両手を当てて(若い女がしたなら、まだ見られなくはない仕草ではあるのだが……)、「私はこれから別の用事があるから、次にここに来るのは一週間後ぐらいになると思うわ」と、うれしさの余韻をもほんのりと残し、この場を去っていった。


「ジム、どうするよ、下のあいつらに適当な試験でもすっか? 人員を補充したいのはやまやまだけどよ、果たしてあいつらが俺らのレベルについてこれるかって話だよな。生まれ持った運動神経にこそ、どんだけ努力しても超えられねえ目に見えぬ壁があるっつうわけでwww」

「試験か、そうだな……」

 そわそわと腰の剣に手を伸ばし始めていたルイージであるも、ジムの顔を見て、その手をピタリと止めた。
 
「ルイージ、できることなら、試験は試験でも一石二鳥な試験をしたいとは思わねえか?」

「一石二鳥? もしかして、ピートに何かさせようってか?」

「…………あのアホオウムは関係ねえよ。だがよ、俺の考えた試験が終わった時には、キモクリスティーナも思い知るだろうよ。てめえが手の内っつうか”手駒”を俺たちの前に並べ過ぎたってことをよ」
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