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第5章 ~ペイン海賊団編~
―99― 襲撃(43)~「引き上げろ!!!」~
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――まさか、あいつ……!?
その”まさか”であることをルークは悟った。
”あいつ”の――エルドレッドの足元に転がっていたはずの自分の剣が、エルドレッドの弓矢に括りつけられて自分の元へ届けられた。
味方×味方の間柄なら、弓矢使いのエルドレッドならではのこうした粋な助太刀もありだろう。
けれども、今は違う。
自分たちは敵×敵の間柄へと変わってしまっている。
だが、先ほどルークはエルドレッドを殺せなかった。殺そうと思ったら殺すことができた優勢にあったはずなのに殺せなかった――いや”殺さなかった”。
本来なら”アドリアナ王国の兵士として”悪名高き海賊団の一員を討伐すべきであったが、ルークは”かつての友”の頬をブン殴っても、その”かつての友”の喉元を己の剣で一直線に掻き切ったはしなかった。
互いに互いを殺したくなどはない。
”殺せなかった”と”殺さなかった”では、違っている。だが、結果だけを見るとエルドレッドはルークによって命拾いしたという事実には変わりはない。
そして、結果だけを見るとエルドレッドは”不思議な力”によって、(危険から遠ざけるつもりであった)ルークを丸腰のまま、剣を手にした性悪のルイージへとプレゼントしてしまった事実にも変わりはない。
止まることのない時の流れに波のごとく揺られながら、襲撃の終盤へと近づいているこの時、ルークを窮地へと追いやってしまったことへの、せめてもの穴埋めであるのか?
船べりに突き刺さったまま、弓矢とともに揺れ続けている自身の剣をバッと手に取ったルークは気づく。
剣は、エルドレッドが咄嗟に引きちぎったであろう自身の服の切れ端によって弓矢へと括りつけられていたことを――
ルークは敵となってしまった”かつての友”からの助太刀によって、武器を取り戻した。
一方、ルークの一撃が鳩尾に見事に入ってしまったルイージも、殴打の痛みによって真っ赤な顔で咳き込み、唇から呻きを漏らしながらも、やはりすぐに自身の剣をバッと拾い上げていた。
自身の剣を取り戻したルイージは、即座にルークへと剣を構え直す。
武器を取り戻した双方ともに、襲撃の傷痕と疲労が刻まれた肉体に返り血を浴びていた。
ルークの一重瞼からのぞく栗色の瞳は、”俺の腹を殴りやがったばかりか、俺と同じく剣を取り戻しちまった”ルークをギッと睨みつけ、口元も沸騰せんばかりの怒りによって歪んでいた。
ルークを――”彼の当初の大本命ボーイ”を言葉責めすることに夢中であったルイージ。
彼は結果として、ルークを殺そうと思ったら殺すことができた優勢にあったはずなのに殺せなかった――いや、”当初は完全に殺すつもりであったが、自身の喋りたがりの性質に足をすくわれルークからのボディーブローを喰らい、そのうえ仲間(エルドレッド)からの助太刀によって武器を取り戻したルークをまだ殺せていない”のだ。
「……エルドレッドの野郎……何考えてやがんだ…………裏切りか? ”プチ裏切り”ってやつか? …………”遠い昔の友情”なんてモン思い出したンだかなんだか知らねーけど、船に戻ったら絶対にあの野郎、ボコボコにしめあげてやるわ。でもよ……」
片方の唇の端を耳へと近づけるように歪めたルイージ。
「今はとりあえず、”お前”だ。エルドレッドやトレヴァーとかいう”喋る筋肉”は後回しにして、お前を”削いでやる”わ。お前の”一番大事なところ”の肉を削いで、鮫の餌にしてやらあ!!」
「!!!」
ゴオッと怒りの風をまとい甲板を蹴り飛びあがったルイージの刃を、ルークは自身の眼前で防いだ。
ガッキィィン、という互いの剣が折れんばかりの殺意と敵意の混じり合った剣の音、そして互いの利き手に伝わってくる痺れ。
「……く……っ! 今日は筋肉野郎といいい……ルーク、お前といい、俺の堪忍袋を”幾つも”切れさせやがって……!!!」
ルイージは堪忍袋を何個も保有しているのかという疑問はさておき、完全にキレたルイージ。
無言で交わりあう、純然たる殺意の剣の音。
キレたルイージは、ルークの一番大事なところの肉を――つまりはルークの陰茎という肉棒を削ぐつもりらしい。ルークに辱めを与え、去勢したうえ、最終的には殺すと……
人の肉を生きたまま削ぐ、いや対象者が死んでいたとしても快楽や征服目的で人の肉を削ぐという身の毛がよだつ残虐行為など出来ない者が世の圧倒的多数であるだろう。
だが、このルイージ・ビル・オルコットなら、自分と同じ人間である者の肉であったも生きたまま削ぐであろう。現に(ルークは知らないことであるが)、奴は今ペイン海賊団の人質としている貴族の男性パウロ・リッチ・ゴッティの肉をジムとともに、生きたまま削ごうとしていたのだから。
さらに、これもルークは知らないことであるが、ディラン vs ジムの戦いにおいて、ジムはディランに対して、卑怯な目潰し攻撃のうえ睾丸を踏みつぶそうとしていた。人間の急所の一つである性器に対するサディスティックな攻撃。やはり、奴らの考えることは似ているのか?
ルーク&ディランと同様に、ジム&ルイージも幼き頃より行動をともにしていた。飛び抜けた身体能力(いや、今は戦闘能力と殺傷能力)を持ち、気の荒さと性悪さにおいても、なかなかにいい勝負であるこの2人の少年たちも、ともに年月を重ねていった。
いや、正確にいうと奴らは決して穏やかに、そして地道に”重ねていった”のではない。
同じ社会の底辺層出身でも、ともに同い年の幼馴染というにこいちコンビであっても、ルーク&ディランとジム&ルイージは明らかに異なっている。
彼ら4人は今世で出会う縁があり、一時は同僚として寝食をともにしていた。同じ時間を共有した仲であっても、彼ら4人が進んだ道はものの見事に二手に分かれていた。
ジムとルイージは、人生に対しての確固たる信念も自身の正義や力の弱い者を守る心や男気も持ち合わせないまま、時の流れとともに自堕落な方向へと流されゆき、最終的には血にまみれ他者を虐げ続けることを生業とする”人生”を選択したのだ。
襲撃終盤にさしかかった今、互いが剣を手にしたことで、やっと始まったルーク vs ルイージ。
だが、ディラン vs ジムは、引き続き襲撃初頭より繰り広げられていた。
いや、今は違う。ディラン vs ジムではなく、フレディ vs ジムへと切り替わっていたのだから――
フレデリック・ジーン・ロゴは、戦闘停止中に追い込まれた仲間(ディラン)を背にかばい、海賊ジェームス・ハーヴェイ・アトキンスと交戦中であった。
ジムに目潰しをされて、視界が今だ本調子に――というよりも本調子に戻るには、清涼な水で刺激物に覆われた両の瞳を清めたうえ、アブナイ船医ハドリー・フィル・ガイガーの診察を受けない限りは無理であるディラン・ニール・ハドソンは、仲間と敵の双方の刃が、一瞬たりとも隙を見せずにぶつかりあっていることが分かった。
どちらかが隙を見せれば、どちらかの肉が裂かれる音がディランの耳へと届けられるだろう。
緊迫した戦い。
フレディ、ジムともに、荒い息とともに剣を振りかざしている。そして、ディラン同様に彼ら2人も、体の奥から立ち上ってくるかのようなねばつきを己の肌に感じてもいるだろう。
幼き頃より剣を使う者としての訓練を積み、剣技という点では”希望の光を運ぶ者たち”のうちでは一番であるだろうフレディではあったが、やはりジムの方がやや優勢にあった。
ジムがニッと片方の唇の端を上げる。
まるでルイージのような薄気味悪い笑みを見せたジム。
奴はいったい、どうしたというのであろうか?
先ほど”かすれた怒声”をあげて、甲板を蹴り、フレディに飛びかかっていった時の奴とは、明らかに様子が違っている。
フレディと剣を交えてから、それほど時間は経っていない。わずかな短時間で、元来、荒々しい気質の持ち主である奴の様子がこうまで変わる”何か”があったのであろうか?
それとも、ディランとの殴り合いによって口の端に血を滲ませているジムは、自分の方が精神的にも有利にあることを交戦相手であるフレディにアピールして彼を牽制し、この戦闘を早く終わらせディランとの戦いの再開へと移りたいだけであるのだろうか?
そして、男が――それも戦闘中の男が口を開くというのは、自分の方が余裕があるか、それともどうしても伝えたいことがある場合に限るだろう。
「おい、ゾンビ野郎。てめえ、そろそろ降参しねえのか? てめえも薄々分かってんだろ? 俺の方が上だってことをよ」
へッと息を吐いたジムは、フレディへとビュッと剣を発した。
素早い動きで、奴の剣をガッと防いだフレディ。
彼はジムに挑発のごとく話しかけられても、その剣筋に綻びを見せることはなかった。
さらにそのうえ――
「――無駄口叩くな」
フレディは精神においても冷静さを失うことなく、何よりもジムに降参する――劣勢にあっても倒すべき海賊への戦意の喪失など絶対にすることもなく、こうして戦闘中におけるジムの無駄口にまで釘を刺したのだ。
けれども、”名前も知らないゾンビ兵士”に釘を刺されたジムはフレディへと怒りを見せるどころか……
「――てめえ、やっぱイイなあ。そのやけに傷の治りが早い体といい、剣の腕といい、うち(ペイン海賊団)に欲しいぐらいだぜ。ロジャーとか、レナートとか、血の気が多い野郎どもがうちの大多数なワケだし、てめえみてえなクールなキャラってのはうちじゃ、極少数派(まあ、エルドレッドぐらいか?)だしな。うちも正直、”入れ替わり”はめっぽう激しくてよ。てめえも”沈むことが確実な船”に乗っていたいか? てめえがそうして大事に守っている”ディラン姫”やアドリアナ王国のクソ兵士どもと、このまま心中したくなんてねえだろ?」
その”まさか”であることをルークは悟った。
”あいつ”の――エルドレッドの足元に転がっていたはずの自分の剣が、エルドレッドの弓矢に括りつけられて自分の元へ届けられた。
味方×味方の間柄なら、弓矢使いのエルドレッドならではのこうした粋な助太刀もありだろう。
けれども、今は違う。
自分たちは敵×敵の間柄へと変わってしまっている。
だが、先ほどルークはエルドレッドを殺せなかった。殺そうと思ったら殺すことができた優勢にあったはずなのに殺せなかった――いや”殺さなかった”。
本来なら”アドリアナ王国の兵士として”悪名高き海賊団の一員を討伐すべきであったが、ルークは”かつての友”の頬をブン殴っても、その”かつての友”の喉元を己の剣で一直線に掻き切ったはしなかった。
互いに互いを殺したくなどはない。
”殺せなかった”と”殺さなかった”では、違っている。だが、結果だけを見るとエルドレッドはルークによって命拾いしたという事実には変わりはない。
そして、結果だけを見るとエルドレッドは”不思議な力”によって、(危険から遠ざけるつもりであった)ルークを丸腰のまま、剣を手にした性悪のルイージへとプレゼントしてしまった事実にも変わりはない。
止まることのない時の流れに波のごとく揺られながら、襲撃の終盤へと近づいているこの時、ルークを窮地へと追いやってしまったことへの、せめてもの穴埋めであるのか?
船べりに突き刺さったまま、弓矢とともに揺れ続けている自身の剣をバッと手に取ったルークは気づく。
剣は、エルドレッドが咄嗟に引きちぎったであろう自身の服の切れ端によって弓矢へと括りつけられていたことを――
ルークは敵となってしまった”かつての友”からの助太刀によって、武器を取り戻した。
一方、ルークの一撃が鳩尾に見事に入ってしまったルイージも、殴打の痛みによって真っ赤な顔で咳き込み、唇から呻きを漏らしながらも、やはりすぐに自身の剣をバッと拾い上げていた。
自身の剣を取り戻したルイージは、即座にルークへと剣を構え直す。
武器を取り戻した双方ともに、襲撃の傷痕と疲労が刻まれた肉体に返り血を浴びていた。
ルークの一重瞼からのぞく栗色の瞳は、”俺の腹を殴りやがったばかりか、俺と同じく剣を取り戻しちまった”ルークをギッと睨みつけ、口元も沸騰せんばかりの怒りによって歪んでいた。
ルークを――”彼の当初の大本命ボーイ”を言葉責めすることに夢中であったルイージ。
彼は結果として、ルークを殺そうと思ったら殺すことができた優勢にあったはずなのに殺せなかった――いや、”当初は完全に殺すつもりであったが、自身の喋りたがりの性質に足をすくわれルークからのボディーブローを喰らい、そのうえ仲間(エルドレッド)からの助太刀によって武器を取り戻したルークをまだ殺せていない”のだ。
「……エルドレッドの野郎……何考えてやがんだ…………裏切りか? ”プチ裏切り”ってやつか? …………”遠い昔の友情”なんてモン思い出したンだかなんだか知らねーけど、船に戻ったら絶対にあの野郎、ボコボコにしめあげてやるわ。でもよ……」
片方の唇の端を耳へと近づけるように歪めたルイージ。
「今はとりあえず、”お前”だ。エルドレッドやトレヴァーとかいう”喋る筋肉”は後回しにして、お前を”削いでやる”わ。お前の”一番大事なところ”の肉を削いで、鮫の餌にしてやらあ!!」
「!!!」
ゴオッと怒りの風をまとい甲板を蹴り飛びあがったルイージの刃を、ルークは自身の眼前で防いだ。
ガッキィィン、という互いの剣が折れんばかりの殺意と敵意の混じり合った剣の音、そして互いの利き手に伝わってくる痺れ。
「……く……っ! 今日は筋肉野郎といいい……ルーク、お前といい、俺の堪忍袋を”幾つも”切れさせやがって……!!!」
ルイージは堪忍袋を何個も保有しているのかという疑問はさておき、完全にキレたルイージ。
無言で交わりあう、純然たる殺意の剣の音。
キレたルイージは、ルークの一番大事なところの肉を――つまりはルークの陰茎という肉棒を削ぐつもりらしい。ルークに辱めを与え、去勢したうえ、最終的には殺すと……
人の肉を生きたまま削ぐ、いや対象者が死んでいたとしても快楽や征服目的で人の肉を削ぐという身の毛がよだつ残虐行為など出来ない者が世の圧倒的多数であるだろう。
だが、このルイージ・ビル・オルコットなら、自分と同じ人間である者の肉であったも生きたまま削ぐであろう。現に(ルークは知らないことであるが)、奴は今ペイン海賊団の人質としている貴族の男性パウロ・リッチ・ゴッティの肉をジムとともに、生きたまま削ごうとしていたのだから。
さらに、これもルークは知らないことであるが、ディラン vs ジムの戦いにおいて、ジムはディランに対して、卑怯な目潰し攻撃のうえ睾丸を踏みつぶそうとしていた。人間の急所の一つである性器に対するサディスティックな攻撃。やはり、奴らの考えることは似ているのか?
ルーク&ディランと同様に、ジム&ルイージも幼き頃より行動をともにしていた。飛び抜けた身体能力(いや、今は戦闘能力と殺傷能力)を持ち、気の荒さと性悪さにおいても、なかなかにいい勝負であるこの2人の少年たちも、ともに年月を重ねていった。
いや、正確にいうと奴らは決して穏やかに、そして地道に”重ねていった”のではない。
同じ社会の底辺層出身でも、ともに同い年の幼馴染というにこいちコンビであっても、ルーク&ディランとジム&ルイージは明らかに異なっている。
彼ら4人は今世で出会う縁があり、一時は同僚として寝食をともにしていた。同じ時間を共有した仲であっても、彼ら4人が進んだ道はものの見事に二手に分かれていた。
ジムとルイージは、人生に対しての確固たる信念も自身の正義や力の弱い者を守る心や男気も持ち合わせないまま、時の流れとともに自堕落な方向へと流されゆき、最終的には血にまみれ他者を虐げ続けることを生業とする”人生”を選択したのだ。
襲撃終盤にさしかかった今、互いが剣を手にしたことで、やっと始まったルーク vs ルイージ。
だが、ディラン vs ジムは、引き続き襲撃初頭より繰り広げられていた。
いや、今は違う。ディラン vs ジムではなく、フレディ vs ジムへと切り替わっていたのだから――
フレデリック・ジーン・ロゴは、戦闘停止中に追い込まれた仲間(ディラン)を背にかばい、海賊ジェームス・ハーヴェイ・アトキンスと交戦中であった。
ジムに目潰しをされて、視界が今だ本調子に――というよりも本調子に戻るには、清涼な水で刺激物に覆われた両の瞳を清めたうえ、アブナイ船医ハドリー・フィル・ガイガーの診察を受けない限りは無理であるディラン・ニール・ハドソンは、仲間と敵の双方の刃が、一瞬たりとも隙を見せずにぶつかりあっていることが分かった。
どちらかが隙を見せれば、どちらかの肉が裂かれる音がディランの耳へと届けられるだろう。
緊迫した戦い。
フレディ、ジムともに、荒い息とともに剣を振りかざしている。そして、ディラン同様に彼ら2人も、体の奥から立ち上ってくるかのようなねばつきを己の肌に感じてもいるだろう。
幼き頃より剣を使う者としての訓練を積み、剣技という点では”希望の光を運ぶ者たち”のうちでは一番であるだろうフレディではあったが、やはりジムの方がやや優勢にあった。
ジムがニッと片方の唇の端を上げる。
まるでルイージのような薄気味悪い笑みを見せたジム。
奴はいったい、どうしたというのであろうか?
先ほど”かすれた怒声”をあげて、甲板を蹴り、フレディに飛びかかっていった時の奴とは、明らかに様子が違っている。
フレディと剣を交えてから、それほど時間は経っていない。わずかな短時間で、元来、荒々しい気質の持ち主である奴の様子がこうまで変わる”何か”があったのであろうか?
それとも、ディランとの殴り合いによって口の端に血を滲ませているジムは、自分の方が精神的にも有利にあることを交戦相手であるフレディにアピールして彼を牽制し、この戦闘を早く終わらせディランとの戦いの再開へと移りたいだけであるのだろうか?
そして、男が――それも戦闘中の男が口を開くというのは、自分の方が余裕があるか、それともどうしても伝えたいことがある場合に限るだろう。
「おい、ゾンビ野郎。てめえ、そろそろ降参しねえのか? てめえも薄々分かってんだろ? 俺の方が上だってことをよ」
へッと息を吐いたジムは、フレディへとビュッと剣を発した。
素早い動きで、奴の剣をガッと防いだフレディ。
彼はジムに挑発のごとく話しかけられても、その剣筋に綻びを見せることはなかった。
さらにそのうえ――
「――無駄口叩くな」
フレディは精神においても冷静さを失うことなく、何よりもジムに降参する――劣勢にあっても倒すべき海賊への戦意の喪失など絶対にすることもなく、こうして戦闘中におけるジムの無駄口にまで釘を刺したのだ。
けれども、”名前も知らないゾンビ兵士”に釘を刺されたジムはフレディへと怒りを見せるどころか……
「――てめえ、やっぱイイなあ。そのやけに傷の治りが早い体といい、剣の腕といい、うち(ペイン海賊団)に欲しいぐらいだぜ。ロジャーとか、レナートとか、血の気が多い野郎どもがうちの大多数なワケだし、てめえみてえなクールなキャラってのはうちじゃ、極少数派(まあ、エルドレッドぐらいか?)だしな。うちも正直、”入れ替わり”はめっぽう激しくてよ。てめえも”沈むことが確実な船”に乗っていたいか? てめえがそうして大事に守っている”ディラン姫”やアドリアナ王国のクソ兵士どもと、このまま心中したくなんてねえだろ?」
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