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修羅場になったので、婚約破棄を宣言した結果…

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「全員との婚約破棄を宣言する!」

 室内にいる女性たちに向かって、私はそう宣言した。
 ここは私の自室だ。
 目の前には三人の女性がいる。
 それぞれ怒りの表情を浮かべ私を睨んでいる。

「バルド様! わたくしと婚約して下さると仰っていたではありませんか!」
「この女性達は一体誰なんですの!?」
「浮気していたんですか!? 信じられない!」

 三人分の怒号が耳を襲ってきた。
 じりじりと距離を詰められ、思わず後ずさってしまう。
 なんでこんなことになってしまったのか。
 

 時は一時間前に遡る。
 自室で書類仕事をしていた時、来客があった。
 私が愛している女性のエミリーだ。これから一緒に暮らす予定だ。
 突然の訪問だったが、笑顔で迎えた。
 その数分後。
 もう一人別の女性が訪れた。
 エミリーとは別に私が愛している女性のケイトだ。……一緒に暮らす予定だ。
 私は慌てた。
 まずい。
 浮気していたのがバレてしまう。
 何で二人が同じタイミングで現れるんだ。
 焦っていると、もう一人現れた。
 私が愛している女性のタレスだ。…………一緒に暮らす予定だ。

(ど、どうすればっ!?)

 絶望した。
 三人と浮気したことに対する天罰なのだろうか。

(もうどうしようもない……)

 女性達は互いに睨み合い、強い口調で言い合っている。
 やがて追求は私に来ることになり、混乱と焦りなどといった様々な感情に支配され、何もかもめんどくさくなった私は思わず婚約破棄を宣言したのだった。
 それからは更に修羅場である。

(このままだと殺される)

 本能的にそう思った。
 壁にまで追い詰められた私は、三人を振り払い部屋を飛び出していた。
 我ながら情けないとは思う。
 だがこうするしかなかったのだ。
 廊下を駆け抜け玄関を出た瞬間のことだ。
 そこにいた人とぶつかりそうになり、慌てて急ブレーキをかけた。

「これは失礼し……」

 相手の顔を見た瞬間、私は凍りついた。
 妹が狂気を纏った顔でそこに立っていたのだ。

「ねぇ兄様。愛している女性は私だけではなかったんですの?」

 笑みを浮かべてはいるが、私には悪魔の微笑みに見えた。

「私は兄様だけを愛しているのに愛しているのに愛しているのに」

 何かに取り憑かれているかのように同じ言葉を繰り返す妹。
 底知れない恐怖を感じた。
 やがて妹は顔を上げ、まん丸に見開いた光を感じさせない目で見つめてきた。

「他の誰にも渡さない。このまま永遠に私だけのものになって下さいね」

 そう呟くと急に私に抱きついた。
 ……いや。
 抱きついたのではない。
 腹が急激に熱を帯び、激痛が全身を襲った。
 刺されたのだ。
 妹の手を見ると、ナイフが握られていた。
 引き抜かれたそれは赤黒く光っていた。
 血が腹から吹き出し、身体の力が急速に失われて行くのを感じた。

(このまま死ぬのか)

 地面に倒れ朦朧とする意識の中、死を覚悟した。

 頭上からは妹の嗚咽が聞こえた。
 何とも情けない最期だな。
 心の中で苦笑した時、意識は途絶えた。
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