ユメ/うつつ

hana4

文字の大きさ
上 下
26 / 56
6【:sink】

6-1

しおりを挟む

 ここ、前にも……?

 この場所には、陽の光が全く届いていない。そんなことで泣きたくなってきた。
 自分でここに来ると決めたはずなのに、近づけば近づくほど「これで本当に良かったのか?」という声が自分の中から聞こえてくるようだった。
 目の前には分厚くて重そうな扉が立ちはだかり、この覚悟を更に揺さぶる。帰りたいという願いを無視し続けるために、後味の悪い記憶を反芻する。

 もう、一思いに済ませてしまうしかないんだ。
 この扉に背を向けたい心にそう言い聞かせると、全体重を乗せながら、その扉を押し開いた……


「やあやあ、よく来たね」
 
 部屋に入ると、視界には灰色の壁しか映らない。
 その低く穏やかな声のした方を見上げると、灰色の壁の頂上近くでギョロッとした目が二つ動き、大きな口元からは泡が連なり昇ってゆく。
 俺は、この灰色の壁の正体に会うためにここに来た。

「ほら、そんなに怖がらないで。さあ、もっと近くまでおいで」

 部屋中に響くその声には安心感があって、さっきまでの不安を拭い取ってくれる気がした。だから軽く地面を蹴り上げて、ふわふわとその口の側まで浮かび上がる。

「ほう、ほう。良い目をしているな。ああ、非常に良い目だ。怖いのか?大丈夫だろ?待ち望んでいた願いは叶えてやろう。どうだ?嬉しいか?」

 片目の直径が俺の背丈ほどもある。その目玉がギョロギョロと絶えずに動いているのに、恐怖よりも何故か期待が膨れ上がっていくのがわかった。いくつかのやり取りは急に朧気で、とても大切だから決して忘れてはいけないはずなのに、記憶には靄がかかったまま、どんどんと時が進んでゆく。



 いつの間にかそれに手渡された小さな小瓶は、手の平に収まるほどの大きさで、黒い蓋でしっかりと塞がれていた。透明のガラス越しで見ても、中の液体はキラキラと何色にも光っているのがわかった。陽の光に当てればそれはもっと綺麗に見えると思う。逸る気持ちを押さえつつ、それを手の中でしっかりと握り締めると、何故かどうしてもソラに会いたくなった──
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

月曜日の方違さんは、たどりつけない

猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」 寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。 クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。 第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、

処理中です...