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6【:sink】
6-1
しおりを挟むここ、前にも……?
この場所には、陽の光が全く届いていない。そんなことで泣きたくなってきた。
自分でここに来ると決めたはずなのに、近づけば近づくほど「これで本当に良かったのか?」という声が自分の中から聞こえてくるようだった。
目の前には分厚くて重そうな扉が立ちはだかり、この覚悟を更に揺さぶる。帰りたいという願いを無視し続けるために、後味の悪い記憶を反芻する。
もう、一思いに済ませてしまうしかないんだ。
この扉に背を向けたい心にそう言い聞かせると、全体重を乗せながら、その扉を押し開いた……
「やあやあ、よく来たね」
部屋に入ると、視界には灰色の壁しか映らない。
その低く穏やかな声のした方を見上げると、灰色の壁の頂上近くでギョロッとした目が二つ動き、大きな口元からは泡が連なり昇ってゆく。
俺は、この灰色の壁の正体に会うためにここに来た。
「ほら、そんなに怖がらないで。さあ、もっと近くまでおいで」
部屋中に響くその声には安心感があって、さっきまでの不安を拭い取ってくれる気がした。だから軽く地面を蹴り上げて、ふわふわとその口の側まで浮かび上がる。
「ほう、ほう。良い目をしているな。ああ、非常に良い目だ。怖いのか?大丈夫だろ?待ち望んでいた願いは叶えてやろう。どうだ?嬉しいか?」
片目の直径が俺の背丈ほどもある。その目玉がギョロギョロと絶えずに動いているのに、恐怖よりも何故か期待が膨れ上がっていくのがわかった。いくつかのやり取りは急に朧気で、とても大切だから決して忘れてはいけないはずなのに、記憶には靄がかかったまま、どんどんと時が進んでゆく。
*
いつの間にかそれに手渡された小さな小瓶は、手の平に収まるほどの大きさで、黒い蓋でしっかりと塞がれていた。透明のガラス越しで見ても、中の液体はキラキラと何色にも光っているのがわかった。陽の光に当てればそれはもっと綺麗に見えると思う。逸る気持ちを押さえつつ、それを手の中でしっかりと握り締めると、何故かどうしてもソラに会いたくなった──
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