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6 星奈ちゃんのお熱

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六 星奈ちゃんのお熱

 美月は二日間学校を休んでいた。

 一日目は始業式なので学習に対してみんなと差がつくことはなかった。必要なプリント類は翔が持ってきてくれた。初めての教室,担任との出会い(電話では話したことはあったが),初めてのクラスメイトだから緊張する。でも,2年生の時に同じクラスだった友達もいたので安心した。
 お母さんは,春休みに入ったと同時に,仕事はもちろんのこと家事,育児ができなくなってしまった。鬱病にもいろいろなタイプがある中で,美月のお母さんは体が重くなって立っているのもつらく,寝ていることが中心の生活になってしまったのだ。
 美月は,春休みに大好きな体操部の練習を出ないで,家事,育児,そしてアルバイト,保育園の送り迎えと忙しかった。それでも、たとえきつくても、もらえるお金の高いものにアルバイトを変えて働いた。 
 春休み中は部活だけでなく,勉強もできていない。もっとも,美月にとっては勉強よりも体操部に行けない方がつらかったのだ。始業式と次の日の二日間だけの休みだったが,新学年なので戸惑うことの多い朝となってしまった。
 翔君は同じクラスで席が偶然隣だった。
「この前は,ありがとう,隣だね,よろしく!」
 クールだが笑顔で会話をすることができた。
「うん,困ったことがあったら聞いて,二日間に色々と連絡事項もあってプリント読んだだけでは分からないこともあるからさ」
 後ろの席から見ていた弘子は,翔と美月が仲良く話しているのが気にいらなかった。弘子は、陸上部で活躍する翔のことが好きだった。何回かアタックをするが,翔に避けられてしまっている。
(翔は美月のことが好きだから私を避けているの,じゃあ,美月がいなくなれば・・・)
 学校の時間は家よりも長く感じるが、それでも昼食の時間はやってくる。弘子は翔の所へ行って,
「ねえ,ねえ,翔君,一緒に食べよう,美恵,咲恵もこっちへお出でよ,4人で食べよう」
 美恵と咲恵は弘子の友達なので,いつも三人は一緒だった。リーダー格は弘子で二人は弘子の言う通りに動く,自分の意志をあまり出せなかった。
 翔は隣に美月がいるから机をくっつけるまではいかなくても自席で一人で食べて,時々,美月に話しかけたかった。しかし、美月は,
「いいよ,翔君,せっかく誘ってくれる女子がいるんだから,行って食べてきなよ,私は,ここで外を見ながら食べたいからさ」
 美月の席は窓側で,そこから桜の木が見え,きれいに咲いていた。美月にとっては心の癒やしになっている。
 その時,まだお弁当を広げてない状態で担任から職員室へ呼ばれた。保育園へ行っている星奈ちゃんが熱を出し,迎えにきてほしいとのことだ。保育園に連絡してタクシーで行くことを伝え,校門でタクシーを待った。戻ってくるつもりだったので,財布とスマホを持ってタクシーに乗り込み,保育園へと向かった。
「お姉ちゃん、ごめんね、お姉ちゃん学校は・・」
 星奈ちゃんは、逆に美月のことを心配していた。
「大丈夫、星奈、病院へ行こうね」
 すぐに病院へ行き,風邪とのことで家へ帰って休ませた。小さい子どもは良く熱を出すことがあるとお医者さんから説明があったが,美月は心配だった。家庭の事情から,もしかしたらこんな小さな星奈ちゃんの心にも影響しているのかもと心配した。
 美月は、お母さんの隣に星奈ちゃんを寝かせて学校へと戻った。もう,授業が終わり,部活開始の時間となっていたので,体操用具の入った鞄をロッカーから取り出して体育館へ向かった。体操部のみんなは歓迎してくれてうれしい美月は,更衣室へと向かった。
「あれ~?練習用のピンクのレオタード、レオタード用の下着もない,スパッツもTシャツも・・」
 鞄の中から出てきたのは,丸めた新聞紙とパソコンで印字されたメッセージだった。
(調子にのるな!うざいんだよ!)
 美月は、怒りとともに悲しかった。
(何で、私だけこんな・・)
「負けない! だれかわからないけど,こんな卑怯な人達!」
 美月は顧問に体の不調を訴えて体操部を休むことにした。そして,担任にも話さず,絶対に自分で犯人を捜してやる決意をしたのだ。
 家に帰ってからしばらくすると悲しくなって泣き出した。
「私、一生懸命にやっているのに、何で、神様、仏様はいないの・・」
 しばらくして、担任から連絡があった。
「おい,美月,大切な部活の衣類,机の上に置き忘れてあったぞ,誰かに届けさせるから,家で待っていなさい。これから,気をつけろよ」
「あっ、はい、ありがとうございます」
 10分後,また連絡があって,部活帰りに,翔君が持ってきてくれることになった。
(どうして男子に先生は頼むのかな~もう~翔君に中身を見られたらどうしよう,レオタードや体操用のインナーも入ってる・・恥ずかしい・・)
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