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第一章 アニマルモンスターの世界へようこそ!

4.可愛い獣人

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 何かにつけて動きを見せるその獣部分が気になり過ぎて、ダメと思いながらも視線が引き寄せられてしまう。

 許されるなら触ってみたいけれど、とてもではないが言い出せる空気ではない。

「あのっ! 助けてくれて……ありがとう……っ」

 ペコリと頭を下げてお礼を述べると、青年はチラリと興味無さげな視線を送ってすぐに焚き火へ視線を戻す。

「……借りは返した。明日、比較的近い人間の……別の街の近くまで送ってやる。俺たちのことは忘れろ。お前の臭いは覚えたから、追うことも可能だ。平穏に暮らしたいなら他言はしないことだな」

「…………借り……?」

 予想はしていたが明らかに迷惑そうな青年の態度に怯みつつ、言い捨てられたその言葉に反応する。

「お兄っ!! 何でそんな言い方しかできないのっ! お姉はアイラの恩人だよっ!?」

 いつの間にか騒がしく戻ってきたアイラは重い空気を蹴散らして、服をその腕に抱えながら青年をもうっと叱りつける。

 アイラの声に引き寄せられてその姿を見れば、アイラは小学生くらいを思わせる姿で、青年と同じ金の瞳とダークグレーの長い髪の可愛らしい少女だった。

 そして、ローブが外れた頭部には青年と同じ丸い黒い耳に長い尻尾が揺れている。

 一見して同じ種族であることは分かったが、耳と尻尾以外は人間と遜色ない青年と違い、アイラは動物っぽい鼻とヒゲ、更に肉球がある黒い毛に覆われた腕を持っている。それにより、動物的な雰囲気が色濃く出ていた。

「お兄がごめんね。大丈夫だった? これお兄の服だけど、その服よりはマシだと思うから……」

「……あ、ありがとう……。だけど、大丈夫かな、何か……勘違いしてない? 私、あなたたちに助けてもらう理由に心当たりがないんだけど……」

 手渡された服を受け取りながらも、バカ正直に伝えるには勇気がいったが、万が一人違いで本来助けるべき人が現在進行形でひどい目に遭っていては後味が悪い。

 思い出しても身の毛がよだつような経験に、初音は思わずぶるりと身体を震わせた。

「ううん、間違ってないよ。私はアイラ。数日前に、ハンターの檻から逃がしてもらったクロヒョウだよ。……この姿の方が分かり易いかな」

 そう言うや否や、アイラはぽんと煙に包まれる。どこからともなく現れた煙が消えたそこには、見覚えのある1匹の黒い子猫がちょこんと座っていた。

「あの夜の子猫……じゃなくて、クロヒョウだったんだ……!?」

 驚いた声に返事をするように、アイラはみーと一声鳴くと、再びぽんと煙に包まれて元の人型へと舞い戻る。

「ハンターに捕まって奴隷商人に売られる寸前だったところをお姉に逃がして貰ったんだよ。そしたら代わりにお姉が捕まって連れてかれるのが見えたから、お兄に助けて欲しいってお願いしたの」

「……そっか……心配してたんだけど、逃げられて良かった……っ……それに、こちらこそ助けてくれて本当にありがとう。私は初音って言うんだ、よろしくね」

 事態の成り行きが多少はわかり、安堵もあって視界が滲むのを誤魔化すように預かった服に顔を埋めた。

「……人間と違い、俺たちは人間に捕まると魔法によって気配や臭いを絶たれて消息が掴めなくなる。……アイラを逃がしてくれて、助かった。感謝する」

 青年が静かに呟いた声に、私はそちらを見る。

 ぶっきらぼうな仏頂面でも、その金色の瞳が剣呑さを潜めていることに気づいて、ようやくと息をつけた。

「私こそ……本当に……ありがとう……っ」

 今更ながらにオークションの恐怖が蘇ってきて、ポロリと堪えられなくなった涙が溢れ落ちる。

「大丈夫だよ、お姉」

 ぎゅうとアイラに抱きしめられて、その高い体温にほっとするのと同時に、身体が熱くポカポカするのを感じた。

 身体の内から溢れ出す変な感覚を覚えながら、フラフラと火照る身体を持て余す。

「……お姉?」

 様子のおかしさに心配気に瞳を揺らすアイラと反対に、ハッとしたような顔をした青年が、息を呑んで様子を伺っている。

「うっ……っ」

「お姉? お姉? どうしたの!?」

「うぅっ」

 言い知れない、内から込み上げるような熱さに耐えられない。

「あつ……ぃ……っ」

「お兄! お姉どうしたの!? 病気!? どうしようっ」

 はっはっと荒い息をついて、地面に手をつき項垂れる初音を、青年は無言で見下ろす。

「お兄っ!?」

「…………大丈夫だ、原因はおおかた予想がついている。アイラは奥へ行ってろ。……少し一緒に出かけるから、俺がいいと言うまで出て来るなよ」

「ほんとに? ほんとに大丈夫? お兄っ」

「……あぁ、大丈夫だ」

 少し戸惑い気味の青年の様子を不思議に思いながら、初音は揺れて滲む視界で熱に浮かされたように力無く見上げる。

「……少し出て来る」

「どこ行くの? お姉も帰ってくるんだよね!?」

「……大丈夫だ、心配するな。どっかに置いて来たりはしないから」

 そう言って、初音は自分のものとは思えない身体を青年に抱えあげられて、まだ闇の深い夜の森へと連れ出された。




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