5 / 6
5.
しおりを挟む
あまりの衝撃内容に言葉を失う私の頬を、ヘラがそっと撫でる。
「喜んでいるアマベルも、泣いているアマベルも、嬉しそうなアマベルも、謝るアマベルも、様々な顔と声で鳴くアマベルを、俺はずっと箱の中から見ていた。……あぁ、男どもを股にかけるアマベルもいて、あれは興味深かったけど食指は全く動かなかったかな」
な、何のお話しでしょうかと私は口の端を引きつらせる。
「そんなアマベルを何十、何百、何千、何万回と見せられ続けて、だいたいはあの性悪どもに奪われた……っ」
し、性悪ってメインキャラの人たちのことですよね? と思ったが口に出せそうな雰囲気ではない。
「途中であまりにムカついてあいつらを焼き払ったら、他の住人のキルは禁止になった」
チッと舌打ちをして不満気な顔をするヘラに、そりゃそうでしょうね! と心の中で突っ込みを入れる。
「ーーそんな時、キミが現れた」
「え、私……?」
相変わらず押し倒されたままに、思わずと自分を指し示す私に、ヘラはこくりと頷く。
「群がる男どもに一切と興味を示さず、むしろ迷惑そうに遠ざけるアマベルを見て、今までと違うとすぐに気づいた」
ま、まぁその通りと言えばその通りではあるけれど、私の意図とはズレて見えている気がしないでもない。
「ま、まさか、それで……っ?」
「この機会を逃してはいけないと、男嫌いなアマベルの側にいられるように女の姿に化けて、恩を売り、都合の良い存在となって、ついでに軽度な邪魔者どもを排除して、アマベルに近づいた」
なんかもうそこまでして頂いて申し訳ないです。と変な心境になってきて私は心の中で頭を下げる。
「そうして今日やっと、その口から俺の名を呼ぶその声を聞いて、俺はアマベルに触れることができたんだーー」
その赤い瞳が怪しく光り、私は思わずジリジリと身をよじらせて逃げることを画策するも、両手首を掴まれてただ怯えるしかできない。
「俺以外の男に鳴かされるアマベルが、許せなかった」
「へ、ヘラ……っ?」
「俺は誰よりも、俺を選んでくれたお前を愛している」
「あ、あり、がとう……ございます……っ」
や、やばい。いつの間にか予想外に夢中になっていたお話しが終わってしまった気がする。
「夢にまで見たアマベルが、今俺の腕の中にいることが信じがたい」
熱を込められた、潤んだ赤い瞳から視線が逸らせない。
「そ、そうまで言ってもらえるとなんというか……っ」
「ーー本来の姿の俺は好かないか……?」
「えっ!?」
しゅーんと、すがるような瞳で見つめられて、言葉に詰まった。
正直に申し上げて男性の姿のヘラは、女の子であった時の好感度を持ち越したままの男性として私の中ではすでに認知されており、その理由も懇切丁寧に赤裸々にその好意を向けて頂き、更にはその圧倒的なビジュアルである。
少し(?)強引ではあるも、変態とは違うその気遣いと優しさは伝わるし、ヘラを不快に感じることもなかった。
なかったが、特段断る理由がないような気もして来た反面で、頭の端にチラつくゲームのハード設定だけがただただ引っかかる。
「俺に触れられるのは……イヤか……」
「………………えぇっと……っ」
あなた魔王なんですよね? と思わず突っ込まずにはいられないヘラの有り様に、私は顔を歪めて唇を引き結ぶと、しばしその瞳を閉じて、意を決して口を開く。
「ーーわ、私もヘラのことは好き……だけど、急なことなのと、あの、こう、色々と経験が少ない……と言うか、その、そんな感じなので、か、加減を……して頂けるとありがたい……と、言いますか……っ、……あ、あの、聞いてます……?」
視線を合わせられないまま、確実に真っ赤であろう顔でボソボソと呟くのに、ヘラからの反応があまりにもなくて、不安を覚えた私はそっと視線を上げる。
「……あ、あの……っ?」
私の上に乗ったままに自身の顔を両手で覆ったヘラが、プルプルと小刻みに震えていた。
「ーーこんな日がくるなんて……っ」
「…………………なんて言うか、そんなに喜んでもらえて恐縮……です……」
ふふと、さすがゲームの世界感だなと苦笑する私を、その細くて綺麗な指の間から、ヘラの赤い瞳が覗き見ていることに気づいてびっくりする。
「良かった。できれば同意の上で、優しくしたかったから」
「……へ?」
どこか不穏な言葉を吐いて、弧を描くヘラのその唇の意味を、私はすぐに思い知らされることとなるーー。
☆☆☆
以降は短いですが、比較的に直接的? な音声のみでお送りしておりますのでご注意下さい。とは言え詳細は書いてません←のであまり期待もしないで下さい。。。滝汗←
ここでリターンして最終話に飛んで結末だけ見てお帰りになっても何ら問題はございません。。。。←何
「ふっ、ぅっ、やっ、でっ、電気っ、明かりっ、消してぇ……っ!!」
「…………消してはあげたいけど、アマベルのことが見たいから……っ」
しゅーんと、思ってもいなさそうな表情を、私は潤んだ瞳で憎々し気に見やる。
出たよ出た、その顔っ! その顔すれば大抵通ると思ってるでしょこの悪魔ーーじゃなかった魔王……っ!!
「んぅうっ……っ」
「……気持ちいい?」
蹴飛ばしたい。魔王らしいけど。
「かわいい」
そう言って、ヘラは私の涙を舐め取って、そのまま口を塞ぐ。
「んぅっ」
ぐたりと力の抜けた私の身体をヘラが見下ろす。満足そうにその赤い瞳を細めると、ヘラはそっと手を伸ばしたーー。
「喜んでいるアマベルも、泣いているアマベルも、嬉しそうなアマベルも、謝るアマベルも、様々な顔と声で鳴くアマベルを、俺はずっと箱の中から見ていた。……あぁ、男どもを股にかけるアマベルもいて、あれは興味深かったけど食指は全く動かなかったかな」
な、何のお話しでしょうかと私は口の端を引きつらせる。
「そんなアマベルを何十、何百、何千、何万回と見せられ続けて、だいたいはあの性悪どもに奪われた……っ」
し、性悪ってメインキャラの人たちのことですよね? と思ったが口に出せそうな雰囲気ではない。
「途中であまりにムカついてあいつらを焼き払ったら、他の住人のキルは禁止になった」
チッと舌打ちをして不満気な顔をするヘラに、そりゃそうでしょうね! と心の中で突っ込みを入れる。
「ーーそんな時、キミが現れた」
「え、私……?」
相変わらず押し倒されたままに、思わずと自分を指し示す私に、ヘラはこくりと頷く。
「群がる男どもに一切と興味を示さず、むしろ迷惑そうに遠ざけるアマベルを見て、今までと違うとすぐに気づいた」
ま、まぁその通りと言えばその通りではあるけれど、私の意図とはズレて見えている気がしないでもない。
「ま、まさか、それで……っ?」
「この機会を逃してはいけないと、男嫌いなアマベルの側にいられるように女の姿に化けて、恩を売り、都合の良い存在となって、ついでに軽度な邪魔者どもを排除して、アマベルに近づいた」
なんかもうそこまでして頂いて申し訳ないです。と変な心境になってきて私は心の中で頭を下げる。
「そうして今日やっと、その口から俺の名を呼ぶその声を聞いて、俺はアマベルに触れることができたんだーー」
その赤い瞳が怪しく光り、私は思わずジリジリと身をよじらせて逃げることを画策するも、両手首を掴まれてただ怯えるしかできない。
「俺以外の男に鳴かされるアマベルが、許せなかった」
「へ、ヘラ……っ?」
「俺は誰よりも、俺を選んでくれたお前を愛している」
「あ、あり、がとう……ございます……っ」
や、やばい。いつの間にか予想外に夢中になっていたお話しが終わってしまった気がする。
「夢にまで見たアマベルが、今俺の腕の中にいることが信じがたい」
熱を込められた、潤んだ赤い瞳から視線が逸らせない。
「そ、そうまで言ってもらえるとなんというか……っ」
「ーー本来の姿の俺は好かないか……?」
「えっ!?」
しゅーんと、すがるような瞳で見つめられて、言葉に詰まった。
正直に申し上げて男性の姿のヘラは、女の子であった時の好感度を持ち越したままの男性として私の中ではすでに認知されており、その理由も懇切丁寧に赤裸々にその好意を向けて頂き、更にはその圧倒的なビジュアルである。
少し(?)強引ではあるも、変態とは違うその気遣いと優しさは伝わるし、ヘラを不快に感じることもなかった。
なかったが、特段断る理由がないような気もして来た反面で、頭の端にチラつくゲームのハード設定だけがただただ引っかかる。
「俺に触れられるのは……イヤか……」
「………………えぇっと……っ」
あなた魔王なんですよね? と思わず突っ込まずにはいられないヘラの有り様に、私は顔を歪めて唇を引き結ぶと、しばしその瞳を閉じて、意を決して口を開く。
「ーーわ、私もヘラのことは好き……だけど、急なことなのと、あの、こう、色々と経験が少ない……と言うか、その、そんな感じなので、か、加減を……して頂けるとありがたい……と、言いますか……っ、……あ、あの、聞いてます……?」
視線を合わせられないまま、確実に真っ赤であろう顔でボソボソと呟くのに、ヘラからの反応があまりにもなくて、不安を覚えた私はそっと視線を上げる。
「……あ、あの……っ?」
私の上に乗ったままに自身の顔を両手で覆ったヘラが、プルプルと小刻みに震えていた。
「ーーこんな日がくるなんて……っ」
「…………………なんて言うか、そんなに喜んでもらえて恐縮……です……」
ふふと、さすがゲームの世界感だなと苦笑する私を、その細くて綺麗な指の間から、ヘラの赤い瞳が覗き見ていることに気づいてびっくりする。
「良かった。できれば同意の上で、優しくしたかったから」
「……へ?」
どこか不穏な言葉を吐いて、弧を描くヘラのその唇の意味を、私はすぐに思い知らされることとなるーー。
☆☆☆
以降は短いですが、比較的に直接的? な音声のみでお送りしておりますのでご注意下さい。とは言え詳細は書いてません←のであまり期待もしないで下さい。。。滝汗←
ここでリターンして最終話に飛んで結末だけ見てお帰りになっても何ら問題はございません。。。。←何
「ふっ、ぅっ、やっ、でっ、電気っ、明かりっ、消してぇ……っ!!」
「…………消してはあげたいけど、アマベルのことが見たいから……っ」
しゅーんと、思ってもいなさそうな表情を、私は潤んだ瞳で憎々し気に見やる。
出たよ出た、その顔っ! その顔すれば大抵通ると思ってるでしょこの悪魔ーーじゃなかった魔王……っ!!
「んぅうっ……っ」
「……気持ちいい?」
蹴飛ばしたい。魔王らしいけど。
「かわいい」
そう言って、ヘラは私の涙を舐め取って、そのまま口を塞ぐ。
「んぅっ」
ぐたりと力の抜けた私の身体をヘラが見下ろす。満足そうにその赤い瞳を細めると、ヘラはそっと手を伸ばしたーー。
25
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
夫に惚れた友人がよく遊びに来るんだが、夫に「不倫するつもりはない」と言われて来なくなった。
ほったげな
恋愛
夫のカジミールはイケメンでモテる。友人のドーリスがカジミールに惚れてしまったようで、よくうちに遊びに来て「食事に行きませんか?」と夫を誘う。しかし、夫に「迷惑だ」「不倫するつもりはない」と言われてから来なくなった。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
王妃だって有休が欲しい!~夫の浮気が発覚したので休暇申請させていただきます~
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
【書籍発売記念!】
1/7の書籍化デビューを記念いたしまして、新作を投稿いたします。
全9話 完結まで一挙公開!
「――そう、夫は浮気をしていたのね」
マーガレットは夫に長年尽くし、国を発展させてきた真の功労者だった。
その報いがまさかの“夫の浮気疑惑”ですって!?貞淑な王妃として我慢を重ねてきた彼女も、今回ばかりはブチ切れた。
――愛されたかったけど、無理なら距離を置きましょう。
「わたくし、実家に帰らせていただきます」
何事かと驚く夫を尻目に、マーガレットは侍女のエメルダだけを連れて王城を出た。
だが目指すは実家ではなく、温泉地で有名な田舎町だった。
慰安旅行を楽しむマーガレットたちだったが、彼女らに忍び寄る影が現れて――。
1/6中に完結まで公開予定です。
小説家になろう様でも投稿済み。
表紙はノーコピーライトガール様より
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
婚約していないのに婚約破棄された私のその後
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「アドリエンヌ・カントルーブ伯爵令嬢! 突然ですまないが、婚約を解消していただきたい! 何故なら俺は……男が好きなんだぁああああああ‼」
ルヴェシウス侯爵家のパーティーで、アドリーヌ・カンブリーヴ伯爵令嬢は、突然別人の名前で婚約破棄を宣言され、とんでもないカミングアウトをされた。
勘違いで婚約破棄を宣言してきたのは、ルヴェシウス侯爵家の嫡男フェヴァン。
そのあと、フェヴァンとルヴェシウス侯爵夫妻から丁重に詫びを受けてその日は家に帰ったものの、どうやら、パーティーでの婚約破棄騒動は瞬く間に社交界の噂になってしまったらしい。
一夜明けて、アドリーヌには「男に負けた伯爵令嬢」というとんでもない異名がくっついていた。
頭を抱えるものの、平平凡凡な伯爵家の次女に良縁が来るはずもなく……。
このままだったら嫁かず後家か修道女か、はたまた年の離れた男寡の後妻に収まるのが関の山だろうと諦めていたので、噂が鎮まるまで領地でのんびりと暮らそうかと荷物をまとめていたら、数日後、婚約破棄宣言をしてくれた元凶フェヴァンがやった来た。
そして「結婚してください」とプロポーズ。どうやら彼は、アドリーヌにおかしな噂が経ってしまったことへの責任を感じており、本当の婚約者との婚約破棄がまとまった直後にアドリーヌの元にやって来たらしい。
「わたし、責任と結婚はしません」
アドリーヌはきっぱりと断るも、フェヴァンは諦めてくれなくて……。
死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く
miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。
ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。
断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。
ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。
更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。
平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。
しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。
それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね?
だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう?
※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。
※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……)
※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる