【完結】囚われエンドのフラグを折りまくった自滅ルートで助けられましたが、隠しキャラに囚われて泣きそうです。。【R18までいかない匂わせあり】

月にひにけに

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「し、失礼します……っ」

「あぁ、呼び出してすまなかったね、アマベル嬢。とりあえずそこに座っていて」

 軽いノックと共に開けた扉の先で、薄いクセのある茶色の髪に、茶色の瞳をもつ柔和な印象のクレイ先生が振り返った。

 人が良さそうな笑顔を浮かべる美形である一方で、メインになりそうでならなさそうな、ギリギリラインのキャラクターデザインに私は1人警戒する。

 とは言えこの世界の教師の言葉をむげにする訳にもいかず、示されたソファに言われるがままに大人しく腰掛けた。

「最近の学園生活はどうだい? 少しは慣れたかな? 聞くところによると、目立つ子たちに囲まれてるらしいね?」

「そ、そうなんです! (ゲーム補正の見えない引力によって)お断りしても全然納得してくれなくて……っ!」

「好かれ過ぎるのも大変だねぇ」

 あははと苦笑して、こぽぽとココアを淹れたマグカップを差し出される。

「ココアですか?」

「今日は疲れているようだから特別。……みんなには内緒だよ」

「あ、ありがとうございます」

 一瞬躊躇ちゅうちょしたものの、受け取ってしまった手前口をつけないのも戸惑われた。

「い、いただきます……」

 そう言ってひとまずちょびっとだけ口に含めば、甘くて柔らかな味が口内に広がってホッとする。

「あ、美味しいでーー……っ」

 ぐらりと回る視界に戸惑う間に、さっと手の内からコップを取りさらわれたのがわかった。

「え……っ」

 ソファで傾ぐ身体を、肩を優しく支えられてそのままゆっくりと仰向けに寝かされる。

 ぐるぐると回る自分の身体とは思えない視界に冷や汗をかきながら、恐る恐ると視線だけでクレイ先生を見上げた。

 そこには頬を染めて、世にも表現し難い悦に入ったような顔で、じっとこちらを見下ろすその瞳にゾッとする。

「ちょっ……っ!?」

 ザァっと引く全身の血を自覚して離脱しようと試みるのに、たったひとくちのココアによって身体が全くと言うことを効かなかった。

「ーーアマベル嬢、君がなぜ魔力の強い男たちから求愛を受けるのか知っているかい?」

「はぃ?」

 スイと伸びたクレイ先生の指先が、ソファに転がる私の制服のボタンへと伸びる。

「アマベル嬢から漏れ落ちる魔力の残穢ざんえが、本能に語りかけてくるんだよ。君を手に入れて余すことなくその魔力を吸い上げろ。ってね」

「ーーは、はぁっ!?」

 プチプチと勿体つけるように1つずつ外されていくボタンに、心臓の音が鳴り響く。

 抵抗したいのに、指の先すらうまく動かせていない気がした。

「ずっと機会を待っていたんだ。アマベルが誰とも親密にならず、誰の助けも呼べないこの状況をーー」

「はっ!?」

 はだけた胸元を恍惚の表情で見られていることに鳥肌を立てながら、私は半ばキレ気味に返事をする。

「なっ、なんでーーっ!?」

「アマベルを僕だけのものにするために決まっているだろう? あぁ、芳しいこの香り……っ。ずっとずっと夢に見るまで恋焦がれていたものがついに目の前にあるなんて……っ! ーー魔力はね、蜜事みつじを行うことで、その濃度と甘さを何倍にも増幅させるんだ。ほら、触ってもいないのに、期待して魔力が溢れ出ているよ……っ!!」

 するりとスカートのスソを揺らして肌を撫でられる感触に私は総毛立つ。

「ーーそんな悪い子には、いっぱいお仕置きをしてあげるからね……」

「ちょっ、さっ触らないで!! 触らないでよ!!」

「残念だったね、アマベルが全ての男を振ってくれたおかげで僕たちは繋がれるんだ」

「う、嘘でしょ……っ!?」

 ヤダヤダと頭を振るだけでは何の抵抗にもなりはしなかった。

 そんな馬鹿な。こういう展開にならないが為に必死にフラグを叩き折って来たのに、その結果がコレだなんて信じられない。

 冗談はふざけた設定だけにして欲しい。

 こんなことなら大人しくメインキャラの誰かに甘んじて愛を囁かれるべきだったのか?

 いやでも全員結果的にクセがありそう過ぎて恐ろしい。いやでもこの事態よりはまだマシだったかも知れない。

 いやでも。なんて堂々めぐりをしている暇は本格的に失われつつあった。

 はぁはぁと荒い息で距離を詰めてくるクレイ先生ーーもとい変態に、うぅっと瞳を閉じるしかできない。

 フラグを全折りしたために、助けを呼ぶメインキャラの顔すらぼやけていた。

「やだ、やだ……っ! うっ、ヘラぁ……っ!!」

 うぇん、と半泣きで、女神のように微笑む黒髪の美少女の名を呼ぶ。現状の私には、助けを求められそうな名がヘラしかいない現実を突きつけられた。

 こんなことならもう少し皆んなと仲良くなるんだったと心底後悔したその時、けたたましい音と共に部屋の扉が吹っ飛ぶ。

「な、なんーーわぶっ」

 ガバリと焦ったように身を起こした変態は、呆然と見上げる私の視界からあっという間に窓を突き破ってその姿を消した。

「ーー呼んだ? アマベル」

「…………ヘラ……っ!!!」

 寝転がったままのソファの背もたれからその美しい顔を覗かせたヘラが、いつもの微笑とともに私の頭を優しく撫でた。

 ぶわわっと湧き出る涙を、その細くて白い指先で拭われて、安堵から更に涙が滲む。

「怖かったね。帰りが遅いから、心配して見に来てよかった」

「ヘラぁぁぁぁっっ!!!」

 仰向けのままに動かない身体でガチ泣きをする私を困ったように見下ろして、ヘラはスッとその手を私の額に当てる。

 次の瞬間には嘘みたいに動ける身体に気づいて、私は思わずヘラに抱きついた。

「本当に助けてくれてありがとうっ! 誰がなんて言おうと私はもうヘラしか信じないし、ヘラしかいらないっ!!」

「ーーほんとうに?」

「ヘラは私の命の恩人だよ!! ずっと一緒にいさせて!!」

「うん、もちろんだよ。嬉しい、アマベル。ずっと一緒にいよう」

 ぎゅうと抱きしめ返される腕の力が強い。

「…………ん?」

 腕に抱えたヘラのなんとなくな違和感に、私はそろりと回した腕の力を緩めてその顔を見た。

 普段と変わらぬはずの黒髪に赤い瞳の美少女の笑みが、どことなく怖い。

 あれ、なんでだろう。そうぼんやりと思った次の瞬間には、ヘラに唇を奪われていた。

「んっ!??」

 ガシリと、いたいけな女の子とは思えない力で顔を固定されていて、軽く暴れたところでどうにもならなかった。

「ちょっ、ヘラっ!!? なにーー……な、なに!? その姿は……っ!!!?」

 しばしの後にやっと解放されたと思ってヘラの姿を見た私は、思わずとその動きをとめる。

 美しい美少女の面影を残した美しい顔の男性が、長い黒髪に赤い瞳でうっすらと微笑したままにこちらを見ていた。




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