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嬉しくて〈陽菜語り〉
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「··········彼方君?」
恐る恐る覗き込むと、彼方君は私の方は見ずに「あの」と永瀬に向き直った。
「さっきから聞いてれば·····何なんですか。本当に陽菜さんの彼氏だったんですか」
怒ってる。
私はすごく驚いた。
今までに彼がここまで激しい憤怒の表情を浮かべたことなど無かったからだ。
「いや、彼氏だったけど?何?嫉妬?」
からかい口調で永瀬は彼方君を見下すように言った。
こいつ··········。
「いや·····あなたみたいな人がよく付き合えたなぁと」
彼方君が嘲笑気味に言った。
永瀬がピクリと眉を動かす。
「だってそうでしょう?陽菜さんのこと分かろうともしないで自分の理想だけを押し付けて·····。そんな人誰だって嫌ですよ。挙句彼氏といるのに馴れ馴れしくして··········。大人としても男としてもモラルが無いですよね」
正論をツラツラと述べて最後は笑顔で締め括った。
怒るとこうなるのか··········。
初めて見る彼の表情、仕草に目を奪われる。
目頭が熱くなるのを感じて、私は慌てて目に力を込めた。
カルタじゃないんだなぁ、と涙を堪えながら思った。
カルタは淡々と怒るんじゃない。何か一気に爆発したような怒り方をする。端的に言えば怒鳴り散らす。勿論、一人になった時だけだが。
「··········子供が大人に説教か?お前はそんなに偉い立場なのか?」
大人がよく言う文句を彼方君に投げかける。
「それ、立派な大人だけが言っていい台詞だと思いますよ。少なくともあなたに人間性で劣ってるとは思っていません」
さらりと言う彼に、永瀬が顔を真っ赤にして「はぁ?」と言う。
俗に言う逆ギレというやつだ。
「··········永瀬」
私が口を開くと永瀬は狼狽えたように「なんだよ」と言った。
私はそんな間抜けな男の表情から目を逸らさずに、笑顔で、
「しつこい」
と言った。
永瀬は固まった。
「いい加減にしてよ、ホントに。私はあなたのそういうところが大っ嫌い。私のことをそんなふうに貶すくらいなんだからきっとあなたも私に未練なんて無いのよね?だったら放っておいてくれるかな?せっかくの楽しい時間が興醒めになるから。」
永瀬は口をパクパクさせて言葉も出ない様子だ。
「ね、わからない?親しき仲にも礼儀ありって言葉、知らないの?··········わかったら仕事以外でそういう態度やめてよね」
最後の方は低い声で言った。私が怒っている時に出す声。昔付き合ってたんだから、それくらいは分かるはずだ。
案の定永瀬はヘラヘラと笑いを浮かべながら、
「いや、悪かった悪かった。冗談だってー。それくらい気づけよなぁ」
とか言いながら離れて行った。
最後の最後まで気に触る奴·····。
「··········あの、アイスの汚れ落ちなくなるので早く行きましょう」
彼方君が笑顔でそう言った。
彼の気遣いに心が温かくなる。
さっきまでの荒んだ気持ちは何処へやら、だ。
私たちは自然と手を繋いで売店へと向かった。
「ママ見てー。かっぷるー」
すぐ横を通りかかった女の子に指をさされながら言われた。
ああ良かった。カップルに見えてるんだ。
どこかでやはり不安に思っていた気持ちは薄まり、頬が緩んで口角が上がる。
「どうしたの?」
ニマニマしているのがバレた。
私は少し考えて、そっと人差し指を口に当てて微笑した。
「内緒」
私が不安に思ってたら、きっと君も不安が募るでしょう?
だから、彼の前では弱音は吐かない、それで、できれば一緒にいる間はずっと笑顔でいれるようにと決めていた。
この気持ちは、君に対して湧いた感情。
私はまだ彼が忘れられない。
時々カルタと同じことを言うくせにそれすら自覚していない。それが堪らなく歯痒くて、とても胸が痛くなる。
だけど同じくらい嬉しくも感じる。
この矛盾した感情は、いつになったら消えてくれるのかな。いつになったら、忘れられるのかな。
そんな私の願いを嘲笑うかのように、冷たい秋の風が私に向かって吹いた。
恐る恐る覗き込むと、彼方君は私の方は見ずに「あの」と永瀬に向き直った。
「さっきから聞いてれば·····何なんですか。本当に陽菜さんの彼氏だったんですか」
怒ってる。
私はすごく驚いた。
今までに彼がここまで激しい憤怒の表情を浮かべたことなど無かったからだ。
「いや、彼氏だったけど?何?嫉妬?」
からかい口調で永瀬は彼方君を見下すように言った。
こいつ··········。
「いや·····あなたみたいな人がよく付き合えたなぁと」
彼方君が嘲笑気味に言った。
永瀬がピクリと眉を動かす。
「だってそうでしょう?陽菜さんのこと分かろうともしないで自分の理想だけを押し付けて·····。そんな人誰だって嫌ですよ。挙句彼氏といるのに馴れ馴れしくして··········。大人としても男としてもモラルが無いですよね」
正論をツラツラと述べて最後は笑顔で締め括った。
怒るとこうなるのか··········。
初めて見る彼の表情、仕草に目を奪われる。
目頭が熱くなるのを感じて、私は慌てて目に力を込めた。
カルタじゃないんだなぁ、と涙を堪えながら思った。
カルタは淡々と怒るんじゃない。何か一気に爆発したような怒り方をする。端的に言えば怒鳴り散らす。勿論、一人になった時だけだが。
「··········子供が大人に説教か?お前はそんなに偉い立場なのか?」
大人がよく言う文句を彼方君に投げかける。
「それ、立派な大人だけが言っていい台詞だと思いますよ。少なくともあなたに人間性で劣ってるとは思っていません」
さらりと言う彼に、永瀬が顔を真っ赤にして「はぁ?」と言う。
俗に言う逆ギレというやつだ。
「··········永瀬」
私が口を開くと永瀬は狼狽えたように「なんだよ」と言った。
私はそんな間抜けな男の表情から目を逸らさずに、笑顔で、
「しつこい」
と言った。
永瀬は固まった。
「いい加減にしてよ、ホントに。私はあなたのそういうところが大っ嫌い。私のことをそんなふうに貶すくらいなんだからきっとあなたも私に未練なんて無いのよね?だったら放っておいてくれるかな?せっかくの楽しい時間が興醒めになるから。」
永瀬は口をパクパクさせて言葉も出ない様子だ。
「ね、わからない?親しき仲にも礼儀ありって言葉、知らないの?··········わかったら仕事以外でそういう態度やめてよね」
最後の方は低い声で言った。私が怒っている時に出す声。昔付き合ってたんだから、それくらいは分かるはずだ。
案の定永瀬はヘラヘラと笑いを浮かべながら、
「いや、悪かった悪かった。冗談だってー。それくらい気づけよなぁ」
とか言いながら離れて行った。
最後の最後まで気に触る奴·····。
「··········あの、アイスの汚れ落ちなくなるので早く行きましょう」
彼方君が笑顔でそう言った。
彼の気遣いに心が温かくなる。
さっきまでの荒んだ気持ちは何処へやら、だ。
私たちは自然と手を繋いで売店へと向かった。
「ママ見てー。かっぷるー」
すぐ横を通りかかった女の子に指をさされながら言われた。
ああ良かった。カップルに見えてるんだ。
どこかでやはり不安に思っていた気持ちは薄まり、頬が緩んで口角が上がる。
「どうしたの?」
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私は少し考えて、そっと人差し指を口に当てて微笑した。
「内緒」
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だから、彼の前では弱音は吐かない、それで、できれば一緒にいる間はずっと笑顔でいれるようにと決めていた。
この気持ちは、君に対して湧いた感情。
私はまだ彼が忘れられない。
時々カルタと同じことを言うくせにそれすら自覚していない。それが堪らなく歯痒くて、とても胸が痛くなる。
だけど同じくらい嬉しくも感じる。
この矛盾した感情は、いつになったら消えてくれるのかな。いつになったら、忘れられるのかな。
そんな私の願いを嘲笑うかのように、冷たい秋の風が私に向かって吹いた。
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