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story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
scene .30 ヴィオレッタの出自
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珍しく真剣な眼差しでランテは言葉を続ける。
「しかもその商品とされる人達の多くが色持ちや優秀な研究者で、帝国からの買い手がほとんどらしい」
その話はロルフも聞いたことがあった。だが、五年ほど前からはめっきりその数が減ったため、世間では終息したと考えられているはずでは。
とそこまで考えて、ロルフは一つの仮定に行きついた。確かに研究者達の行方不明者数が減ったのは五年ほど前だが、色持ちについては本人が公にしていないことも多くただの失踪や事故死などとして処理されている可能性も高い。その上……
「山吹の大陸か」
山吹の大陸――四大大陸の内の一つで、一年を通して気温が高く多くの土地が乾燥している大陸だ。獣人たちが暮らすには少々厳しい環境のため、裕福でないもの達が小さな集落を点々と作りどうにか生活している所が多い。そんな土地に住む者たちであれば、誘拐が頻発していても大きな問題として取り上げられることはまずない。もしかすると、僅かな金品と引き換えに色持ち情報の密告や身内からの売買打診なんていう事も可能性としては考えられる。
「さすがだね、そうなんだ」
ランテは一瞬驚いたような表情をロルフに向けると、そのまま視線だけチラッとヴィオレッタの方へ移動させた。この話を始めてからというもの、様子がおかしいのだ。イライラしているような、何かを深く考えているような、そんな面持ちでずっと床を見つめている。
「ねぇ」
そんなヴィオレッタに、ランテは声をかけた。
「違かったらごめんだけど……ヴィオレっちってさ、山吹の大陸の生まれだったりするんじゃない?」
その言葉に、シャルロッテ以外の三人は背筋を凍らせる。プライドの高いヴィオレッタにとって、それは最大の侮辱であるためだ。
だが、思いの外ヴィオレッタは落ち着きを保ったまま、数十秒とも数分ともとれる沈黙の後「そうだけど?」と、怒るでもなくただ吐き捨てるようにそう言うとフイッとランテと逆方向へ顔を背けた。
やっぱりね、そう言いたげなランテとは裏腹に、その意外な答えにロルフたちは驚く。
スエーニョ・デ・エストレーラと言えば、一般的な家庭でも工面するのがやっとと言われる高い入団試験料が有名なのだ。そのお金はチケットでの収入と併せて運営費の他に、貧しい者たちや訪れた村々への恵みとなっていたりする。そんな金額を、山吹の大陸の生まれである者が捻出できるとは考えられないためだ。
ランテは顔を背けたヴィオレッタの視界に入るように移動すると、
「もしかして、あいつらの居所の心当たりあるんじゃない?」
そう質問した。
ヴィオレッタは不貞腐れた様に小さくため息をつくと、「なんなのよ、アナタ……」そう呟いてからランテに視線を向け口を開く。
「ワタシの妹がかけられたって言うオークションを開いたヤツらのアジトを、ね。それを思い出しただけよ」
そうは言うものの、ヴィオレッタの声色は珍しくどこか不安そうな空気を含んでいた。その一味が今回の誘拐犯と同一であるかは分からないが、もし同じならばヴィオレッタにとってかなりの辛労だろう。
誰一人としてかける言葉が見つからず、重い沈黙が流れる中、再び口を開いたのはヴィオレッタだった。
「終わりよ、オワリ。この話はもうウンザリだわ。もうこんな時間だし、お開きにしない?」
そう言うと、ヴィオレッタはひらひらと手を振りながら一番部屋の奥にあるベッドに向かうと、壁の方を向いて横たわる。
そういう理由で言った訳ではないだろうが、食事の時間が長かったこともあり、気づけばもう日付の変わる少し手前だ。
「あーえと、今日はこの辺にしておこっか。明日またお昼前にくるよ」
ランテはじゃっと言いながら手を小さく上げると、そそくさと部屋を後にした。
行き先がおそらく山吹の大陸であるという事が分かった以上、議論についてはこの場でするよりも移動の時間を有効活用した方がよいと言える。そう結論出したロルフ達は、ヴィオレッタに倣って各々選んだベッドに横たわると睡眠をとることにした。
*****
****
***
「どういうことなの!」
翌朝。ロルフ達を夢の世界から引き戻したのは、廊下に響き渡る怒声だった。
声は落ち着いているながらも、怒り心頭といった様子だ。この分厚い壁や扉を突き抜けて眠りを妨げる程なのだから、相当な声量だ。
「お、奥様落ち着いてくださ……」
そう聞き覚えのあるような男性の声がしたかと思うと、ロルフ達の眠る部屋の扉が強い力で開け放たれる。
「お、お母様!」
驚くロルフ達を余所にそのまま部屋の中に足を踏み入れるヒツジ族の女性を、焦った様子で追いかけてきたエルラがそう言って引き留めた。
女性は苛立ちを隠せない様子で振り返ると、
「貴女がこの地域を担当したいと懇願するから任せたのでしょう!」
声を荒げてそう言い放った。
「しかもその商品とされる人達の多くが色持ちや優秀な研究者で、帝国からの買い手がほとんどらしい」
その話はロルフも聞いたことがあった。だが、五年ほど前からはめっきりその数が減ったため、世間では終息したと考えられているはずでは。
とそこまで考えて、ロルフは一つの仮定に行きついた。確かに研究者達の行方不明者数が減ったのは五年ほど前だが、色持ちについては本人が公にしていないことも多くただの失踪や事故死などとして処理されている可能性も高い。その上……
「山吹の大陸か」
山吹の大陸――四大大陸の内の一つで、一年を通して気温が高く多くの土地が乾燥している大陸だ。獣人たちが暮らすには少々厳しい環境のため、裕福でないもの達が小さな集落を点々と作りどうにか生活している所が多い。そんな土地に住む者たちであれば、誘拐が頻発していても大きな問題として取り上げられることはまずない。もしかすると、僅かな金品と引き換えに色持ち情報の密告や身内からの売買打診なんていう事も可能性としては考えられる。
「さすがだね、そうなんだ」
ランテは一瞬驚いたような表情をロルフに向けると、そのまま視線だけチラッとヴィオレッタの方へ移動させた。この話を始めてからというもの、様子がおかしいのだ。イライラしているような、何かを深く考えているような、そんな面持ちでずっと床を見つめている。
「ねぇ」
そんなヴィオレッタに、ランテは声をかけた。
「違かったらごめんだけど……ヴィオレっちってさ、山吹の大陸の生まれだったりするんじゃない?」
その言葉に、シャルロッテ以外の三人は背筋を凍らせる。プライドの高いヴィオレッタにとって、それは最大の侮辱であるためだ。
だが、思いの外ヴィオレッタは落ち着きを保ったまま、数十秒とも数分ともとれる沈黙の後「そうだけど?」と、怒るでもなくただ吐き捨てるようにそう言うとフイッとランテと逆方向へ顔を背けた。
やっぱりね、そう言いたげなランテとは裏腹に、その意外な答えにロルフたちは驚く。
スエーニョ・デ・エストレーラと言えば、一般的な家庭でも工面するのがやっとと言われる高い入団試験料が有名なのだ。そのお金はチケットでの収入と併せて運営費の他に、貧しい者たちや訪れた村々への恵みとなっていたりする。そんな金額を、山吹の大陸の生まれである者が捻出できるとは考えられないためだ。
ランテは顔を背けたヴィオレッタの視界に入るように移動すると、
「もしかして、あいつらの居所の心当たりあるんじゃない?」
そう質問した。
ヴィオレッタは不貞腐れた様に小さくため息をつくと、「なんなのよ、アナタ……」そう呟いてからランテに視線を向け口を開く。
「ワタシの妹がかけられたって言うオークションを開いたヤツらのアジトを、ね。それを思い出しただけよ」
そうは言うものの、ヴィオレッタの声色は珍しくどこか不安そうな空気を含んでいた。その一味が今回の誘拐犯と同一であるかは分からないが、もし同じならばヴィオレッタにとってかなりの辛労だろう。
誰一人としてかける言葉が見つからず、重い沈黙が流れる中、再び口を開いたのはヴィオレッタだった。
「終わりよ、オワリ。この話はもうウンザリだわ。もうこんな時間だし、お開きにしない?」
そう言うと、ヴィオレッタはひらひらと手を振りながら一番部屋の奥にあるベッドに向かうと、壁の方を向いて横たわる。
そういう理由で言った訳ではないだろうが、食事の時間が長かったこともあり、気づけばもう日付の変わる少し手前だ。
「あーえと、今日はこの辺にしておこっか。明日またお昼前にくるよ」
ランテはじゃっと言いながら手を小さく上げると、そそくさと部屋を後にした。
行き先がおそらく山吹の大陸であるという事が分かった以上、議論についてはこの場でするよりも移動の時間を有効活用した方がよいと言える。そう結論出したロルフ達は、ヴィオレッタに倣って各々選んだベッドに横たわると睡眠をとることにした。
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「どういうことなの!」
翌朝。ロルフ達を夢の世界から引き戻したのは、廊下に響き渡る怒声だった。
声は落ち着いているながらも、怒り心頭といった様子だ。この分厚い壁や扉を突き抜けて眠りを妨げる程なのだから、相当な声量だ。
「お、奥様落ち着いてくださ……」
そう聞き覚えのあるような男性の声がしたかと思うと、ロルフ達の眠る部屋の扉が強い力で開け放たれる。
「お、お母様!」
驚くロルフ達を余所にそのまま部屋の中に足を踏み入れるヒツジ族の女性を、焦った様子で追いかけてきたエルラがそう言って引き留めた。
女性は苛立ちを隠せない様子で振り返ると、
「貴女がこの地域を担当したいと懇願するから任せたのでしょう!」
声を荒げてそう言い放った。
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