126 / 149
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
scene .17 救世の凶悪モンスター
しおりを挟む
リオートローク。姿こそ大きめの白いただの狼だが、氷上のフェンリルとも呼ばれる獰猛さで有名なモンスターだ。
その額からは氷でできた立派な角が生え、逆立たせて凍らせることも出来る全身の毛からは常時冷気が漂う。その状態のリオートロークに素手で一度触れたら一巻の終わり、凍傷を起こして壊死すると言う。
「くっ……」
じりじりとにじり寄ってくるリオートロークから目を離さないようにしながら、ランテはエルラを後ろにかばいつつ少しずつ後ろに下がる。
この個体は体長三メートル程、という事は恐らく子供であろうが、素手で敵うような相手ではない。
持ってきた攻撃魔術瓶のうち最も威力のあるものを使ったとしても一瞬怯ませることができる程度だろう。
「う……そでしょ……!」
出来るとすれば脇をすり抜けて走るくらいか……そんなことを誰もが頭に思い浮かべたであろうタイミングで、その隙間を埋めるかのようにもう一匹リオートロークが現れた。
速さで敵うはずもない相手であるため無謀ではあるが、これでは間隙を縫う事すら叶わない。
「あっ……」
足元に無数に散らばる砂利を踏みよろけかけたクロンが、思わずでた声に口を押さえる。先程崩壊した部屋から流れ出てきた土砂がすぐ後ろに迫っていた。これ以上下がることも進むことも出来なくなったこの状況に、絶体絶命か、誰もが息を飲んだその時だった。
ピューゥ、と気持ちの良い指笛の音が洞窟内に鳴り響く。その音に反応したリオートロークは、今までの警戒体制が嘘のように尻尾を振りはしゃぐ犬のように後ろへ戻っていった。
その先にいたのは成体と思われるリオートロークと、その背に跨るマントを着た――
「ヴィオレッタさん!」
ヴィオレッタだった。
ヴィオレッタはクロンの声に反応すると、信じられないものを見たと言いたげな様子で一瞬目を見開いた。そして、流れるような動きでリオートロークから飛び降り自らに身体を擦り付けてくる子供のリオートロークを両手で撫で回すと、これまた流れるようにクロンの元へ駆け寄り、可憐にその体を抱き抱えた。
「えっえぇっあぁぁっ⁉」
そんな情けない声を出して真っ赤になった顔を両手で覆い隠すクロンを他所に、ヴィオレッタは他の者など眼中に無いといった様子で子供のリオートロークに飛び乗る。
「何してんのよ、早く乗んなさい! 瓦礫の一部になりたいの!」
そんな様子を呆気に取られながら眺める一行に、ヴィオレッタは苛ついた様子でそう言い放った。
ロルフはその言葉に我に返ると、ランテに問いかける。
「ランテ! そっちのリオートロークに乗れるか!」
「や、やってみる! エルラ、ほら、この子に乗って!」
ランテが子供のリオートロークに乗るようエルラを誘導している間、ロルフもシャルロッテとロロをリオートロークの背に順に乗せていく。大人のリオートロークともなると体長は子供の倍以上あるが、ヴィオレッタの指示のおかげか身を縮めてくれているため思っているよりも乗りやすい。
「さ、いいわね」
全員がどうにかリオートロークに跨ったのを確認するや否や、ヴィオレッタはそう言って短く指笛を吹いた。
*****
****
***
「いやぁ! 楽しかったぁ!」
「ギリギリセーフって感じだった!」
「あはは、確かに! 次は死と直面してない状態で乗りたいね」
雪の上に体を投げ出しそんな会話をするランテとシャルロッテの横で、ロルフは気分の悪さと闘っていた。ベロベスティ程の速さはないにしろ、走り出したリオートロークの足の速さはとてつもないものだったのだ。
まぁ、そのお陰で瓦礫の一部にならずに済んだのだが。
「ヴィオレッタ、助かったよ。ありがとう」
ロルフは吐き気を掻き消すように大きく息を吸うと、飛び出すと共に崩壊した洞窟を一瞥して素直な気持ちを口にする。
が、そんなロルフにヴィオレッタはギョッとしたような視線を送ったかと思うと、きょろきょろと辺りを見渡し「頭でも打ったのかしら」そう呟いた。
そんな失礼な反応に、ロルフは眼鏡の位置を直しつつ喉まででかかった文句を飲み込む。いつもであれば多少反論する所だが、今回ばかしはそういうことにしておいてやることにしよう。
「助かったのはありがたいんだけど」
未だに足を思うように動かせないロロが座ったままそう口にする。
そして、ヴィオレッタの方を見上げると、
「どうしてこんな所にいたのよ」
誰もが気になっているであろうことを質問した。
ヴィオレッタはフラグメンタ・アストラーリアへ向かう際姿が見えなかったため、ウェネ達の船の方に置いてきたはずだ。そしてここは山の上。それもそんじょそこらの山とは違い、崖のように切り立った作りに降り積もった大量の雪、その上標高も雲より高い。そんな中、なぜこの洞窟にピンポイントで現れたのか。それだけではなく、なぜリオートロークと共にいるのかも気になるところだ。
ヴィオレッタはうーんと考えるように視線を上に向けると、説明するのが面倒だと判断したのか「勘?」そう言って視線を泳がせた。だが、それだけで納得させられていないことは理解しているのか、ちらりと全員の顔を伺う。
「わ、わかったわよ。説明するわ」
その視線、特にクロンの視線に耐えかねたのか、ヴィオレッタはここに来るに至った経緯を話始めた。
その額からは氷でできた立派な角が生え、逆立たせて凍らせることも出来る全身の毛からは常時冷気が漂う。その状態のリオートロークに素手で一度触れたら一巻の終わり、凍傷を起こして壊死すると言う。
「くっ……」
じりじりとにじり寄ってくるリオートロークから目を離さないようにしながら、ランテはエルラを後ろにかばいつつ少しずつ後ろに下がる。
この個体は体長三メートル程、という事は恐らく子供であろうが、素手で敵うような相手ではない。
持ってきた攻撃魔術瓶のうち最も威力のあるものを使ったとしても一瞬怯ませることができる程度だろう。
「う……そでしょ……!」
出来るとすれば脇をすり抜けて走るくらいか……そんなことを誰もが頭に思い浮かべたであろうタイミングで、その隙間を埋めるかのようにもう一匹リオートロークが現れた。
速さで敵うはずもない相手であるため無謀ではあるが、これでは間隙を縫う事すら叶わない。
「あっ……」
足元に無数に散らばる砂利を踏みよろけかけたクロンが、思わずでた声に口を押さえる。先程崩壊した部屋から流れ出てきた土砂がすぐ後ろに迫っていた。これ以上下がることも進むことも出来なくなったこの状況に、絶体絶命か、誰もが息を飲んだその時だった。
ピューゥ、と気持ちの良い指笛の音が洞窟内に鳴り響く。その音に反応したリオートロークは、今までの警戒体制が嘘のように尻尾を振りはしゃぐ犬のように後ろへ戻っていった。
その先にいたのは成体と思われるリオートロークと、その背に跨るマントを着た――
「ヴィオレッタさん!」
ヴィオレッタだった。
ヴィオレッタはクロンの声に反応すると、信じられないものを見たと言いたげな様子で一瞬目を見開いた。そして、流れるような動きでリオートロークから飛び降り自らに身体を擦り付けてくる子供のリオートロークを両手で撫で回すと、これまた流れるようにクロンの元へ駆け寄り、可憐にその体を抱き抱えた。
「えっえぇっあぁぁっ⁉」
そんな情けない声を出して真っ赤になった顔を両手で覆い隠すクロンを他所に、ヴィオレッタは他の者など眼中に無いといった様子で子供のリオートロークに飛び乗る。
「何してんのよ、早く乗んなさい! 瓦礫の一部になりたいの!」
そんな様子を呆気に取られながら眺める一行に、ヴィオレッタは苛ついた様子でそう言い放った。
ロルフはその言葉に我に返ると、ランテに問いかける。
「ランテ! そっちのリオートロークに乗れるか!」
「や、やってみる! エルラ、ほら、この子に乗って!」
ランテが子供のリオートロークに乗るようエルラを誘導している間、ロルフもシャルロッテとロロをリオートロークの背に順に乗せていく。大人のリオートロークともなると体長は子供の倍以上あるが、ヴィオレッタの指示のおかげか身を縮めてくれているため思っているよりも乗りやすい。
「さ、いいわね」
全員がどうにかリオートロークに跨ったのを確認するや否や、ヴィオレッタはそう言って短く指笛を吹いた。
*****
****
***
「いやぁ! 楽しかったぁ!」
「ギリギリセーフって感じだった!」
「あはは、確かに! 次は死と直面してない状態で乗りたいね」
雪の上に体を投げ出しそんな会話をするランテとシャルロッテの横で、ロルフは気分の悪さと闘っていた。ベロベスティ程の速さはないにしろ、走り出したリオートロークの足の速さはとてつもないものだったのだ。
まぁ、そのお陰で瓦礫の一部にならずに済んだのだが。
「ヴィオレッタ、助かったよ。ありがとう」
ロルフは吐き気を掻き消すように大きく息を吸うと、飛び出すと共に崩壊した洞窟を一瞥して素直な気持ちを口にする。
が、そんなロルフにヴィオレッタはギョッとしたような視線を送ったかと思うと、きょろきょろと辺りを見渡し「頭でも打ったのかしら」そう呟いた。
そんな失礼な反応に、ロルフは眼鏡の位置を直しつつ喉まででかかった文句を飲み込む。いつもであれば多少反論する所だが、今回ばかしはそういうことにしておいてやることにしよう。
「助かったのはありがたいんだけど」
未だに足を思うように動かせないロロが座ったままそう口にする。
そして、ヴィオレッタの方を見上げると、
「どうしてこんな所にいたのよ」
誰もが気になっているであろうことを質問した。
ヴィオレッタはフラグメンタ・アストラーリアへ向かう際姿が見えなかったため、ウェネ達の船の方に置いてきたはずだ。そしてここは山の上。それもそんじょそこらの山とは違い、崖のように切り立った作りに降り積もった大量の雪、その上標高も雲より高い。そんな中、なぜこの洞窟にピンポイントで現れたのか。それだけではなく、なぜリオートロークと共にいるのかも気になるところだ。
ヴィオレッタはうーんと考えるように視線を上に向けると、説明するのが面倒だと判断したのか「勘?」そう言って視線を泳がせた。だが、それだけで納得させられていないことは理解しているのか、ちらりと全員の顔を伺う。
「わ、わかったわよ。説明するわ」
その視線、特にクロンの視線に耐えかねたのか、ヴィオレッタはここに来るに至った経緯を話始めた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる