116 / 149
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
scene .7 囚われた友人
しおりを挟む
つい先ほどまでの明るい彼女はどこへ行ってしまったのか、そう思う程にランテは思いつめた表情をしていた。
心なしか組んだ手が震えているようにも見える。
薬を提供してもらう以上何かしらの礼はするべきだとは思っていたが、それがまさかそんな内容だなんて。誰もがそう思い返答に迷っているのか、その場を静けさが支配する。ランテの様子から察するに、簡単に済むことではないのだろう。それが更に返答に対する慎重さを増す原因となっていた。
「ねぇね、だっかん、って何?」
そんな沈黙を初めに破ったのはシャルロッテだった。
こそこそとロルフに耳打ちしたつもりだろうが、この静けさの中では意味もない。
「あんたねぇ……」
全員の視線が自分に注がれたことに驚いたのか、小首をかしげるシャルロッテにツッコミを入れたのはロロである。
一気に緩んだ空気に、ランテが両手を上げ首を振りながら口を開いた。
「あはは、まぁ、無理だよね。たかが薬を分けたくらいで帝国と繋がっているかもしれない誘拐犯から知りもしない人間を奪いかえ」
「待ってください」
ランテのカラ元気の台詞を遮るように、モモがそう言って立ち上がる。そして、
「ロルフさん」
そう言ってロルフの方へと視線を向けた。
モモが言いたいのはゴルトのことだろう。ゴルトがいくら調子のよさそうな怪文書を残していたからといって、囚われた可能性はゼロだとは限らない。何せ相手はあの帝国なのだから、そんな話を以前ロルフはモモとしていたのだ。
誘拐犯、それも帝国と繋がっている可能性があると聞けば気にならない訳がない。
「ちょっと詳しく話を聞かせてくれるか?」
ロルフはモモに向けて頷くと、ランテにそう言う。
急な話の展開に目を瞬かせるランテだったが、二ッと笑う彼女の目にはいつもの悪戯っぽい光が戻っていた。
「時は今からひと月ほど前、うちはその友人と一緒に外に出ていたんだけど……」
天気の良かったその日、二人は国の外へ出掛けていたそうだ。ロルフ達を連れて入って来た転送陣とは別の、山の中へと出る転送陣を使って。特別に理由がある訳でもなく、普段から互いに空いた時間があればよくそうして散歩をしていたという。
そんなある日。国の外は結界がある訳ではないため、まさに山の上の天気。気づくと辺りは雪の海、あっという間に大吹雪になってしまった。ただ、そんなことはよくある事なので問題はなかった。取り敢えずその場をしのぐため、いつもの様に二人は近くの洞窟へと足を踏み入れた。
事件はそこで起きたそうだ。
「今考えると、確かにあの場所にあんな大きな洞窟なんてなかったと思うんだ。でもその時は吹雪で周りがほとんど見えなかったし、あまり深く考えてなかった」
ランテはその時を思い出すように視線を動かす。
「その友人――エルラって言うんだけど、エルラが積もった雪を落とそうと少し洞窟の奥へ足を踏み入れたんだ」
すると警報のような音が洞窟内に響き渡り、二人を隔てるように上部から鉄格子のようなものが落下した。それによって外側と内側に分断されたランテとエルラだったが、ランテの能力もあるため落下物が当たらなくてよかった、程度に思ったらしい。
「でもそう簡単じゃなかった。その格子の向こう側にはどうしてもうちの力が及ばなくて、なぜか……多分洞窟の後ろ側にワープするんだ。何度も何度も試したけど、エルラの元にはたどり着けなかった」
当時を悔しむようにランテは軽く唇を噛む。
ランテの力は簡単に説明すると“不特定または特定の場所にワープする事”が出来る能力らしく、特定の場所にワープする為にはその場所を踏みしめたり触れたりした“記録”が必要だそうだ。ただし、視覚で捉えることの出来る場所であれば、その限りではないらしい。
「エルラは能力については良く知ってる方だと思う。それでもなぜ能力が制限されているのか、それがアイテムのせいなのか環境のせいなのか、原因に心当たりはなかったみたい」
そうこうしているうちに、洞窟の主……かは分からないが、少なくともその罠を仕掛けた者の仲間だと思われる人物が洞窟の奥から現れ、エルラを連れ去って行ってしまったそうだ。
「それでその時、この鍵を頬り投げてそいつが言ったんだ。『この女を開放したければ条件を満たしてまた来い』ってね」
そう言ってランテは“鍵”と呼ばれた青色の小さな石とも宝石とも見て取れる物をテーブルの上に置いた。
「条件って?」
ロロの質問にランテは首を振る。
「わからない」
「え、じゃぁどうやって……」
その言葉に、待ってましたとばかりに口角を片側だけ上げると、ランテはクロンとロロのお茶が置かれた小棚の引き出しから、折りたたまれた紙とペンを取り出した。
「うちだってこの一カ月ただ黙ってエルラの無事を祈ってただけじゃないのさ」
そう言ってその紙をテーブルの上に広げだした。
心なしか組んだ手が震えているようにも見える。
薬を提供してもらう以上何かしらの礼はするべきだとは思っていたが、それがまさかそんな内容だなんて。誰もがそう思い返答に迷っているのか、その場を静けさが支配する。ランテの様子から察するに、簡単に済むことではないのだろう。それが更に返答に対する慎重さを増す原因となっていた。
「ねぇね、だっかん、って何?」
そんな沈黙を初めに破ったのはシャルロッテだった。
こそこそとロルフに耳打ちしたつもりだろうが、この静けさの中では意味もない。
「あんたねぇ……」
全員の視線が自分に注がれたことに驚いたのか、小首をかしげるシャルロッテにツッコミを入れたのはロロである。
一気に緩んだ空気に、ランテが両手を上げ首を振りながら口を開いた。
「あはは、まぁ、無理だよね。たかが薬を分けたくらいで帝国と繋がっているかもしれない誘拐犯から知りもしない人間を奪いかえ」
「待ってください」
ランテのカラ元気の台詞を遮るように、モモがそう言って立ち上がる。そして、
「ロルフさん」
そう言ってロルフの方へと視線を向けた。
モモが言いたいのはゴルトのことだろう。ゴルトがいくら調子のよさそうな怪文書を残していたからといって、囚われた可能性はゼロだとは限らない。何せ相手はあの帝国なのだから、そんな話を以前ロルフはモモとしていたのだ。
誘拐犯、それも帝国と繋がっている可能性があると聞けば気にならない訳がない。
「ちょっと詳しく話を聞かせてくれるか?」
ロルフはモモに向けて頷くと、ランテにそう言う。
急な話の展開に目を瞬かせるランテだったが、二ッと笑う彼女の目にはいつもの悪戯っぽい光が戻っていた。
「時は今からひと月ほど前、うちはその友人と一緒に外に出ていたんだけど……」
天気の良かったその日、二人は国の外へ出掛けていたそうだ。ロルフ達を連れて入って来た転送陣とは別の、山の中へと出る転送陣を使って。特別に理由がある訳でもなく、普段から互いに空いた時間があればよくそうして散歩をしていたという。
そんなある日。国の外は結界がある訳ではないため、まさに山の上の天気。気づくと辺りは雪の海、あっという間に大吹雪になってしまった。ただ、そんなことはよくある事なので問題はなかった。取り敢えずその場をしのぐため、いつもの様に二人は近くの洞窟へと足を踏み入れた。
事件はそこで起きたそうだ。
「今考えると、確かにあの場所にあんな大きな洞窟なんてなかったと思うんだ。でもその時は吹雪で周りがほとんど見えなかったし、あまり深く考えてなかった」
ランテはその時を思い出すように視線を動かす。
「その友人――エルラって言うんだけど、エルラが積もった雪を落とそうと少し洞窟の奥へ足を踏み入れたんだ」
すると警報のような音が洞窟内に響き渡り、二人を隔てるように上部から鉄格子のようなものが落下した。それによって外側と内側に分断されたランテとエルラだったが、ランテの能力もあるため落下物が当たらなくてよかった、程度に思ったらしい。
「でもそう簡単じゃなかった。その格子の向こう側にはどうしてもうちの力が及ばなくて、なぜか……多分洞窟の後ろ側にワープするんだ。何度も何度も試したけど、エルラの元にはたどり着けなかった」
当時を悔しむようにランテは軽く唇を噛む。
ランテの力は簡単に説明すると“不特定または特定の場所にワープする事”が出来る能力らしく、特定の場所にワープする為にはその場所を踏みしめたり触れたりした“記録”が必要だそうだ。ただし、視覚で捉えることの出来る場所であれば、その限りではないらしい。
「エルラは能力については良く知ってる方だと思う。それでもなぜ能力が制限されているのか、それがアイテムのせいなのか環境のせいなのか、原因に心当たりはなかったみたい」
そうこうしているうちに、洞窟の主……かは分からないが、少なくともその罠を仕掛けた者の仲間だと思われる人物が洞窟の奥から現れ、エルラを連れ去って行ってしまったそうだ。
「それでその時、この鍵を頬り投げてそいつが言ったんだ。『この女を開放したければ条件を満たしてまた来い』ってね」
そう言ってランテは“鍵”と呼ばれた青色の小さな石とも宝石とも見て取れる物をテーブルの上に置いた。
「条件って?」
ロロの質問にランテは首を振る。
「わからない」
「え、じゃぁどうやって……」
その言葉に、待ってましたとばかりに口角を片側だけ上げると、ランテはクロンとロロのお茶が置かれた小棚の引き出しから、折りたたまれた紙とペンを取り出した。
「うちだってこの一カ月ただ黙ってエルラの無事を祈ってただけじゃないのさ」
そう言ってその紙をテーブルの上に広げだした。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる