115 / 149
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
scene .6 交換条件
しおりを挟む
「は、はわ……」
一番近くで見ていたモモが顔を赤らめそんな声を漏らした。
ランテは気にする様子もなくクロンの顎を少し引くと、少しずつ口に含んだ薬をクロンの口内へと流し込んでいく。
状況的に考えて、致し方ないとはいえ、ほぼ初対面の人物に口移しで薬を飲ませるとは考えてもいなかったロルフ達は、その様子を眺める事しかできなかった。薬はランテの口の中、そしてクロンは瓶から自力で薬を飲むことができない状況。そう、これは致し方ない事なのだ。
いたたまれないような、何とも形容しがたい気恥ずかしさの漂う中、少しずつ生気が戻ってきたクロンの瞳に映るのは、もちろん間近のランテの顔だった。
初めこそぼんやりと近くに顔がある、その程度の認識だったが、思考が回転し始め状況を理解したクロンは静かに目を見開いた。
柵があるため頭を後ろに避けることも出来ず、だからといってよくも知らぬ女性の身体に自分から触れる勇気もないクロンはその場で硬直する。
「ん……」
「けっ……けほっけほっ」
口内の液体を全て移し終わったランテがクロンから離れたその瞬間。クロンは大きく咳き込んだ。
ただ、それが薬である事を理解していたのか、口移しであったとはいえ吐き出すことなくしっかりと飲み干したところがクロンらしい。
ランテから離れるようにして反対側に身体を捻り肩で息をするクロンに、ランテの表情はきょとんとしたものから少し照れたような笑顔に変わる。相手が子供だからといって、心の底から全く気にしていなかった訳ではないようだ。
「あれ、意識戻ってたんだ。いやぁ、悪いことしたね」
ランテは、恥ずかしさを吹き飛ばすかのようにけらけらと笑い出す。
「もしかしてファーストキス、だったりして」
ちらりと自分の方を見たクロンに向かって、ランテは悪戯っぽく片目を閉じると人差し指で唇に触れた。
そんなランテに、クロンは顔を真っ赤にして俯く。
このことはヴィオレッタに黙っておかなくては。クロンの正常に動かない脳内になぜかそんな考えがよぎったが、それも一瞬のことであった。
「うぅ……」
クロンはそのままの体制で口元に手を添え苦しそうに呻いた。
「あ、そだ、回復薬!」
ランテのその言葉に、ハッとしたロルフが先程受け取った万能回復薬の小瓶を手渡す。
「反応が面白くてすっかり忘れてたや」そう言いながらランテは受け取った万能回復薬の栓を開くと、痛み止めが入っていた小瓶に一回分程の量の中身を移した。そして、それをクロンの前へ差し出す。
「さ、グイっとどうぞ。味わっても良いことないからね」
その言葉の通り、万能回復薬は通常の回復薬の数倍もの青臭さを漂わせていた。クロンは言われた通りグイっと中身を飲み干す。
すると、数秒もしないうちにクロンの顔色はみるみる良くなっていった。
「よし、これで問題なさそうだね」
それを見てランテはそう言うと、腰に手を当て大きくうなずいた。
そして、ちらっとモモを見てからロルフの方へ視線を向けると、
「それじゃ、うちの願いを聞いてもらおうかな」
そう言って二ッと笑った。
*****
****
***
ランテの小屋へ移動した一行は、ランテの話を聞くべく部屋の中央に置かれたテーブルの前に座っていた。
といっても、椅子が足りないこともあり、クロンとロロが腰かけているのは少し離れた所にあるベッドだ。
部屋の中には必要最低限の、しかも使い古された様子の木製家具しかなく、そんなに広さはないが狭苦しさを感じるほどではない。若い女性の部屋、と言うよりは老人が一人で暮らしている部屋、と言われた方がしっくりくるような雰囲気を感じる。
「さ、どうぞ」
ランテは人数分注いだ暖かいお茶をテーブルとベッド横の小棚に置き終えると、自らもテーブルの椅子へと腰かけた。
ちなみに、帰り道で何度も謝ったにもかかわらず、毎度赤面して「大丈夫です」「気にしないでください」と言われながらもクロンに視線を合わせてもらえなくなったランテはどこか寂しそうでもある。
「さて、本題だけど」
ランテは両肘をテーブルにつけ手を組むと、その上に顎を乗せた。
そして、ランテの動きによってゆらりと揺れたお茶の湯気が元に戻る頃、重々しい空気を醸し出すように視線を下へと向け口を開いた。
「囚われた親友の奪還を手伝って欲しいって言ったら協力してくれる?」
一番近くで見ていたモモが顔を赤らめそんな声を漏らした。
ランテは気にする様子もなくクロンの顎を少し引くと、少しずつ口に含んだ薬をクロンの口内へと流し込んでいく。
状況的に考えて、致し方ないとはいえ、ほぼ初対面の人物に口移しで薬を飲ませるとは考えてもいなかったロルフ達は、その様子を眺める事しかできなかった。薬はランテの口の中、そしてクロンは瓶から自力で薬を飲むことができない状況。そう、これは致し方ない事なのだ。
いたたまれないような、何とも形容しがたい気恥ずかしさの漂う中、少しずつ生気が戻ってきたクロンの瞳に映るのは、もちろん間近のランテの顔だった。
初めこそぼんやりと近くに顔がある、その程度の認識だったが、思考が回転し始め状況を理解したクロンは静かに目を見開いた。
柵があるため頭を後ろに避けることも出来ず、だからといってよくも知らぬ女性の身体に自分から触れる勇気もないクロンはその場で硬直する。
「ん……」
「けっ……けほっけほっ」
口内の液体を全て移し終わったランテがクロンから離れたその瞬間。クロンは大きく咳き込んだ。
ただ、それが薬である事を理解していたのか、口移しであったとはいえ吐き出すことなくしっかりと飲み干したところがクロンらしい。
ランテから離れるようにして反対側に身体を捻り肩で息をするクロンに、ランテの表情はきょとんとしたものから少し照れたような笑顔に変わる。相手が子供だからといって、心の底から全く気にしていなかった訳ではないようだ。
「あれ、意識戻ってたんだ。いやぁ、悪いことしたね」
ランテは、恥ずかしさを吹き飛ばすかのようにけらけらと笑い出す。
「もしかしてファーストキス、だったりして」
ちらりと自分の方を見たクロンに向かって、ランテは悪戯っぽく片目を閉じると人差し指で唇に触れた。
そんなランテに、クロンは顔を真っ赤にして俯く。
このことはヴィオレッタに黙っておかなくては。クロンの正常に動かない脳内になぜかそんな考えがよぎったが、それも一瞬のことであった。
「うぅ……」
クロンはそのままの体制で口元に手を添え苦しそうに呻いた。
「あ、そだ、回復薬!」
ランテのその言葉に、ハッとしたロルフが先程受け取った万能回復薬の小瓶を手渡す。
「反応が面白くてすっかり忘れてたや」そう言いながらランテは受け取った万能回復薬の栓を開くと、痛み止めが入っていた小瓶に一回分程の量の中身を移した。そして、それをクロンの前へ差し出す。
「さ、グイっとどうぞ。味わっても良いことないからね」
その言葉の通り、万能回復薬は通常の回復薬の数倍もの青臭さを漂わせていた。クロンは言われた通りグイっと中身を飲み干す。
すると、数秒もしないうちにクロンの顔色はみるみる良くなっていった。
「よし、これで問題なさそうだね」
それを見てランテはそう言うと、腰に手を当て大きくうなずいた。
そして、ちらっとモモを見てからロルフの方へ視線を向けると、
「それじゃ、うちの願いを聞いてもらおうかな」
そう言って二ッと笑った。
*****
****
***
ランテの小屋へ移動した一行は、ランテの話を聞くべく部屋の中央に置かれたテーブルの前に座っていた。
といっても、椅子が足りないこともあり、クロンとロロが腰かけているのは少し離れた所にあるベッドだ。
部屋の中には必要最低限の、しかも使い古された様子の木製家具しかなく、そんなに広さはないが狭苦しさを感じるほどではない。若い女性の部屋、と言うよりは老人が一人で暮らしている部屋、と言われた方がしっくりくるような雰囲気を感じる。
「さ、どうぞ」
ランテは人数分注いだ暖かいお茶をテーブルとベッド横の小棚に置き終えると、自らもテーブルの椅子へと腰かけた。
ちなみに、帰り道で何度も謝ったにもかかわらず、毎度赤面して「大丈夫です」「気にしないでください」と言われながらもクロンに視線を合わせてもらえなくなったランテはどこか寂しそうでもある。
「さて、本題だけど」
ランテは両肘をテーブルにつけ手を組むと、その上に顎を乗せた。
そして、ランテの動きによってゆらりと揺れたお茶の湯気が元に戻る頃、重々しい空気を醸し出すように視線を下へと向け口を開いた。
「囚われた親友の奪還を手伝って欲しいって言ったら協力してくれる?」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる