黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

文字の大きさ
上 下
113 / 149
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族

scene .4 空間系の色持ち

しおりを挟む
「ありゃ! あちゃー!」

 ロルフが土ゴーレムの攻撃を十数回受け止めた頃だった。扉の方からランテの声が聞こえた。

「あぁ、ランテ! こいつも高山植物なんだよな? どうすれば……」

 ちらりと視線を扉の方へ向けながらそこまで口にして、ロルフは違和感に気付く。

「クロンはどうした?」
「ん?」

 そう聞き返しながら、先程の反応が嘘のようにランテはゆっくりと捕まえてきたらしい高山植物たちを畑に戻している。
 そんな呑気なランテを見て、ロルフの脳裏に嫌な予感がよぎった。いや、そもそもクロンがランテに出会えてない可能性はある。ならなぜ戻って来る時に走って……

「嫌だなぁ、そんな顔しないでよ。クロン君ならうちと会った瞬間パタンって倒れちゃってさ、」
「倒れた?」
「うん、そう。でも、連れて帰ってこれるほど力がないんで……」
「――っ!」

 ランテがそこまで説明した時だった。土ゴーレムの次の一撃が、よそ見をしたロルフの脇腹を掠め地面へと激突する。
 地面から、ゴーレムの拳から、大量の土埃が舞う中、無理な体勢で避けたロルフはどうにか彼等の領域に踏み込まぬよう石畳の上に倒れ込んだ。このゴーレムは攻撃と攻撃の間は広いものの、一撃ごとに確実に威力と精度が増している。今回も、ロルフがよそ見をしたタイミングを狙って攻撃をしたようだ。
 そろそろ本格的に対処法を聞き出さなくては、そう思ったロルフの前で何かが崩れるような音がし、砂埃が更に舞い上がった。

「はい、かーんりょ!」

 そんな声と共に土埃の中から少しずつ現れたのは、土ゴーレムではなくランテだった。その指には何やら小さな植物がつままれている。
 黒っぽい色の玉ねぎと形容できるその植物の上部からは緑色のヘタが数センチ伸びており、そこに一枚の葉っぱがついていた。ランテはそのヘタ部分をつまんでおり、植物はその拘束から逃れようと手足のように伸びた根と実の一部をジタバタと振り回している。

「な……!」

 呆気にとられるロルフを余所に、ランテはその植物を地面に掘った小さな穴の中へ軽く埋めた。
 そしてパンパンと手を叩くと立ち上がってロルフの方へ二ッと笑って見せた。が、ロルフの様子を見て首をかしげる。

「あれ? あーえと、今のがね、ゴーレムの正体だよ。クレイデザイナーって言う高山植物」

 クレイデザイナー。自らが植わっている泥や土を用いてゴーレムなどの形を生成し、天敵などから身を守る高山植物だ。収集が困難であることもあり、クレイデザイナーが土人形を操る為に使用する樹液はかなり貴重なフェティシュとして取引されている。
 聞いたことはあれど実際に目にしたのは初めてであるため、確かに普段のロルフであればその情報を聞きたかったであろう。だが、今は違っていた。舞い上がる土埃に咳き込んだタイミングで一瞬視線を地面の方へ向けはしたが、この道幅の狭さだ。隣を誰かが通り過ぎれば流石に気付くというものだ。
 ロルフが驚いていたのはそう、高山植物についてではなく、ランテの移動方法についてだった。

「色持ち、か」

 ロルフはメガネの位置を直しながらそう呟いた。
 転移系の魔術を発動するには短すぎる時間。となれば、考えられることは一つである。最初の違和感――モモに扉を早く閉じるように言った時も気配なくロルフの後ろに登場したが、その時の移動も恐らく能力を使ったものだったのだろう。

「あちゃ、ばれちゃったか」

 一瞬ロルフから視線を外し真顔になったかと思うと、ランテは片目を瞑りながらそう言った。そしてロルフに向かって手を差し出す。

「とかいうお兄さん……ロルフだっけ? も色持ちでしょ? 今時の色持ちってちゃんと自分の能力使いこなせてる人少ないって聞いてたから驚いちゃった。ところで空間系だよね?」
「ああ……」

 ロルフはランテの手を借りて立ち上がると、ズボンの汚れを叩く。
 空間系、つまりは能力の分類の話である。色持ちが神の使いであるという迷信から、神の名を借り≪空間系≫≪時系≫≪万物系≫≪創造系≫≪生命系≫の五つに分類されている。生命系に関しては生神と死神の二神からなるが、その二神は双子であるという逸話もあり、便宜上まとめてそう呼ばれる。
 ロルフの能力は重力使いであるため、空間そのものを作り出したとされる空間神の力――つまり、空間系にあたる訳だ。

「まぁ、そうなるな」
「だよね、うちと一緒だ! よろしくねーロルっち」
「ロル……」

 突然のよくわからない呼称に文句を言おうとしたが、ニコニコと笑うランテにロルフは心の中でため息をつく。この手のタイプには言っても聞き入れられないことをここ最近実感したためだ。
 そんなことよりも今はクロンの心配をするべきだ。ロルフは気持ちを切り替え口を開く。

「クロンの所に案内してくれるか?」
「あ、そうだったね」

 ランテは「ちょっと待ってね」そう言うと、掌を下に向けて空間を叩くように動かした。すると、掌が触れたであろう空間に波紋が広がっていく。波紋が通り過ぎる度にそこにあったはずの景色が薄まっていき――三秒と経つことなく、その場所は空間が切り取られたかのように違う風景を映し出していた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...