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story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
scene .2 高山植物家ランテ
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「んー……やっぱり気になっちゃう?」
“ヒツジ族”その単語を聞いた一行の反応に、彼女はそう言いながら自らの角を触った。ヒツジ族の角は巻角で、どちらかと言うと頭の横についているが、彼女の角は頭の上の方から斜め後ろに向かう様に生えている。
彼女は「んー……」と少し考えるように顎に指を当てると、
「ま、隠すことでもないか」
そう独り言ちた。
「そだよ、うちはヤギ族。まぁ、色々あってこの国に住んでるんだけど。話すとながーい話……聞きたい?」
そう言いながらも話したくはないのか、笑顔を作る彼女の表情は少しぎこちない。
このような表情をされて、ほぼ初対面の人物の過去を聞き出そうとは誰も思えないだろう。ロルフ達は各々首を横に振る。
「あははっ。うん、それが懸命だよっ」
そう言って今までと同じような笑顔に戻った彼女は「改めまして」そう前置きしてわざとらしい咳払いをすると、くるりと一回転した。そして屋敷を背景にこう言った。
「ようこそ、ヒツジ族の国フラグメンタ・アストラーリアへ!」
*****
****
***
「ねぇ、この国って雲の上にあるんでしょ? どうして寒くないのかしら」
屋敷の敷地を出て女性の家に向かう道中、ロロが疑問を口にした。確かに標高はかなり高いはずだが、心地の良い湿度と気温が保たれている。
ちなみに、先程一行が転送された場所はこの国を治める一族が住む屋敷の敷地内だったようだ。なぜそんな場所に国への出入口があるのか、こそこそと人目を気にして裏口から抜け出した彼女が教えてくれる訳もなく、はたまたそんな出入口の鍵をなぜ彼女が持っていたのかは知ることで何か良からぬことの片棒を担がされる事になりそうだと思ったロルフ達は、詳しいことを詮索することはやめた。
それでなくとも見知らぬ地である。面倒ごとは一つで十分だ。
「結界が張ってあるからね」
ロロの質問にもっともらしい答えを口にしたのは彼女――ランテだ。地上で言っていた通り、彼女はこの国で高山植物を育て生計を立てているらしい。今向かっているのは、十年ほど前に祖母が亡くなるまでは二人で暮らしていたという、彼女の住居兼仕事場の小屋である。
「ってっ言っても、普通の結界と違ってこの国の結界は天候すら自由に変えれるらしいよ。うちの友達は今見えてる空こそ本物だけど、雨を降らせたり雪を降らせたり、そんなことは朝飯前に出来るって言ってたし」
この国を治める一族の凄さに、誰からともなく感嘆の声が漏れる。
魔術というのは対象の距離が遠ければ遠い程、また範囲が広がれば広がるほど扱うことが非常に難しくなる。それが通常のモンスター除け結界等の環境自体に変異をもたらさないものであればともかく、天候を変えるなどといった環境に影響を及ぼすものならば尚更だ。それも国という規模でともなれば本来相当な魔力と実力が必要なのである。
それを朝飯前と言ってのけてしまうあたり、ヒツジ族というのは相当な魔術の使い手ということなのだ。
「さ、とうちゃーく」
ランテがそう言って立ち止まったのは、国の集落らしき場所からは大分離れた丘の上だった。水源こそあれ崖のすぐ際らしきこの場所は、高山植物を育てるには最適なのかもしれないが、生活するのには少し不便だろう。
そして少し不思議に見えるのは、国のある場所とランテの暮らす場所とを隔てるかのようにずらりと柵が並べられているせいかもしれない。柵と言っても高さが大人の腰程もない為、侵入者を防止する目的などで付けられている訳ではなさそうだが……
ランテは柵の中央にぽつんと付けられた扉を開くとくるりと踵を返す。
「ここから先はうちの敷地だから自由にしていいよ。でも一つだけ注意! 石の敷いてあるとこ以外は踏まないで。植物たちが怒るから」
はーいと素直に返事をするシャルロッテとロロに、ランテは二ッと笑った。
「うちはちょっくらお茶でも入れてくるよ。準備が出来たら呼びに来るね」
そう言ってランテは今自分で指さした小屋の方へと小走りで向かって行った。
ランテの向かった先には、とても古そうな佇まいの一階建ての木製小屋が建っている。ロルフはその小屋へ向かって、ランテに言われた通り石の敷かれた足場のみを通り歩を進め始める。普段一人しか通らない為か、道は二人がギリギリすれ違える程度の幅しかなく一行は一人ずつ順に扉の中へと進み入る。
「高山植物……今は育ってないのね」
誰に言う訳でもなく、ロロがそう呟いた。
確かにところどころロープなどで区分けされていたり畝立てがされている様だが、その中には植物らしき物は見当たらない。そもそも高山植物というものがどのような見た目をしているのかを知らない為、生えていたとしても名称などは分からないかもしれないが、雑草なども生えていないところを見るとしっかりと管理はされているのだろう。であるとすると、今は時期ではないのだろうか。
「ひぇっ……」
と、最後に中へ入り、扉を閉めようとしたモモが、小さな悲鳴らしき声を上げた。
“ヒツジ族”その単語を聞いた一行の反応に、彼女はそう言いながら自らの角を触った。ヒツジ族の角は巻角で、どちらかと言うと頭の横についているが、彼女の角は頭の上の方から斜め後ろに向かう様に生えている。
彼女は「んー……」と少し考えるように顎に指を当てると、
「ま、隠すことでもないか」
そう独り言ちた。
「そだよ、うちはヤギ族。まぁ、色々あってこの国に住んでるんだけど。話すとながーい話……聞きたい?」
そう言いながらも話したくはないのか、笑顔を作る彼女の表情は少しぎこちない。
このような表情をされて、ほぼ初対面の人物の過去を聞き出そうとは誰も思えないだろう。ロルフ達は各々首を横に振る。
「あははっ。うん、それが懸命だよっ」
そう言って今までと同じような笑顔に戻った彼女は「改めまして」そう前置きしてわざとらしい咳払いをすると、くるりと一回転した。そして屋敷を背景にこう言った。
「ようこそ、ヒツジ族の国フラグメンタ・アストラーリアへ!」
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「ねぇ、この国って雲の上にあるんでしょ? どうして寒くないのかしら」
屋敷の敷地を出て女性の家に向かう道中、ロロが疑問を口にした。確かに標高はかなり高いはずだが、心地の良い湿度と気温が保たれている。
ちなみに、先程一行が転送された場所はこの国を治める一族が住む屋敷の敷地内だったようだ。なぜそんな場所に国への出入口があるのか、こそこそと人目を気にして裏口から抜け出した彼女が教えてくれる訳もなく、はたまたそんな出入口の鍵をなぜ彼女が持っていたのかは知ることで何か良からぬことの片棒を担がされる事になりそうだと思ったロルフ達は、詳しいことを詮索することはやめた。
それでなくとも見知らぬ地である。面倒ごとは一つで十分だ。
「結界が張ってあるからね」
ロロの質問にもっともらしい答えを口にしたのは彼女――ランテだ。地上で言っていた通り、彼女はこの国で高山植物を育て生計を立てているらしい。今向かっているのは、十年ほど前に祖母が亡くなるまでは二人で暮らしていたという、彼女の住居兼仕事場の小屋である。
「ってっ言っても、普通の結界と違ってこの国の結界は天候すら自由に変えれるらしいよ。うちの友達は今見えてる空こそ本物だけど、雨を降らせたり雪を降らせたり、そんなことは朝飯前に出来るって言ってたし」
この国を治める一族の凄さに、誰からともなく感嘆の声が漏れる。
魔術というのは対象の距離が遠ければ遠い程、また範囲が広がれば広がるほど扱うことが非常に難しくなる。それが通常のモンスター除け結界等の環境自体に変異をもたらさないものであればともかく、天候を変えるなどといった環境に影響を及ぼすものならば尚更だ。それも国という規模でともなれば本来相当な魔力と実力が必要なのである。
それを朝飯前と言ってのけてしまうあたり、ヒツジ族というのは相当な魔術の使い手ということなのだ。
「さ、とうちゃーく」
ランテがそう言って立ち止まったのは、国の集落らしき場所からは大分離れた丘の上だった。水源こそあれ崖のすぐ際らしきこの場所は、高山植物を育てるには最適なのかもしれないが、生活するのには少し不便だろう。
そして少し不思議に見えるのは、国のある場所とランテの暮らす場所とを隔てるかのようにずらりと柵が並べられているせいかもしれない。柵と言っても高さが大人の腰程もない為、侵入者を防止する目的などで付けられている訳ではなさそうだが……
ランテは柵の中央にぽつんと付けられた扉を開くとくるりと踵を返す。
「ここから先はうちの敷地だから自由にしていいよ。でも一つだけ注意! 石の敷いてあるとこ以外は踏まないで。植物たちが怒るから」
はーいと素直に返事をするシャルロッテとロロに、ランテは二ッと笑った。
「うちはちょっくらお茶でも入れてくるよ。準備が出来たら呼びに来るね」
そう言ってランテは今自分で指さした小屋の方へと小走りで向かって行った。
ランテの向かった先には、とても古そうな佇まいの一階建ての木製小屋が建っている。ロルフはその小屋へ向かって、ランテに言われた通り石の敷かれた足場のみを通り歩を進め始める。普段一人しか通らない為か、道は二人がギリギリすれ違える程度の幅しかなく一行は一人ずつ順に扉の中へと進み入る。
「高山植物……今は育ってないのね」
誰に言う訳でもなく、ロロがそう呟いた。
確かにところどころロープなどで区分けされていたり畝立てがされている様だが、その中には植物らしき物は見当たらない。そもそも高山植物というものがどのような見た目をしているのかを知らない為、生えていたとしても名称などは分からないかもしれないが、雑草なども生えていないところを見るとしっかりと管理はされているのだろう。であるとすると、今は時期ではないのだろうか。
「ひぇっ……」
と、最後に中へ入り、扉を閉めようとしたモモが、小さな悲鳴らしき声を上げた。
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