105 / 149
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
scene .32 海上演習
しおりを挟む
『ピャギヤェァァ!』
聞いたこともない鳴き声を発しながら、大人の腕程の体長の魚型モンスター――風切魚がバタバタと甲板に落ちていく。
風切魚は鳥の羽根に似た器官を持ち、海上を飛びながら群れで行動するモンスターだ。そのせいもあってか、他のモンスターよりも船に飛び込んでくる確率がかなり高い。しかも今回は大群というだけあって、休む間もなくひっきりなしに甲板に飛び込んでくる。
「ロロ、いい腕してるぬ!」
「ありがと! わたし、魔力が覚醒したらハンターにでもなろうかしら!」
「ハハ! それは頼もしいぬ!」
ウェネとそんな会話をしながらも、ロロは次の魔術瓶をさっと取り握って次の標的に向けて手を開く。
「えぇぇいっ」
そんなチープな掛け声と共に、掌から一体の風切り魚に向かって稲妻が走った。すると、稲妻が当たった風切魚は例の鳴き声を発しながら痺れたように空中で全身をバタバタとさせると、黒焦げになって甲板に落ちた。
「また命中だわ!」
そう言って一瞬ガッツポーズをするロロだが、再びそそくさと魔術瓶を手に取ると次の標的を探しだす。
瓶に書かれている文字を確認せず使っておりどの魔術が発動するかわからないためか、先程のような適当な台詞と共に魔術を放っているものの、命中率はロルフより少し下か、下手すると同じくらいだ。
「ロロちゃん凄いですね、私なんか全然です」
休憩する為手すりの内側に背を預けるようにして腰かけるロルフの隣に、疲れたようにふぅ、と息を吐いてモモがしゃがみこんだ。
群れの中に突入してから早数十分、魔術瓶の使い方に慣れてもなおひっきりなしに飛び込んでくる風切魚を避けつつ他の仲間の様子を観察するには最適な場所だった。稀に誰にも相手にされなかった個体が飛んでくるが、そんな物はロルフの能力でスッと軌道を横にずらしてやればいい。
「僕もです、こういうのちょっと苦手で」
そう言いながらモモがしゃがんだのと反対側に座ったのはクロンだ。
「二人は自分で極められればその方が効率的かもしれないな」
魔術は、熟練度が上がれば上がるほど命中率が上がり、発動するまでにかかる時間も短くなるため、魔力の扱いが下手でないモモやクロンの場合は魔術を極めた方が効果が高いのだ。かく言うロルフもこの魔術瓶に入れられているような中級から上級の攻撃魔術は現在修得中であったりする。
何はともあれ、ファイアボールと扱いが似ているためか、魔術が苦手なため心配していたシャルロッテすらもこの魔術瓶であればそれなりに使いこなせている様子だ。まぁ、今は「こっちの方がらくちんー」などと言って自身の力で凍らせたり燃やしたりしているが……
「あれ、お三人はもうお疲れかぬ?」
三人の様子に気が付いたウェネがロルフ達に近づく。そして、何かを確認するそぶりを見せると、
「もうこんな時間だったんだぬ。皆もすっかり魔術瓶の使い方はマスター出来たみたいだし、そろそろ練習はお開きにしようかぬ」
そう言って見張り台の方に合図を送った。
すると、見張り台にいる青年が手を左右に大きく振り始めた。その動きに合わせて船は進行方向を変え、風切魚の大群から最短で抜けられる方向へと進み始める。
「あわわわっ」
「ぎゃっ」
「ありゃ。悪いぬ、二人共」
急な方向転換について行けず、立っていたシャルロッテがロロを巻き込んで手すりに激突した。それを見たウェネは笑いながら謝った。
ちなみにこの船には舵輪などがついておらず、魔術のみで速度や方向を制御している。先程の青年の動きは舵を切る為の動きであったという訳だ。魔術レベルの高いトゥアタラ族だからこそ扱える作りの船だろう。
「もう終わりなのね?」
ロロはシャルロッテの腕の下をくぐり拘束から抜け出しながら、一時的な魔導結界を船の周りに張りだすウェネにそう聞いた。
「大人達が疲れたみたいだし、ロロとシャルロッテも十分大丈夫そうだからぬ!」
「大丈夫って?」
首を捻るシャルロッテの言葉に、ウェネはあれ? と言いたげな雰囲気で目をぱちくりと瞬かせた。
「言ってなかったかぬ? 船の警備を二人一組でやってもらうって」
初めて聞いた、そう言いたげなロルフ達の表情に、
「あー……そっかそっか。言い忘れてたみたいだぬ。ボクとしたことがうっかりしてたぬ」
ウェネはそう言って、照れたような困ったような顔で頭を掻く。
「ボクとアイツは操縦があるからずっと警備に就いてる訳にはいかなくて……よろしく頼めるかぬ? ってもう海の上な訳だけど」
気まずそうにするウェネの心配を余所に、ロロは目を輝かせ言う。
「まっかせて! わたしにかかればどんなモンスターだって“いちもうだじん”なんだから!」
そして、小さな胸を力強く叩いた。
その気持ちはロルフ達も例外ではない。もちろん、どんなモンスターも一網打尽という点ではなく、船上警備についてだ。
見返りを求める訳でもなく船を出してもらっている以上、それ位のことはむしろ進んでするべきだろう。快く了承したロルフ達に、ウェネは安堵したように笑った。
聞いたこともない鳴き声を発しながら、大人の腕程の体長の魚型モンスター――風切魚がバタバタと甲板に落ちていく。
風切魚は鳥の羽根に似た器官を持ち、海上を飛びながら群れで行動するモンスターだ。そのせいもあってか、他のモンスターよりも船に飛び込んでくる確率がかなり高い。しかも今回は大群というだけあって、休む間もなくひっきりなしに甲板に飛び込んでくる。
「ロロ、いい腕してるぬ!」
「ありがと! わたし、魔力が覚醒したらハンターにでもなろうかしら!」
「ハハ! それは頼もしいぬ!」
ウェネとそんな会話をしながらも、ロロは次の魔術瓶をさっと取り握って次の標的に向けて手を開く。
「えぇぇいっ」
そんなチープな掛け声と共に、掌から一体の風切り魚に向かって稲妻が走った。すると、稲妻が当たった風切魚は例の鳴き声を発しながら痺れたように空中で全身をバタバタとさせると、黒焦げになって甲板に落ちた。
「また命中だわ!」
そう言って一瞬ガッツポーズをするロロだが、再びそそくさと魔術瓶を手に取ると次の標的を探しだす。
瓶に書かれている文字を確認せず使っておりどの魔術が発動するかわからないためか、先程のような適当な台詞と共に魔術を放っているものの、命中率はロルフより少し下か、下手すると同じくらいだ。
「ロロちゃん凄いですね、私なんか全然です」
休憩する為手すりの内側に背を預けるようにして腰かけるロルフの隣に、疲れたようにふぅ、と息を吐いてモモがしゃがみこんだ。
群れの中に突入してから早数十分、魔術瓶の使い方に慣れてもなおひっきりなしに飛び込んでくる風切魚を避けつつ他の仲間の様子を観察するには最適な場所だった。稀に誰にも相手にされなかった個体が飛んでくるが、そんな物はロルフの能力でスッと軌道を横にずらしてやればいい。
「僕もです、こういうのちょっと苦手で」
そう言いながらモモがしゃがんだのと反対側に座ったのはクロンだ。
「二人は自分で極められればその方が効率的かもしれないな」
魔術は、熟練度が上がれば上がるほど命中率が上がり、発動するまでにかかる時間も短くなるため、魔力の扱いが下手でないモモやクロンの場合は魔術を極めた方が効果が高いのだ。かく言うロルフもこの魔術瓶に入れられているような中級から上級の攻撃魔術は現在修得中であったりする。
何はともあれ、ファイアボールと扱いが似ているためか、魔術が苦手なため心配していたシャルロッテすらもこの魔術瓶であればそれなりに使いこなせている様子だ。まぁ、今は「こっちの方がらくちんー」などと言って自身の力で凍らせたり燃やしたりしているが……
「あれ、お三人はもうお疲れかぬ?」
三人の様子に気が付いたウェネがロルフ達に近づく。そして、何かを確認するそぶりを見せると、
「もうこんな時間だったんだぬ。皆もすっかり魔術瓶の使い方はマスター出来たみたいだし、そろそろ練習はお開きにしようかぬ」
そう言って見張り台の方に合図を送った。
すると、見張り台にいる青年が手を左右に大きく振り始めた。その動きに合わせて船は進行方向を変え、風切魚の大群から最短で抜けられる方向へと進み始める。
「あわわわっ」
「ぎゃっ」
「ありゃ。悪いぬ、二人共」
急な方向転換について行けず、立っていたシャルロッテがロロを巻き込んで手すりに激突した。それを見たウェネは笑いながら謝った。
ちなみにこの船には舵輪などがついておらず、魔術のみで速度や方向を制御している。先程の青年の動きは舵を切る為の動きであったという訳だ。魔術レベルの高いトゥアタラ族だからこそ扱える作りの船だろう。
「もう終わりなのね?」
ロロはシャルロッテの腕の下をくぐり拘束から抜け出しながら、一時的な魔導結界を船の周りに張りだすウェネにそう聞いた。
「大人達が疲れたみたいだし、ロロとシャルロッテも十分大丈夫そうだからぬ!」
「大丈夫って?」
首を捻るシャルロッテの言葉に、ウェネはあれ? と言いたげな雰囲気で目をぱちくりと瞬かせた。
「言ってなかったかぬ? 船の警備を二人一組でやってもらうって」
初めて聞いた、そう言いたげなロルフ達の表情に、
「あー……そっかそっか。言い忘れてたみたいだぬ。ボクとしたことがうっかりしてたぬ」
ウェネはそう言って、照れたような困ったような顔で頭を掻く。
「ボクとアイツは操縦があるからずっと警備に就いてる訳にはいかなくて……よろしく頼めるかぬ? ってもう海の上な訳だけど」
気まずそうにするウェネの心配を余所に、ロロは目を輝かせ言う。
「まっかせて! わたしにかかればどんなモンスターだって“いちもうだじん”なんだから!」
そして、小さな胸を力強く叩いた。
その気持ちはロルフ達も例外ではない。もちろん、どんなモンスターも一網打尽という点ではなく、船上警備についてだ。
見返りを求める訳でもなく船を出してもらっている以上、それ位のことはむしろ進んでするべきだろう。快く了承したロルフ達に、ウェネは安堵したように笑った。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!
べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界転移で無双したいっ!
朝食ダンゴ
ファンタジー
交通事故で命を落とした高校生・伊勢海人は、気が付くと一面が灰色の世界に立っていた。
目の前には絶世の美少女の女神。
異世界転生のテンプレ展開を喜ぶカイトであったが、転生時の特典・チートについて尋ねるカイトに対して、女神は「そんなものはない」と冷たく言い放つのだった。
気が付くと、人間と兵士と魔獣が入り乱れ、矢と魔法が飛び交う戦場のど真ん中にいた。
呆然と立ち尽くすカイトだったが、ひどい息苦しさを覚えてその場に倒れこんでしまう。
チート能力が無いのみならず、異世界の魔力の根源である「マナ」への耐性が全く持たないことから、空気すらカイトにとっては猛毒だったのだ。
かろうじて人間軍に助けられ、「マナ」を中和してくれる「耐魔のタリスマン」を渡されるカイトであったが、その素性の怪しさから投獄されてしまう。
当初は楽観的なカイトであったが、現実を知るにつれて徐々に絶望に染まっていくのだった。
果たしてカイトはこの世界を生き延び、そして何かを成し遂げることができるのだろうか。
異世界チート無双へのアンチテーゼ。
異世界に甘えるな。
自己を変革せよ。
チートなし。テンプレなし。
異世界転移の常識を覆す問題作。
――この世界で生きる意味を、手に入れることができるか。
※この作品は「ノベルアップ+」で先行配信しています。
※あらすじは「かぴばーれ!」さまのレビューから拝借いたしました。
アラフォー料理人が始める異世界スローライフ
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。
わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。
それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。
男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。
いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる