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story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
scene .29 三つ目の一族
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「でもなぜ、なぜこの玉梓の宛先が俺だと思ったんです?」
ロルフの質問に、老人は「あぁ、そのことかの」そう前置き少し考える様に視線を宙へと向けると、
「わしらには特殊な力があっての。――ほれ、コノ」
ちょいちょいと手を動かして孫を呼んだ。そして、老人の膝元にちょこんと座り、「いいの?」そう言いたげなコノに静かに頷いた。
それを確認したコノは、ゆっくりと前髪を掻き分ける。
数秒の静寂の後、ロルフ達は思わず息を飲んだ。コノの額の中央には本来あるはずの無い――瞼のようなものがあった。
「トゥアタラ族には第三の目が備わっているのじゃぬ。この瞳では光を見ることは出来ぬのじゃが……魔力を見ることが出来ての。わしらはそれを使ってその流れや質、種類を見分けることができるという訳じゃぬ」
「つまりは……」
「そう、そなたにはその玉梓を書き記した主と同じ魔力を見ることが出来たのじゃぬ」
本来魔力はその術の難易度や制度により変化するもので、使用する人により異なることはほとんどないそうだ。だが、謎の封書には不思議な色の魔力の痕跡があり、その色というのが他の魔力が持つものとは似て非なるものだったと言う。
「わしはこの数百年、数え切れぬ程多くの色を見てきたぬ。じゃが、そのどの色とも違ったのじゃ」
老人は懐かしむかのように視線を宙へと浮かせそう言う。そして再度ロルフの方へ視線を向けると、
「じゃがこの歳になって、自らの足で歩くことすらままならなくなってしまってぬ。ついに見つけることはできなかった、そう思っとった。まぁ、初めての封書が届いた時すでにわしはよぼよぼのじじいじゃて、仕方ないと思ったが……そんなところにお前さんが現れたという訳じゃぬ」
*****
****
***
「へぇ、じぃじがそんなこと……」
夕食の席で、コノ達が興奮気味に話す今日の出来事を、ウェネやウェネが整備に連れて行ったトコ、ガト、ヒネの三人も興味津々といった様子で聞いていた。
何より、トゥアタラ族が三つ目である事を老人が他の民族に明かしたことに驚いたようだ。
「でもどうして隠してるの? 凄いっていい事でしょ?」
そんなシャルロッテの素朴な疑問に、ウェネは「アハハ」と笑うと少し困ったような表情で答える。
「そりゃぁだって……他の人たちから見たら怖いからだぬ」
そう言いながら、何か思い出すことでもあるのか、ウェネはどこか寂しそうに笑った。
そんなウェネを励ますように、ロロが意見を口にする。
「怖いって言ったって魔力が見えるなんて本当にすごい事じゃない。わたしは隠す必要なんてないと思うけど」
「そ、そうですよ! 私も素敵だと思います!」
モモの賛同に、クロンもコクコクと首を縦に振る。
「そう言ってもらえて嬉しいぬ。皆が皆そう言う考えなら良かったんだけどぬ。――世の中そう上手くは出来てないんだぬ」
本心でのその言葉の重みに、思わず場が沈黙に包まれる。
色持ちであることをできるだけ公にしないよう過ごしてきたロルフ達にとって、トゥアタラ族の気持ちはよくわかる。“皆と違う”ただそれだけで残酷な仕打ちをする者がいることは確かなのだ。
「そうは言ってもだぬ! 実はこの目のお陰で書き陣が発展したって言われてるんだぬ!」
自分の発言で重くなってしまった場の空気に耐えられなくなったのか、普段は落ち着いた物言いのウェネが珍しく声を張る。
それに合わせて相変わらず話す時だけタイミングバッチリの六つ子も口を開いた。
「そうなの!」
「ぼく達」
「トゥアタラ族が」
「初めて魔法陣を」
「書き出したって」
「言われてるんだぬ」
古の時代、魔術というのは詠唱でのみ使用できるものだったそうだ。そんな中、当時でももちろん魔力の流れを見ることのできたトゥアタラ族の祖先は、何を思ったか詠唱によって現れた魔力の流れを地面に書き写し始めた。すると、書き写した陣から詠唱するのと同じ効果が得られたという。
効果のある陣を生成するためには形だけではなく魔力が必要であるためその話が定かである確証はないものの、それが書き陣の始まりだとトゥアタラ族では古くから語り継がれているそうだ。
ちなみに陣にはそれぞれ特徴があり、詠唱陣はいつどこでも仕掛けることができるが、効果が短く、基本的に詠唱者と離れることができない。書き陣は仕掛けた場所にしか存在できないが、効果は永続的で、書き手が近くにいなくても効果を発動でき、他の人物に発動権利を与えることなどもできたりもする。
ゴルトの店と屋敷の地下とを繋いでいたのはこの内後者の書き陣という訳だ。
「あ、そうだ」
話の途中でウェネはポケットをごそごそとまさぐると、小瓶のようなものを取り出しテーブルの中央に置いた。
「これがなんだかわかるかぬ?」
置かれた小瓶は、手のひらに収まる程の大きさで薄い青緑色をしていた。ただ、それ以外には特に変わった点の無い、何の変哲もない小瓶に見える。
考え込んでしまったロルフ達を尻目に、ウェネは楽しげに笑うと小瓶を手に取りグッと握った。
ロルフの質問に、老人は「あぁ、そのことかの」そう前置き少し考える様に視線を宙へと向けると、
「わしらには特殊な力があっての。――ほれ、コノ」
ちょいちょいと手を動かして孫を呼んだ。そして、老人の膝元にちょこんと座り、「いいの?」そう言いたげなコノに静かに頷いた。
それを確認したコノは、ゆっくりと前髪を掻き分ける。
数秒の静寂の後、ロルフ達は思わず息を飲んだ。コノの額の中央には本来あるはずの無い――瞼のようなものがあった。
「トゥアタラ族には第三の目が備わっているのじゃぬ。この瞳では光を見ることは出来ぬのじゃが……魔力を見ることが出来ての。わしらはそれを使ってその流れや質、種類を見分けることができるという訳じゃぬ」
「つまりは……」
「そう、そなたにはその玉梓を書き記した主と同じ魔力を見ることが出来たのじゃぬ」
本来魔力はその術の難易度や制度により変化するもので、使用する人により異なることはほとんどないそうだ。だが、謎の封書には不思議な色の魔力の痕跡があり、その色というのが他の魔力が持つものとは似て非なるものだったと言う。
「わしはこの数百年、数え切れぬ程多くの色を見てきたぬ。じゃが、そのどの色とも違ったのじゃ」
老人は懐かしむかのように視線を宙へと浮かせそう言う。そして再度ロルフの方へ視線を向けると、
「じゃがこの歳になって、自らの足で歩くことすらままならなくなってしまってぬ。ついに見つけることはできなかった、そう思っとった。まぁ、初めての封書が届いた時すでにわしはよぼよぼのじじいじゃて、仕方ないと思ったが……そんなところにお前さんが現れたという訳じゃぬ」
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「へぇ、じぃじがそんなこと……」
夕食の席で、コノ達が興奮気味に話す今日の出来事を、ウェネやウェネが整備に連れて行ったトコ、ガト、ヒネの三人も興味津々といった様子で聞いていた。
何より、トゥアタラ族が三つ目である事を老人が他の民族に明かしたことに驚いたようだ。
「でもどうして隠してるの? 凄いっていい事でしょ?」
そんなシャルロッテの素朴な疑問に、ウェネは「アハハ」と笑うと少し困ったような表情で答える。
「そりゃぁだって……他の人たちから見たら怖いからだぬ」
そう言いながら、何か思い出すことでもあるのか、ウェネはどこか寂しそうに笑った。
そんなウェネを励ますように、ロロが意見を口にする。
「怖いって言ったって魔力が見えるなんて本当にすごい事じゃない。わたしは隠す必要なんてないと思うけど」
「そ、そうですよ! 私も素敵だと思います!」
モモの賛同に、クロンもコクコクと首を縦に振る。
「そう言ってもらえて嬉しいぬ。皆が皆そう言う考えなら良かったんだけどぬ。――世の中そう上手くは出来てないんだぬ」
本心でのその言葉の重みに、思わず場が沈黙に包まれる。
色持ちであることをできるだけ公にしないよう過ごしてきたロルフ達にとって、トゥアタラ族の気持ちはよくわかる。“皆と違う”ただそれだけで残酷な仕打ちをする者がいることは確かなのだ。
「そうは言ってもだぬ! 実はこの目のお陰で書き陣が発展したって言われてるんだぬ!」
自分の発言で重くなってしまった場の空気に耐えられなくなったのか、普段は落ち着いた物言いのウェネが珍しく声を張る。
それに合わせて相変わらず話す時だけタイミングバッチリの六つ子も口を開いた。
「そうなの!」
「ぼく達」
「トゥアタラ族が」
「初めて魔法陣を」
「書き出したって」
「言われてるんだぬ」
古の時代、魔術というのは詠唱でのみ使用できるものだったそうだ。そんな中、当時でももちろん魔力の流れを見ることのできたトゥアタラ族の祖先は、何を思ったか詠唱によって現れた魔力の流れを地面に書き写し始めた。すると、書き写した陣から詠唱するのと同じ効果が得られたという。
効果のある陣を生成するためには形だけではなく魔力が必要であるためその話が定かである確証はないものの、それが書き陣の始まりだとトゥアタラ族では古くから語り継がれているそうだ。
ちなみに陣にはそれぞれ特徴があり、詠唱陣はいつどこでも仕掛けることができるが、効果が短く、基本的に詠唱者と離れることができない。書き陣は仕掛けた場所にしか存在できないが、効果は永続的で、書き手が近くにいなくても効果を発動でき、他の人物に発動権利を与えることなどもできたりもする。
ゴルトの店と屋敷の地下とを繋いでいたのはこの内後者の書き陣という訳だ。
「あ、そうだ」
話の途中でウェネはポケットをごそごそとまさぐると、小瓶のようなものを取り出しテーブルの中央に置いた。
「これがなんだかわかるかぬ?」
置かれた小瓶は、手のひらに収まる程の大きさで薄い青緑色をしていた。ただ、それ以外には特に変わった点の無い、何の変哲もない小瓶に見える。
考え込んでしまったロルフ達を尻目に、ウェネは楽しげに笑うと小瓶を手に取りグッと握った。
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