86 / 149
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
scene .13 封じられた図書室
しおりを挟む
仕掛けはよく分からないが、鍵穴に差し込むことでそのドアの鍵へと変形するようになっているのだろう。もしかすると、この鍵一本でこの地下室にある全てのドアを開錠することができるのかもしれない。
それにしても、なぜ一本の鍵で開いてしまうにも関わらずドアによって紋章を一つ一つ変えたのだろうか。
「……まぁ、ゴルトらしいか」
ゴルトの性格を考えて、ロルフは苦笑する。
面倒事を毛嫌いする癖に、魔術の事となると貴重なフェティシュを一つ手に入れるため別の大陸まで移動したり、三日三晩寝食を忘れて没頭したりするような人なのだ。何かを実験するためにしたことかもしれない。
鍵を見つめながら、自分達を庇いあの場に一人残ったゴルトの事を思い出す。ゴルトがあの後どうなったのか、なぜ共に屋敷へ飛ぶことをしなかったのか、それ以外にも起きた出来事や疑問が多すぎて、ロルフですら混乱してしまいそうだった。しかし、ここで考え込んでいても意味がないだろう。
「さて」
ロルフは気分を変えるため咳ばらいをすると、鍵をポケットへ戻しドアノブを掴んでゆっくりと扉を開ける。
重み相応の音を立てながら扉が開くと、例のごとく部屋内部に設置された魔導ランプが光を吸収していく。
「はずれ、か」
明るくなった部屋の中は、先程ロルフ達がゴルトの店から飛んできた部屋に似た作りで、辺り一面に魔法陣が描かれていた。念のため部屋の中に入り内装を確認するが、特に変わった点もないためロルフは無言で部屋を後にした。
そして、初めの部屋と同様に、ドアの下部や周りが薄汚れた扉を七、八か所確認したが、ロルフの求める部屋は見つからなかった。
「そう言えば、ゴルトの言ってた書物ってのはどこにあるんだ?」
好きにしてよいとゴルトに言われた書物がいずれの部屋にも見当たらなかったことを思い出し、ロルフは独り言ちた。
周囲が薄汚れていない扉は飛ばして確認してきたためそのいずれかの部屋にある可能性もあるが、どの部屋も家具はあまりなく魔法陣にまみれているばかりだった。地下がこんなにも広い場所であるのなら、部屋の位置くらいは伝えて欲しいものだ。まぁ、現状を考えると読書よりも優先すべき事項が多くあるため、見つからないのであればそれでも構わないのだが。
ロルフは悶々とそんなことを考えながら、次の扉のドアノブを引いた。
「……?」
他の部屋ではドアを開けると共に魔導ランプが灯るのだが、この部屋には魔導ランプがつけられていないらしい。ロルフは入り口に掛けられた燭台を手に取り、ロウソクに火をともした。
この部屋の様子は、ぼんやりとした光の中でも分る程に他の部屋のものとは異なっていた。部屋の片側には本棚が備え付けられており、そこから飛び出した本がそこら中に散らばっている。足の踏み場もない。
「これは一体……?」
何者かに荒らされたかのような部屋の様子に眉をひそめると、ロルフは燭台を元の位置に戻し、近くの本から少しずつ拾い上げていく。煤埃が部屋を出る前にでも荒らして行ったのだろうか。
拾った本はどれも古い物のようで、よくよく見るとどれも昔に読んだ覚えのある本ばかりだった。
「懐かしいな……でもどうしてこんな場所に……」
半分ほど本を本棚に戻したところで、ロルフは違和感に気づいた。四台横並びになっている本棚の内、ドア側から数えて二台目の本棚の下部がやけに汚れている。
スッと撫でるように汚れに触れると、ドアについているのと同じ汚れのようだ。
「という事は」
ロルフは本棚を奥や手前に動かそうと、力を込める。が、びくともしない。
薄暗くてよく見えない中周囲を見渡してみるものの、特に何か手掛かりがある訳でもなくロルフはその場に立ち尽くす。
よく観察しようと燭台を取りに入り口へ近づくと、僅かにだが扉の内側の一部が他の場所とは明らかに異なった質感をしているのに気づいた。
「これは……蝋か?」
つるつるとしたその部位を確認しようと、ロルフが指を滑らせたその時だった。
「……っ!」
触れた箇所が発光すると同時に、何か力のようなものを吸い取られる感覚に襲われたロルフは思わず手を離した。途中で離したためか、その光は徐々にぼんやりとしていき、数秒もしないうちに消えてしまった。
――何とも、ない……? ロルフは自分の手を見つめながら体に問題がないか確認した。吸い取られていると感じたのは錯覚だったようだ。
そして一つ思い出したことがあった。ロルフは昔にも一度この感覚を経験している。
ロルフは決心すると、再び蝋らしきその跡の上に指を滑らせた。
それにしても、なぜ一本の鍵で開いてしまうにも関わらずドアによって紋章を一つ一つ変えたのだろうか。
「……まぁ、ゴルトらしいか」
ゴルトの性格を考えて、ロルフは苦笑する。
面倒事を毛嫌いする癖に、魔術の事となると貴重なフェティシュを一つ手に入れるため別の大陸まで移動したり、三日三晩寝食を忘れて没頭したりするような人なのだ。何かを実験するためにしたことかもしれない。
鍵を見つめながら、自分達を庇いあの場に一人残ったゴルトの事を思い出す。ゴルトがあの後どうなったのか、なぜ共に屋敷へ飛ぶことをしなかったのか、それ以外にも起きた出来事や疑問が多すぎて、ロルフですら混乱してしまいそうだった。しかし、ここで考え込んでいても意味がないだろう。
「さて」
ロルフは気分を変えるため咳ばらいをすると、鍵をポケットへ戻しドアノブを掴んでゆっくりと扉を開ける。
重み相応の音を立てながら扉が開くと、例のごとく部屋内部に設置された魔導ランプが光を吸収していく。
「はずれ、か」
明るくなった部屋の中は、先程ロルフ達がゴルトの店から飛んできた部屋に似た作りで、辺り一面に魔法陣が描かれていた。念のため部屋の中に入り内装を確認するが、特に変わった点もないためロルフは無言で部屋を後にした。
そして、初めの部屋と同様に、ドアの下部や周りが薄汚れた扉を七、八か所確認したが、ロルフの求める部屋は見つからなかった。
「そう言えば、ゴルトの言ってた書物ってのはどこにあるんだ?」
好きにしてよいとゴルトに言われた書物がいずれの部屋にも見当たらなかったことを思い出し、ロルフは独り言ちた。
周囲が薄汚れていない扉は飛ばして確認してきたためそのいずれかの部屋にある可能性もあるが、どの部屋も家具はあまりなく魔法陣にまみれているばかりだった。地下がこんなにも広い場所であるのなら、部屋の位置くらいは伝えて欲しいものだ。まぁ、現状を考えると読書よりも優先すべき事項が多くあるため、見つからないのであればそれでも構わないのだが。
ロルフは悶々とそんなことを考えながら、次の扉のドアノブを引いた。
「……?」
他の部屋ではドアを開けると共に魔導ランプが灯るのだが、この部屋には魔導ランプがつけられていないらしい。ロルフは入り口に掛けられた燭台を手に取り、ロウソクに火をともした。
この部屋の様子は、ぼんやりとした光の中でも分る程に他の部屋のものとは異なっていた。部屋の片側には本棚が備え付けられており、そこから飛び出した本がそこら中に散らばっている。足の踏み場もない。
「これは一体……?」
何者かに荒らされたかのような部屋の様子に眉をひそめると、ロルフは燭台を元の位置に戻し、近くの本から少しずつ拾い上げていく。煤埃が部屋を出る前にでも荒らして行ったのだろうか。
拾った本はどれも古い物のようで、よくよく見るとどれも昔に読んだ覚えのある本ばかりだった。
「懐かしいな……でもどうしてこんな場所に……」
半分ほど本を本棚に戻したところで、ロルフは違和感に気づいた。四台横並びになっている本棚の内、ドア側から数えて二台目の本棚の下部がやけに汚れている。
スッと撫でるように汚れに触れると、ドアについているのと同じ汚れのようだ。
「という事は」
ロルフは本棚を奥や手前に動かそうと、力を込める。が、びくともしない。
薄暗くてよく見えない中周囲を見渡してみるものの、特に何か手掛かりがある訳でもなくロルフはその場に立ち尽くす。
よく観察しようと燭台を取りに入り口へ近づくと、僅かにだが扉の内側の一部が他の場所とは明らかに異なった質感をしているのに気づいた。
「これは……蝋か?」
つるつるとしたその部位を確認しようと、ロルフが指を滑らせたその時だった。
「……っ!」
触れた箇所が発光すると同時に、何か力のようなものを吸い取られる感覚に襲われたロルフは思わず手を離した。途中で離したためか、その光は徐々にぼんやりとしていき、数秒もしないうちに消えてしまった。
――何とも、ない……? ロルフは自分の手を見つめながら体に問題がないか確認した。吸い取られていると感じたのは錯覚だったようだ。
そして一つ思い出したことがあった。ロルフは昔にも一度この感覚を経験している。
ロルフは決心すると、再び蝋らしきその跡の上に指を滑らせた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる