黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

文字の大きさ
上 下
79 / 149
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常

scene .6 贈り物(後編)

しおりを挟む
「後はそこの……寛闊者」

 先程クロンを呼んだ時と同じ動作をしながら、ゴルトがヴィオレッタの方を見てそう言う。

「かんかつ……ワタシの事? それって一体どういう……」
「まぁ良いまぁ良い、そんなことよりそなたはこれを持っておいで」

 寛闊者――派手好きの者という意味だ。だがそれが分からないらしいヴィオレッタは、宝石がいくつか付いた小さなアイテムを軽く握ったまま、納得のいっていない表情でゴルトを見る。

「はいはい、もうお行き。そなたにやるものはもうあらぬぞ」

 低い位置の棚を漁っていたゴルトは、するするといつもの高さまで体を上げるとヴィオレッタの背を押しながら部屋の中央へと移動した。すると、

「ゴルトー! 皆ばっかりずるいっ! 私も何か欲しいっ」

 頬を膨らませたシャルロッテがモモの手を引いてゴルトに詰め寄った。
 そんなシャルロッテにゴルトは、「ふむ……」と呟いて人差し指を顎に当てる。やっぱりなと言いたげな表情だ。

「そうじゃの……ではそなたにはこれでもつけてやろうかの」

 数秒考えた後に、ゴルトは近くの棚から小さな真珠があしらわれた装飾を取りだすと、シャルロッテの頭のリボンに取り付けた。

「何くれたの?」

 シャルロッテは頭を触りながら、モモの方を向いて首をかしげる。

「ふふ、シャルちゃん可愛い」
「ほんと! やった!」

 新しくリボンにつけられた装飾を見てモモがそう言うと、シャルロッテは先程貰った輪を腕に装着して得意気にしているロロの元へと駆け寄っていった。

「それよりそなた、未だそんなものを付けておるのか。もうとうに効果をなしてはおらぬであろう」

 自慢合戦を始めたシャルロッテとロロから視線を外すや否や、ゴルトはモモの手を取りそう言った。

「えっ、そうなんですか?」

 突然手を取られた緊張で、モモの声が少し裏返る。

「そなたも教えてやらぬとは不親切じゃのう」
「ん? 俺か?」

 考え事でもしていたのか、不意に掛けられた言葉にロルフは顎から外すと視線をゴルトへ向けた。
 どうかしたか? とでも言いたげなロルフに、ゴルトは肩をすくめる。そんな二人を交互に見た後、モモが少し焦ったように口を開いた。

「あ、でもいいんです。可愛らしくて気に入っているので!」
「……ほぅ。ならば」

 少しの間の後、ゴルトはそう言いながら、先程やんわりと振りほどかれた手を再度取ると、リストバンドの上に手を添え何かを唱え始めた。
 すると、リストバンドがほのかに発光し、花の装飾が煌めいていく。

「これでよい」

 しばらくしてゴルトはそう言うと、モモの手を開放した。

「ゴルトすごーい!」
「今の何? 初めて見たわ! わたしもできるようになるかしら!」

 何が起きたのかわからずその場で立ち尽くすモモを余所に、いつの間にやら見学していたシャルロッテとロロが興奮した様子で目を輝かせている。
 ゴルトはどこからかロロの掌程の厚さがあろう古い魔導書を取りだすと、そんな二人の前にドサッと置いた。

「どうかのぅ……その内できるようになるやもしれぬぞ」
「で、でた、分厚い本……」
「わ、わかったわ。やってやろうじゃない!」

 にやり、という笑みの見本のような表情をするゴルトに対抗してか、ロロは出された魔導書を開き読み始めた。
 上級の魔導書。それも獣人文字に書き下されていない古書である。その道の研究を生業としているロルフでさえ半分ほどしか解読できていない本なのだ。それ故に、少し頭の切れる程度の少女に簡単に読めてしまう訳もなく――ロロは初めのページの数行を読むことすらできず頭を抱え始めた。

「あまり虐めると嫌われるぞ」
「まぁまぁ。たまにはよいではないか」

 “たまには”という点が少し引っかかる気もするが、そう言うゴルトは実に楽しそうだ。久しぶりに魔術に興味を持つ者に出会えて嬉しいのだろう。
 ちなみに、当該の魔導書に書かれているのは、魔道具へ魔力や効果を付与するための手順についてだ。この世界に存在する、魔石と呼ばれる属性や能力補填などの力が宿っている宝石を効率よくアイテムに組み込む方法から、その魔石自体に追加の能力を付与する方法などが、手取り足取り書かれている。それによって、そのアイテムを持つ者に加護を与えたり、身体能力などを補填することができるようになるため、魔道具職人ならば昔は誰もが読み込んだ本だろう。とは言え、普通は原書ではなく獣人文字に書き下された本を用いるであろうが。

「魔術に興味を持つのは良い事じゃ。自らの生活を助けるだけでなく、周囲を守る剣や盾にもなるからの」

 そんな事を言いながら、ゴルトはロロの方を眺めつつ目を細めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

なろう390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに 撥ねられてしまった。そして良太郎 が目覚めると、そこは異世界だった。 さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、 ゴーレムと化していたのだ。良太郎が 目覚めた時、彼の目の前にいたのは 魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は 未知の世界で右も左も分からない状態 の良太郎と共に冒険者生活を営んで いく事を決めた。だがこの世界の裏 では凶悪な影が……良太郎の異世界 でのゴーレムライフが始まる……。 ファンタジーバトル作品、開幕!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...