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story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
scene .3 旧態依然
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モンスターが引いているとは思えない程に静かな車内。他に乗っている客も少ないためか、会話などもなくわずかな揺れと窓の外から聞こえる音が心地よい。
そんな中、今朝の疲れと満腹感からか、列車が走り出すや否やシャルロッテとモモは互いに体重を支え合うようにして眠ってしまった。リージアもその後ろの席で腕と脚を組みうとうと船を漕いでいる。
ヴィオレッタとクロンの座る席の後ろに腰を下ろしたロルフからクロンの様子は見えないが、ヴィオレッタは窓際に肘をついて外を眺めているようだ。珍しく考え事でもしているのか、とても静かにしている。
「そう言えばロロのお母さんは帝国で働いてるんだな。昨日の夜お父さんから聞いたぞ」
大人しく席に座っているものの、つまらなさそうに小さく口を尖らせていたロロに、ロルフは会話を振った。
「え! そうなの?」
小さめの声で話しかけたロルフに対し、ロロは車内に響き渡るような大きな声で反応すると、慌てて口元を抑えた。そして、リージアの隣からロルフの隣へそそくさと席を移り、「それで?」と身を乗り出して目を輝かせながらロルフを見つめた。
別の大陸へ渡ろうとしていたロロの様子から、既に知っているものかと思っていたが、そうではないらしい。となると、何か理由があってロロには黙っていた可能性がある。そう考えたロルフは世界図書館で集めてきた自分用の資料に視線を落とすと、
「いや、それだけだが……」
そう告げた。
まぁ、帰れない現状などはロロも知っている事であるし、実際にそれ以上のことはロルフも聞いていないので、何かを隠している訳でもないのだが。
ロロは、期待外れとも言いたそうな様子で「なーんだ……」と声を漏らし背もたれに体をあずけた。
「でもそれだけ知れたのだって大きな一歩よね」
しばらくしてから出た前向きなロロの言葉に、ロルフはふと思った事を口にする。
「初めに出会った時、他の大陸に行こうとしていたんだよな?」
「うん、そうだけど」
「どの大陸で働いているかも知らずにここを出ようとしていたのか?」
その質問に何か危機を感じたのか、ロロはフイッと視線を逸らした。そして、
「む……! お説教なんて聞かないんだから。わたしは絶対にお母さんを見つけるの。見つけて一緒に、」
一呼吸おいてからぽつりと「暮らすんだもの」そう呟いた。
ロロの言動を見ていると、その覚悟は半端なものではないことは分かる。だが、相手が帝国となると、そう簡単に話は進まないだろう。別段説教をしようと思った訳ではなかったが、しばらく共に過ごすとなると、何度かはこのことで対立することにはなるかもしれない。
「もういいわ! リージアにお願いするんだから! ロルフの役立たず!」
近く起きそうな未来を思い浮かべ少し気が重くなったロルフに、追い打ちをかけるような言葉を小さな声で叫ぶと、ロロは気持ちよさそうにうととうとするリージアを容赦なくゆすり起こした。
「あっ、なっ、えっ、ど、どしたのさ、ロロ」
「ね、リージアって帝国で仕事してるんでしょ? 帝国にはどうやっていくの? お母さんが帝国で働いてるらしいの。どうやったら会えるの? というかどうして帰って来られなくなっちゃったの?」
突然投げかけられる質問の嵐に、つい今さっきまで夢と現実の狭間にいたリージアは頭の上にハテナをたくさん浮かべる。
「待って待って、一旦落ち着こうか。帝国がなんだって?」
「お母さんを迎えに行きたいの!」
ロロの話を真面目に聞き始めたリージアの表情は、徐々に曇りだす。そして、話が終わると一言、
「残念だけど、さ。お母さんに会うのは難しいかもしれないなぁ」
本当に残念そうにそう伝えた。
「そもそも私は帝国に雇われてるって言ったって、運ばれてくる荷物を受け取って、輸送先に届けてるだけなんだ。しかも近頃はこの大陸に帝国から直通では荷物は来なくてね、白水の大陸を経由してるっぽいんだよね」
「どうして?」
「さぁねぇ……私にはお偉いさんの考えてることはさっぱりさ」
逸れ掛けた話題にリージアは、「ってのはおいといて」そう言いながら空気を両手で移動させる。
「まぁだから私は帝国に行ったことも無ければ、行き方も分からないんだよねぇ」
「そうなんだ……」
唯一帝国と接点のあるリージアの言葉に、ロロはう~んと腕を組み考える。
「帝国って昔は観光地もあったんでしょ? 今はそう言うの無いの?」
「へぇ! ロロって物知りさんだねぇ」
リージアは感心したように目を丸くするも、すぐに真剣な表情に戻り言葉を続けた。
「でもそんなのはロロが生まれるずっと前の話さ。今じゃ観光どころか厳しい取り締まりに検査三昧。自国の船すら自由に出入りできないみたいだからね」
「そんなんじゃ船とか借りて行っても入れてもらえなさそうだわね……」
「あぁ、それは絶対NG! 帝国が管轄する以外の船や帝国の近くを飛行する物体は全部……ひゅるるるる、ドーン!」
リージアはそう言いながら、両手を使って船が沈没する様子を手振りで表現する。
「沈没させられるらしいからね。ま、これは聞いた話なんだけど」
ロロはより一層眉間にしわを寄せ何かを考え始めたかと思うと、はぁ、と息を吐いた。
「せっかく居場所がわかったって言うのに、これじゃぁ何の解決にもならないわ」
明らかに肩を落とすロロを軽く抱き寄せると、
「お母さんに会いたい気持ちは痛いほどわかるよ。でも今の帝国には近づかない方がいい。確実に言えるのはそれだけ。ロロには悪いけど、さ」
そう言ってリージアは寂しそうに少女の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
そんな中、今朝の疲れと満腹感からか、列車が走り出すや否やシャルロッテとモモは互いに体重を支え合うようにして眠ってしまった。リージアもその後ろの席で腕と脚を組みうとうと船を漕いでいる。
ヴィオレッタとクロンの座る席の後ろに腰を下ろしたロルフからクロンの様子は見えないが、ヴィオレッタは窓際に肘をついて外を眺めているようだ。珍しく考え事でもしているのか、とても静かにしている。
「そう言えばロロのお母さんは帝国で働いてるんだな。昨日の夜お父さんから聞いたぞ」
大人しく席に座っているものの、つまらなさそうに小さく口を尖らせていたロロに、ロルフは会話を振った。
「え! そうなの?」
小さめの声で話しかけたロルフに対し、ロロは車内に響き渡るような大きな声で反応すると、慌てて口元を抑えた。そして、リージアの隣からロルフの隣へそそくさと席を移り、「それで?」と身を乗り出して目を輝かせながらロルフを見つめた。
別の大陸へ渡ろうとしていたロロの様子から、既に知っているものかと思っていたが、そうではないらしい。となると、何か理由があってロロには黙っていた可能性がある。そう考えたロルフは世界図書館で集めてきた自分用の資料に視線を落とすと、
「いや、それだけだが……」
そう告げた。
まぁ、帰れない現状などはロロも知っている事であるし、実際にそれ以上のことはロルフも聞いていないので、何かを隠している訳でもないのだが。
ロロは、期待外れとも言いたそうな様子で「なーんだ……」と声を漏らし背もたれに体をあずけた。
「でもそれだけ知れたのだって大きな一歩よね」
しばらくしてから出た前向きなロロの言葉に、ロルフはふと思った事を口にする。
「初めに出会った時、他の大陸に行こうとしていたんだよな?」
「うん、そうだけど」
「どの大陸で働いているかも知らずにここを出ようとしていたのか?」
その質問に何か危機を感じたのか、ロロはフイッと視線を逸らした。そして、
「む……! お説教なんて聞かないんだから。わたしは絶対にお母さんを見つけるの。見つけて一緒に、」
一呼吸おいてからぽつりと「暮らすんだもの」そう呟いた。
ロロの言動を見ていると、その覚悟は半端なものではないことは分かる。だが、相手が帝国となると、そう簡単に話は進まないだろう。別段説教をしようと思った訳ではなかったが、しばらく共に過ごすとなると、何度かはこのことで対立することにはなるかもしれない。
「もういいわ! リージアにお願いするんだから! ロルフの役立たず!」
近く起きそうな未来を思い浮かべ少し気が重くなったロルフに、追い打ちをかけるような言葉を小さな声で叫ぶと、ロロは気持ちよさそうにうととうとするリージアを容赦なくゆすり起こした。
「あっ、なっ、えっ、ど、どしたのさ、ロロ」
「ね、リージアって帝国で仕事してるんでしょ? 帝国にはどうやっていくの? お母さんが帝国で働いてるらしいの。どうやったら会えるの? というかどうして帰って来られなくなっちゃったの?」
突然投げかけられる質問の嵐に、つい今さっきまで夢と現実の狭間にいたリージアは頭の上にハテナをたくさん浮かべる。
「待って待って、一旦落ち着こうか。帝国がなんだって?」
「お母さんを迎えに行きたいの!」
ロロの話を真面目に聞き始めたリージアの表情は、徐々に曇りだす。そして、話が終わると一言、
「残念だけど、さ。お母さんに会うのは難しいかもしれないなぁ」
本当に残念そうにそう伝えた。
「そもそも私は帝国に雇われてるって言ったって、運ばれてくる荷物を受け取って、輸送先に届けてるだけなんだ。しかも近頃はこの大陸に帝国から直通では荷物は来なくてね、白水の大陸を経由してるっぽいんだよね」
「どうして?」
「さぁねぇ……私にはお偉いさんの考えてることはさっぱりさ」
逸れ掛けた話題にリージアは、「ってのはおいといて」そう言いながら空気を両手で移動させる。
「まぁだから私は帝国に行ったことも無ければ、行き方も分からないんだよねぇ」
「そうなんだ……」
唯一帝国と接点のあるリージアの言葉に、ロロはう~んと腕を組み考える。
「帝国って昔は観光地もあったんでしょ? 今はそう言うの無いの?」
「へぇ! ロロって物知りさんだねぇ」
リージアは感心したように目を丸くするも、すぐに真剣な表情に戻り言葉を続けた。
「でもそんなのはロロが生まれるずっと前の話さ。今じゃ観光どころか厳しい取り締まりに検査三昧。自国の船すら自由に出入りできないみたいだからね」
「そんなんじゃ船とか借りて行っても入れてもらえなさそうだわね……」
「あぁ、それは絶対NG! 帝国が管轄する以外の船や帝国の近くを飛行する物体は全部……ひゅるるるる、ドーン!」
リージアはそう言いながら、両手を使って船が沈没する様子を手振りで表現する。
「沈没させられるらしいからね。ま、これは聞いた話なんだけど」
ロロはより一層眉間にしわを寄せ何かを考え始めたかと思うと、はぁ、と息を吐いた。
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「お母さんに会いたい気持ちは痛いほどわかるよ。でも今の帝国には近づかない方がいい。確実に言えるのはそれだけ。ロロには悪いけど、さ」
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