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story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
scene .18 ヴィオレッタの能力
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「え、ちょっと! 何してるのよ!」
ロロの叫び声に何事かとロルフ達もヴィオレッタの方へ視線を向ける。
ヴィオレッタは拾い上げた鉄製の棒で、ロルフ達が苦労して作り上げた氷漬けのプラントバリケードを何のためらいもなしに叩き始めた。
「何のつもりだ? せっかく大人しくさせたってのに」
ロルフはヴィオレッタに近づくと、振り上げられたその腕を掴む。
色持ちの能力で生成された物質は、魔術や自然の物よりかなり強度があるため人の力でどうにかできるものではないとは思うが、マンティコアを刺激しないためにも不要な行動は避けてもらいたい。
「何って、かわいそうだから出してあげようと思ったのよ。マンティコアって寒いの苦手でしょ?」
ヴィオレッタは当たり前のことの様にそう言ったが、全く持って理解できない。惨事を目の当たりにしていないとはいえ、今がどういった状況であるかくらいは分かりそうなものだが。
「かわいそうって……自分が言ってること理解してるか? 村を襲ったモンスターだぞ?」
「だから何? ……ねぇこれどうやったら壊せるのかしら、びくともしないわ」
ロルフから腕を引き抜いたヴィオレッタは、飛び出した蔓を引っ張ったり、隙間に爪を立てたりしてどうにかプラントバリケードを開けようとしている。
全くかみ合わない会話に、ロルフは頭を抱えた。このまま放っておいても良いが、何か問題を起こさないとも限らない。
「……何か策があるんだろうな?」
「策ですって? ワタシを誰だと思っているのよ? かの有名な猛獣使い、ヴィオレッタ様よ?」
マンティコアを意のままに操ることができると言いたいのであろう。見事なしたり顔でそう言うヴィオレッタには、微塵も不安など無さそうだ。
確かにサーカス内での彼女とモンスター達との絆は計り知れないかもしれない。しかしマンティコアは野生である上に、サーカスで扱っていたモンスターよりも各段にランクが高い。いくら猛獣の扱いに慣れているからと言って本当にマンティコアを従わせることができるのだろうか。
黙り込んだロルフに、ヴィオレッタはため息をついた。そして呆れたように手をひらりと動かしロルフに背を向けると、ゆっくりと歩み出す。
「気づいてるかと思うけど、ワタシも色持ちなのよね。ちなみに、アナタが考えてるような“心を読める能力”って訳じゃないわ」
突然の暴露に、ロルフは驚いた表情でヴィオレッタを見るが、ヴィオレッタはロルフに背中を向けたまま話を続ける。
「じゃないって言うと語弊があるわね。心を読むことだけではなくて、そこに変更を加えることができるって言ったところかしら。……なぜかアナタには効かなかったんだけど」
最後の言葉は小さすぎてロルフにはよく聞き取れなかった。だが、隠したいのかと思っていた能力について自ら説明をし始める辺り、そうではなかったらしい。
面倒くさそうな表情で淡々と説明をしていたヴィオレッタは、そこで一度ロルフの方へと視線を向けた。
すると、ロルフの動揺した様な表情に気をよくしたのか、聞いてもいない事を自慢げに話し出した。その手振りはいつものように少し演技がかっている。
「あぁ、でももちろん、いつどこでどんなモンスターでも、って訳じゃないわ。獣タイプでないといけないし、対象の視線を捉えられないとダメ」
細く長い人差し指と中指を、ロルフの視線に沿わせるように動かすと、ヴィオレッタは覗き込む様にロルフと視線を合わせた。
しっかり観察するつもりで見たことがなかったので今気づいたが、ヴィオレッタの瞳孔はハートの形をしていた。これも色持ちの影響という事か。ロルフは今の説明で粗方理解することのできたヴィオレッタの能力について考えをまとめる。サーカスのモンスター達についても飼い慣らしていると言うよりは、本当に親であり、従うべき存在であると思考を書き換えているという事なのだろう。
「それに相手が強大で意思が強い程にワタシの技は掛かり辛いわね。でも、このマンティコアは弱っているんでしょう?」
先程までの機嫌のよさはどこへ行ってしまったのか、ヴィオレッタは突然首をかしげて不機嫌そうにそう言うと、プラントバリケードを二度叩いて寄りかかった。
ヴィオレッタの能力が、本当に彼女の言うようなものなのであればマンティコアをどうにかすることができるかもしれない。とは言え、全員が気力をほぼ使い切ってしまっているため、もし失敗した場合再度捕獲するどころか、停止させておくこともままならない。
思いつきで動くことの恐ろしさをつい先程再認識したロルフからすると、この場でヴィオレッタにマンティコアを任せるとは言えなかった。
「じゃぁいいわよ、アナタ達だけでどうにかする事ね。何があってもワタシは手助けしないから」
そう言って不貞腐れたように腕を組むと、ヴィオレッタはフイッと首を横に向けた。
すると、いつの間に近くまで来ていたのか、クロンが控えめに手をあげながら「あ、あの」と様子を窺うようにして二人に声をかけた。
ロロの叫び声に何事かとロルフ達もヴィオレッタの方へ視線を向ける。
ヴィオレッタは拾い上げた鉄製の棒で、ロルフ達が苦労して作り上げた氷漬けのプラントバリケードを何のためらいもなしに叩き始めた。
「何のつもりだ? せっかく大人しくさせたってのに」
ロルフはヴィオレッタに近づくと、振り上げられたその腕を掴む。
色持ちの能力で生成された物質は、魔術や自然の物よりかなり強度があるため人の力でどうにかできるものではないとは思うが、マンティコアを刺激しないためにも不要な行動は避けてもらいたい。
「何って、かわいそうだから出してあげようと思ったのよ。マンティコアって寒いの苦手でしょ?」
ヴィオレッタは当たり前のことの様にそう言ったが、全く持って理解できない。惨事を目の当たりにしていないとはいえ、今がどういった状況であるかくらいは分かりそうなものだが。
「かわいそうって……自分が言ってること理解してるか? 村を襲ったモンスターだぞ?」
「だから何? ……ねぇこれどうやったら壊せるのかしら、びくともしないわ」
ロルフから腕を引き抜いたヴィオレッタは、飛び出した蔓を引っ張ったり、隙間に爪を立てたりしてどうにかプラントバリケードを開けようとしている。
全くかみ合わない会話に、ロルフは頭を抱えた。このまま放っておいても良いが、何か問題を起こさないとも限らない。
「……何か策があるんだろうな?」
「策ですって? ワタシを誰だと思っているのよ? かの有名な猛獣使い、ヴィオレッタ様よ?」
マンティコアを意のままに操ることができると言いたいのであろう。見事なしたり顔でそう言うヴィオレッタには、微塵も不安など無さそうだ。
確かにサーカス内での彼女とモンスター達との絆は計り知れないかもしれない。しかしマンティコアは野生である上に、サーカスで扱っていたモンスターよりも各段にランクが高い。いくら猛獣の扱いに慣れているからと言って本当にマンティコアを従わせることができるのだろうか。
黙り込んだロルフに、ヴィオレッタはため息をついた。そして呆れたように手をひらりと動かしロルフに背を向けると、ゆっくりと歩み出す。
「気づいてるかと思うけど、ワタシも色持ちなのよね。ちなみに、アナタが考えてるような“心を読める能力”って訳じゃないわ」
突然の暴露に、ロルフは驚いた表情でヴィオレッタを見るが、ヴィオレッタはロルフに背中を向けたまま話を続ける。
「じゃないって言うと語弊があるわね。心を読むことだけではなくて、そこに変更を加えることができるって言ったところかしら。……なぜかアナタには効かなかったんだけど」
最後の言葉は小さすぎてロルフにはよく聞き取れなかった。だが、隠したいのかと思っていた能力について自ら説明をし始める辺り、そうではなかったらしい。
面倒くさそうな表情で淡々と説明をしていたヴィオレッタは、そこで一度ロルフの方へと視線を向けた。
すると、ロルフの動揺した様な表情に気をよくしたのか、聞いてもいない事を自慢げに話し出した。その手振りはいつものように少し演技がかっている。
「あぁ、でももちろん、いつどこでどんなモンスターでも、って訳じゃないわ。獣タイプでないといけないし、対象の視線を捉えられないとダメ」
細く長い人差し指と中指を、ロルフの視線に沿わせるように動かすと、ヴィオレッタは覗き込む様にロルフと視線を合わせた。
しっかり観察するつもりで見たことがなかったので今気づいたが、ヴィオレッタの瞳孔はハートの形をしていた。これも色持ちの影響という事か。ロルフは今の説明で粗方理解することのできたヴィオレッタの能力について考えをまとめる。サーカスのモンスター達についても飼い慣らしていると言うよりは、本当に親であり、従うべき存在であると思考を書き換えているという事なのだろう。
「それに相手が強大で意思が強い程にワタシの技は掛かり辛いわね。でも、このマンティコアは弱っているんでしょう?」
先程までの機嫌のよさはどこへ行ってしまったのか、ヴィオレッタは突然首をかしげて不機嫌そうにそう言うと、プラントバリケードを二度叩いて寄りかかった。
ヴィオレッタの能力が、本当に彼女の言うようなものなのであればマンティコアをどうにかすることができるかもしれない。とは言え、全員が気力をほぼ使い切ってしまっているため、もし失敗した場合再度捕獲するどころか、停止させておくこともままならない。
思いつきで動くことの恐ろしさをつい先程再認識したロルフからすると、この場でヴィオレッタにマンティコアを任せるとは言えなかった。
「じゃぁいいわよ、アナタ達だけでどうにかする事ね。何があってもワタシは手助けしないから」
そう言って不貞腐れたように腕を組むと、ヴィオレッタはフイッと首を横に向けた。
すると、いつの間に近くまで来ていたのか、クロンが控えめに手をあげながら「あ、あの」と様子を窺うようにして二人に声をかけた。
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