58 / 149
story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
scene .13 アルテトの危機
しおりを挟む
わたしが言いたかったのはこれよ! と言わんばかりに、ロロは全員を見回す。
「待ってよ、ロロ。それはロロが一人で寝ちゃったからで……」
「そうだぞ嬢ちゃん、何でもかんでも人のせいにしちゃあいかん。自分にも原因があるかもしれない、そう考えるのが大人ってもんだぜ」
ロロの皿に追加のパンケーキを乗せながら、リェフはフライパンを持っているのとは逆の手でロロの頭をわしゃわしゃと撫でた。
口をへの字に曲げ、自分の手を除けようとしてくる小さな手をさっとかわし、
「さぁライザは店番に戻れ。お前らも食い終わったらどっか遊びにでも行ってこい!」
リェフはそう言ってロロの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
*****
****
***
「……?」
ロルフは辺りを見渡す。どうやら本を読みながら眠ってしまったらしい。
あの後、リェフに諭されたロロは、渋々機嫌を直し、シャルロッテとモモを連れ三人で外へ出掛けて行った。
一方、店に残ったクロンとロルフはそれぞれ休憩することにしたのだった。
相変わらず賑やかな外の喧騒に耳を傾けつつ、腰かけたまま身体を伸ばしていると、バンッ! という音と共にロロが部屋へ飛び込んできた。
「ロルフ! 大変! どうしよう!」
そう叫ぶロロの息は切れ切れだ。
「どうした?」
「アルテトが……!」
小走りで後ろからついてきたシャルロッテとモモ、それと、ロロの声に何事かと隣の部屋で休んでいたクロンもやってきた。
「アルテトが襲われてるって!」
「襲われてる?」
その言葉を聞いたロルフの眉間にしわが寄る。まさか……またあの女だろうか。過った考えを吹き消すように、ロロが言葉を追加する。
「マンティコアが出てきて、村を破壊してるみたいなの! きっとわたしのせいだわ……わたしがロルフ達を連れて行ったりしたからっ」
そこまで言って、ロロはこぶしを握り締めながら俯く。
あの辺りには餌となり得るモンスターが少ないため、マンティコアレベルの大型モンスターが生きていくにはかなり厳しい環境だと言える。奴と遭遇した際に発見した白骨。あれは恐らくたまたま迷い込んだ商人や旅人のものなのであろう。たまにやって来る“餌”のみでは空腹が満たされず、耐え兼ねて近くの村を襲った、と言ったところだろうか。
しばらくして、バッと顔を上げたロロは、
「……ねぇ! どうしようロルフ!」
必死な眼差しで、ロルフの膝を掴み大きく揺らす。
情報の出所はともかく、ロロだけではなく、モモやシャルロッテの様子からも冗談などを言っている訳ではなさそうだ。
ロルフはロロを落ち着かせようと、その肩に手を乗せ考えを巡らせる。汽車に乗る事すら叶わない今、アルテトどころかモクポルトへ向かう事も難しいだろう。とは言え、もしここから徒歩で向かおうものなら二日はかかる。どうにかしてアルテトへ向かう事はできないだろうか。
そこまで考えたところで、コンコンコンとドアをノックする音がした。部屋の外から、開きっぱなしのドアを片手にライザがこちらを覗いている。
「ヴィオレッタ様がロルフ達に会いに来たよ」
「悪いなライザ、今それどころじゃ」
「それがあっちも急ぎなんだって」
ヴィオレッタが急ぎの用? 団長の説得に失敗でもしたのだろうか。だがそんなのは急ぎで伝えなくても良い内容だ。……いや、あの女ならそう言って呼び出すことも厭わないだろうか。
“店の前にいられちゃ商売どころじゃない”ライザがし出したジェスチャーから何となく意味を悟る。滞在させてもらっている立場からすると、ライザ達に迷惑をかける訳にはいかない、そう考えたロルフは、
「わかった」
そう言って重い腰をあげた。
残念ながら、アルテトへ向かうための方法は今のところ何も思いつきそうにない。だとすれば、話を聞くついでに何か方法を尋ねるのも悪くはないだろう。世界を飛び回っている彼女だからこそ思いつく方法が何かあるかもしれない。
大してしていない期待を胸に、階段を降り店の戸を開ける。すると、
「もう、遅いわよ! 事態を把握できてない様ね」
その姿が確認できる前に、ヴィオレッタの怒声が飛んできた。
腕を組み、足の爪先をパタパタとさせているところを見ると、かなり機嫌は悪そうだ。周りにファンらしき人々がいるが良いのだろうか。
「何の用だ?」
「何の用? アルテトが襲撃されているっていう噂ぐらい聞いているでしょう? ……まさか寝てたとか言うんじゃないでしょうね」
突然の鋭い指摘に、ロルフは眼鏡を軽く抑える。
そんなことよりも、なぜヴィオレッタがアルテトのことを気にかけているのか。そこが気になるところだ。
「そんなこと今はどうだっていいわ。全員揃ってるわね? アルテトへ向かうわよ」
ロルフが質問を口にする前にヴィオレッタはそう答えると、辺りにいる人達にスペースを開けるよう指示しだす。
「何ぼさっとしてるのよ! さっさと行くわよ!」
「どうやって行くっていうのよ! 汽車だっていっぱいで乗れな…」
ロルフの後ろから飛び出して、反論しようとしたロロの言葉を遮るようにヴィオレッタが指笛を吹く。すると、先程ヴィオレッタがスペースを開けさせていた場所に、音もなく二頭のモンスターが姿を現した。
「待ってよ、ロロ。それはロロが一人で寝ちゃったからで……」
「そうだぞ嬢ちゃん、何でもかんでも人のせいにしちゃあいかん。自分にも原因があるかもしれない、そう考えるのが大人ってもんだぜ」
ロロの皿に追加のパンケーキを乗せながら、リェフはフライパンを持っているのとは逆の手でロロの頭をわしゃわしゃと撫でた。
口をへの字に曲げ、自分の手を除けようとしてくる小さな手をさっとかわし、
「さぁライザは店番に戻れ。お前らも食い終わったらどっか遊びにでも行ってこい!」
リェフはそう言ってロロの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
*****
****
***
「……?」
ロルフは辺りを見渡す。どうやら本を読みながら眠ってしまったらしい。
あの後、リェフに諭されたロロは、渋々機嫌を直し、シャルロッテとモモを連れ三人で外へ出掛けて行った。
一方、店に残ったクロンとロルフはそれぞれ休憩することにしたのだった。
相変わらず賑やかな外の喧騒に耳を傾けつつ、腰かけたまま身体を伸ばしていると、バンッ! という音と共にロロが部屋へ飛び込んできた。
「ロルフ! 大変! どうしよう!」
そう叫ぶロロの息は切れ切れだ。
「どうした?」
「アルテトが……!」
小走りで後ろからついてきたシャルロッテとモモ、それと、ロロの声に何事かと隣の部屋で休んでいたクロンもやってきた。
「アルテトが襲われてるって!」
「襲われてる?」
その言葉を聞いたロルフの眉間にしわが寄る。まさか……またあの女だろうか。過った考えを吹き消すように、ロロが言葉を追加する。
「マンティコアが出てきて、村を破壊してるみたいなの! きっとわたしのせいだわ……わたしがロルフ達を連れて行ったりしたからっ」
そこまで言って、ロロはこぶしを握り締めながら俯く。
あの辺りには餌となり得るモンスターが少ないため、マンティコアレベルの大型モンスターが生きていくにはかなり厳しい環境だと言える。奴と遭遇した際に発見した白骨。あれは恐らくたまたま迷い込んだ商人や旅人のものなのであろう。たまにやって来る“餌”のみでは空腹が満たされず、耐え兼ねて近くの村を襲った、と言ったところだろうか。
しばらくして、バッと顔を上げたロロは、
「……ねぇ! どうしようロルフ!」
必死な眼差しで、ロルフの膝を掴み大きく揺らす。
情報の出所はともかく、ロロだけではなく、モモやシャルロッテの様子からも冗談などを言っている訳ではなさそうだ。
ロルフはロロを落ち着かせようと、その肩に手を乗せ考えを巡らせる。汽車に乗る事すら叶わない今、アルテトどころかモクポルトへ向かう事も難しいだろう。とは言え、もしここから徒歩で向かおうものなら二日はかかる。どうにかしてアルテトへ向かう事はできないだろうか。
そこまで考えたところで、コンコンコンとドアをノックする音がした。部屋の外から、開きっぱなしのドアを片手にライザがこちらを覗いている。
「ヴィオレッタ様がロルフ達に会いに来たよ」
「悪いなライザ、今それどころじゃ」
「それがあっちも急ぎなんだって」
ヴィオレッタが急ぎの用? 団長の説得に失敗でもしたのだろうか。だがそんなのは急ぎで伝えなくても良い内容だ。……いや、あの女ならそう言って呼び出すことも厭わないだろうか。
“店の前にいられちゃ商売どころじゃない”ライザがし出したジェスチャーから何となく意味を悟る。滞在させてもらっている立場からすると、ライザ達に迷惑をかける訳にはいかない、そう考えたロルフは、
「わかった」
そう言って重い腰をあげた。
残念ながら、アルテトへ向かうための方法は今のところ何も思いつきそうにない。だとすれば、話を聞くついでに何か方法を尋ねるのも悪くはないだろう。世界を飛び回っている彼女だからこそ思いつく方法が何かあるかもしれない。
大してしていない期待を胸に、階段を降り店の戸を開ける。すると、
「もう、遅いわよ! 事態を把握できてない様ね」
その姿が確認できる前に、ヴィオレッタの怒声が飛んできた。
腕を組み、足の爪先をパタパタとさせているところを見ると、かなり機嫌は悪そうだ。周りにファンらしき人々がいるが良いのだろうか。
「何の用だ?」
「何の用? アルテトが襲撃されているっていう噂ぐらい聞いているでしょう? ……まさか寝てたとか言うんじゃないでしょうね」
突然の鋭い指摘に、ロルフは眼鏡を軽く抑える。
そんなことよりも、なぜヴィオレッタがアルテトのことを気にかけているのか。そこが気になるところだ。
「そんなこと今はどうだっていいわ。全員揃ってるわね? アルテトへ向かうわよ」
ロルフが質問を口にする前にヴィオレッタはそう答えると、辺りにいる人達にスペースを開けるよう指示しだす。
「何ぼさっとしてるのよ! さっさと行くわよ!」
「どうやって行くっていうのよ! 汽車だっていっぱいで乗れな…」
ロルフの後ろから飛び出して、反論しようとしたロロの言葉を遮るようにヴィオレッタが指笛を吹く。すると、先程ヴィオレッタがスペースを開けさせていた場所に、音もなく二頭のモンスターが姿を現した。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
なろう390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす
大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜
魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。
大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。
それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・
ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。
< 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界起動兵器ゴーレム
ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに
撥ねられてしまった。そして良太郎
が目覚めると、そこは異世界だった。
さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、
ゴーレムと化していたのだ。良太郎が
目覚めた時、彼の目の前にいたのは
魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は
未知の世界で右も左も分からない状態
の良太郎と共に冒険者生活を営んで
いく事を決めた。だがこの世界の裏
では凶悪な影が……良太郎の異世界
でのゴーレムライフが始まる……。
ファンタジーバトル作品、開幕!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる