黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

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story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い

scene .7 近くに潜む危険

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「ところでこの話は誰かにしたか?」

 リェフの店へと戻るべく、ロルフとクロンは人混みの中を歩いていた。
 三人は無事に店へ辿り着けただろうか。そんな事を考えながらロルフは質問を投げかけた。

「してません。……ロロにバレると厄介そうだと思ったので」

 尻すぼみに声のボリュームを落としながら、クロンは辺りを見回している。リェフの店へ戻っていったはずの妹の姿がないかを確認しているのだろう。
 サーカステントの近く程ではないが、まだちらほらと出店も営業しておりまだまだ人は多い。ロルフはクロンの声量に合わせて自身も声を小さくして言う。

「それでいい。あまり大きな声では言えないが、彼女は危険人物の可能性がある」
「そ、そうなんですか?」

 ロルフの言う事を正しいとは思いたいが、にわかには信じられない、クロンの目はそう言いたげにパチパチと瞬きを繰り返す。ヴィオレッタの今までの言動を考えるとそう思うのは仕方がない。人を助け、サーカスの人気者としてスポットライトを浴びている人物なのだ。

「だから接触しようとしたんだが……情けない話、失敗したって訳だ。詳しくは明日話す」

 ロルフはそう言うとクロンに目配せした。リェフの店がもうすぐそこだった。
 クロンが頷いたのを確認するのと同時に店の方へ視線を向けると、二人の帰りを待っていたのであろうライザがこちらに向かって大きく手を振っているのが見えた。

「思ったより遅かったね! 夕食出来てるよ~って言っても大したものじゃないんだけど! ささ、入って入って~」

 そう言ってライザは、いつもの調子で扉を開け、二人を店の中へ通す。

「おかえりー!」
「お先にいただいてます」
「随分ゆっくり戻ってきたわね」
「こらこら、ロロちゃん。人混みを歩くのは大変だからきっと時間がかかっちゃったんだよ。ね?」

 ロロの言葉に小さくビクついたクロンだったが、モモのフォローに「あはは……」と苦笑する。
 ロルフとクロンが席につくと、それを見計らっていたかのようにロロが席を立った。

「リェフさんごちそう様。わたしはもう寝ることにするわ」
「おう! って全然食ってないじゃねぇか。口に合わなかったか?」
「そんなことないんだけど、ちょっと食欲ないみたい。疲れちゃったのかも」
「おーそっか。まぁ、ゆっくり休めよ。腹が減ったら戻って来い」
「ありがと」

 そしてロロは皆と就寝の挨拶を交わすと、階段の方へと向かって行った。
 静かになってしまった食卓を盛り上げるかのように、元気な声でライザが会話を切り出す。

「んでんで本当は? どうして遅かったの? もしかして男同士で秘密の会話ってやつ?」
「そりゃぁいいな! 今度は俺も参加させてくれよ!」
「そんなんじゃないですって」

 いつも通り飛んできた冗談を軽くかわしながら、ロルフは食事の手を進める。ロロが眠ってしまう前に一度謝りに行こう。
 ふと隣を見ると、クロンが心配そうにロロが上っていった階段の方を見つめていた。そんなクロンにロルフは声をかける。

「食事が済んだらロロの様子を見に行こう」
「あっ……いや、えと……」

 ロルフの言葉に、クロンは突然気まずそうな表情をした。その表情の意味が分からず眉をひそめたロルフの背後から、先程階段を上がっていったはずの少女の声が聞こえた。

「ふぅんなるほど」
「あれ? ロロちゃん?」
「随分静かに降りてきたんだな。やっぱり飯食うか?」

 音もなく現れたロロに、モモとリェフが目を丸くしながら声をかけるが、そんなことは関係ないと言わんばかりの気迫でロロは何か小さな紙きれをバン! とテーブルに叩き付けた。

「これの話をしていたのね?」

 ロルフが叩き付けられたものに視線を移すと、先程クロンから受け取ったヴィオレッタからのカードだった。

「いや、それは……」

 そう言いながらロルフはカードを入れたはずのポケットをまさぐるが、何も入っていない。
 ――やられたな……ロルフは油断していた自分を静かに叱咤する。恐らく、いや、確実に先日チケットを掠め取られたのと同じ手口だろう。

「ヴィオレッタ様でしょ? このマークはヴィオレッタ様のマークだもの」

 そう言ってロロはカードの隅に印字されているハート型の様なマークを指さした。その顔は今にも不満爆発と言った雰囲気だ。
 少しの沈黙の後、ロルフは慎重に口を開く。これまでにない程に機嫌を損ねているロロを、これ以上怒らせたくはない。

「大切な話があるんだ。わかってくれ、な?」
「ふぅ~ん……でも、お兄ちゃんは連れて行くのね」

 その言葉を聞いたロルフは、思わずクロンに視線を移した。

「えっ、いや、僕は何も……!」

 だが、一緒にこの場所へ帰ってきてから、クロンがロロと二人で話す時間なんてなかったはずだ。その考えに至り、ロルフがしまったと思った時にはもう遅かった。
 慌てふためくクロンを見たロロが、より一層頬を膨らませる。

「本当にそうなのね! おかしいと思ったのよ! テントの外に出る前からなんだかそわそわしていたし、帰って来てからもずーっと何かを気にしていたから!」
「そ、そんな」

 何かを言いかけたクロンの鼻先にロロは人差し指をグイっと突き出すと、

「言い訳無用だわ! 自分達だけヴィオレッタ様に会おうだなんてそんな事許さないんだから! 絶対わたしも行くからね!」

 そう言い放って階段を駆け上がり、バタンと寝室のドアを閉めた。
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