30 / 149
story .02 *** 旅の始まりと時の狭間
scene .6 外の世界
しおりを挟む
ロロとクロンの案内で、二人の住む村へ行くことになったロルフ達は、会計を済ませモクポルトから出るための門へ向かっていた。
どうやら二人はモクポルトへ歩いてやってきたらしい。――とんだ度胸だな……ロルフは関心と呆れの入り混じった感想を抱きながら、ロロ達の会話に耳を傾ける。
「で、村の外にはモンスターがいるわけ!」
「へぇ、モンスターなんて、本当にいるのね」
「それってかわいい? 連れて帰れるのかな」
「ん~もう! だから、ついて来るのはいいけど、足、引っ張んないでよね」
そう、それが先ほどロルフがロロ達に“とんだ度胸”だと思った理由の一つである。
この世界には、所謂モンスターと呼ばれる生物が存在する。存在する、というより、古く昔に動物はおらず、モンスターのみが存在していたという方が正しいであろう。モンスターは、好戦的であったり、悪戯などをする種が多く、獣人達には古くから忌み嫌われる存在であった。そのため、基本的に人の生活区や、管理人の居る森にはモンスターが近寄らない様結界が張られるようになったのだ。それ故に、今の時代、ごく一般的な生活を送る分にはモンスターを目にすることなどない。その上、世界が統一されてからと言うもの、世界のあらゆる地域で土地開発が行われ、多くのモンスターが絶滅の危機に瀕しているとも聞く。
一方動物は、大昔に起きた地殻変動が原因で紛れ込むようになったと言われている。それまで目撃されたことのなかったその生き物たちは、モンスターのように獣人を襲うことが少なく、動き回るだけである種が多かったため、動物と名付けられた。そして、モンスターとの決定的な違いと言えば、魔力を全く持たないという事だ。
「マジか、ついてねぇな……」
「まぁまぁ、明日出直そうぜ」
「お前が寝坊したからだろうが! おごりで飯だ、飯!」
少し前を歩いていた二人組が、何やら言いながら町の方へ戻っていった。その様子を横目で見つつ、ロルフが馬車のチケット売り場を覗き込もうとすると、
「ちょっと! 馬車になんか乗らないわよ!」
ロロが少し怒った様子で、ロルフの袖を強く引っ張った。
「なんでだ? 馬車の方が早いし安全だろ?」
「そんなの……お金がもったいないわ! すぐ近くだもの!」
「いやぁ、よかったねぇお嬢ちゃん!」
なぜか馬車に乗りたくないロロがロルフに文句を言っていると、チケット売り場から陽気そうなおじさんが顔を出してそう言った。そして門の方へ視線を送ると、
「さっき丁度最後の馬車がでちまってねぇ」
そう言って髪の無い頭をポリポリと掻く。
それを聞いたロロは嬉しそうに両手を腰に当てドヤ顔をすると、
「ほら、カミサマも歩けって言ってるのよ! さ、歩いて行きましょ!」
さっさと門の方へ歩いて行ってしまった。
「はぁ……仕方ないか」
「悪いねぇ、お客さん!」
ロルフはしぶしぶ諦めると、ロロの後ろ姿を追うように歩き出した。
*****
****
***
門番に見送られ外に出たロルフ達は、ロロの案内で広い草原を歩いていた。
馬車に乗る気満々になっていたシャルロッテがしばらく文句を言っていたが、モモがうまくあやしたらしい。すっかり本当の姉妹のようだ。
「ところで、アルテトまでは歩いてどれくらいなんだ?」
「えっ? どうして村の名前……」
ロルフが聞くと、ロロは目を見開いてその場に立ち尽くしてしまった。
リス族の村であるアルテトが、モクポルトの近くにあることは本で読んで知っていたので村名を出しただけなのだが、こんなにも驚かれるとは思わなかった。何かまずいことでもあるのだろうか。
「う、ううん。なんでもない」
ロルフが振り返ると、ロロはふるふると首を揺らし、再び歩き出した。
まぁ、子供が歩いてたどり着くことができる程度の距離なのだから、心配する程のことではないであろう。前科もあるので、ロロの反応は少し不審な気もするが、たまに木や茂みがある程度のこの場所では、逃げるなどということも出来まい。
それよりも心配なのはモモだ。さっきから何かを見つけ急に走り出すシャルロッテはいつも通りとして、呼ばれてあちこち追いかけるモモはかなり疲弊しているように見える。シャルロッテもモモも能力が使えるとはいえ、使いこなせている訳ではない上に、実際にモンスターと対峙したことなどないため、とっさの判断で行動を起こせるとは思えない。疲弊していたら尚更だ。
「シャル! あんまり離れると危険だぞ!」
「はぁ~い!」
「あぁっ、待ってシャルちゃん……!」
「はぁ……ったく。モンスターが出るかもしれないっていうのに能天気だな……」
シャルロッテはロルフに注意されると、素直に走って戻ってきた。その後ろをモモはやっとのことでついてくると、膝に手をあて、はぁはぁと息を整える。その手には小さな植物の様なものが握られていた。何か気になるものでも見つけたのだろうか。
「シャルちゃん……早い……」
「えへへ~」
「褒められてないだろ……」
クロンは、そんな三人の様子を窺うようにしてロロに近づくと、なにやら小声で話しかけた。
「ねぇ、ロロ。そっちは……」
「何よ、向かってるでしょ? アルテトに」
「う、うん……」
ロロに睨まれたクロンは首をすくめて再び黙々と歩き出す。すると、
「ひ、ひゃあ!」
どこからか悲鳴が上がった。
どうやら二人はモクポルトへ歩いてやってきたらしい。――とんだ度胸だな……ロルフは関心と呆れの入り混じった感想を抱きながら、ロロ達の会話に耳を傾ける。
「で、村の外にはモンスターがいるわけ!」
「へぇ、モンスターなんて、本当にいるのね」
「それってかわいい? 連れて帰れるのかな」
「ん~もう! だから、ついて来るのはいいけど、足、引っ張んないでよね」
そう、それが先ほどロルフがロロ達に“とんだ度胸”だと思った理由の一つである。
この世界には、所謂モンスターと呼ばれる生物が存在する。存在する、というより、古く昔に動物はおらず、モンスターのみが存在していたという方が正しいであろう。モンスターは、好戦的であったり、悪戯などをする種が多く、獣人達には古くから忌み嫌われる存在であった。そのため、基本的に人の生活区や、管理人の居る森にはモンスターが近寄らない様結界が張られるようになったのだ。それ故に、今の時代、ごく一般的な生活を送る分にはモンスターを目にすることなどない。その上、世界が統一されてからと言うもの、世界のあらゆる地域で土地開発が行われ、多くのモンスターが絶滅の危機に瀕しているとも聞く。
一方動物は、大昔に起きた地殻変動が原因で紛れ込むようになったと言われている。それまで目撃されたことのなかったその生き物たちは、モンスターのように獣人を襲うことが少なく、動き回るだけである種が多かったため、動物と名付けられた。そして、モンスターとの決定的な違いと言えば、魔力を全く持たないという事だ。
「マジか、ついてねぇな……」
「まぁまぁ、明日出直そうぜ」
「お前が寝坊したからだろうが! おごりで飯だ、飯!」
少し前を歩いていた二人組が、何やら言いながら町の方へ戻っていった。その様子を横目で見つつ、ロルフが馬車のチケット売り場を覗き込もうとすると、
「ちょっと! 馬車になんか乗らないわよ!」
ロロが少し怒った様子で、ロルフの袖を強く引っ張った。
「なんでだ? 馬車の方が早いし安全だろ?」
「そんなの……お金がもったいないわ! すぐ近くだもの!」
「いやぁ、よかったねぇお嬢ちゃん!」
なぜか馬車に乗りたくないロロがロルフに文句を言っていると、チケット売り場から陽気そうなおじさんが顔を出してそう言った。そして門の方へ視線を送ると、
「さっき丁度最後の馬車がでちまってねぇ」
そう言って髪の無い頭をポリポリと掻く。
それを聞いたロロは嬉しそうに両手を腰に当てドヤ顔をすると、
「ほら、カミサマも歩けって言ってるのよ! さ、歩いて行きましょ!」
さっさと門の方へ歩いて行ってしまった。
「はぁ……仕方ないか」
「悪いねぇ、お客さん!」
ロルフはしぶしぶ諦めると、ロロの後ろ姿を追うように歩き出した。
*****
****
***
門番に見送られ外に出たロルフ達は、ロロの案内で広い草原を歩いていた。
馬車に乗る気満々になっていたシャルロッテがしばらく文句を言っていたが、モモがうまくあやしたらしい。すっかり本当の姉妹のようだ。
「ところで、アルテトまでは歩いてどれくらいなんだ?」
「えっ? どうして村の名前……」
ロルフが聞くと、ロロは目を見開いてその場に立ち尽くしてしまった。
リス族の村であるアルテトが、モクポルトの近くにあることは本で読んで知っていたので村名を出しただけなのだが、こんなにも驚かれるとは思わなかった。何かまずいことでもあるのだろうか。
「う、ううん。なんでもない」
ロルフが振り返ると、ロロはふるふると首を揺らし、再び歩き出した。
まぁ、子供が歩いてたどり着くことができる程度の距離なのだから、心配する程のことではないであろう。前科もあるので、ロロの反応は少し不審な気もするが、たまに木や茂みがある程度のこの場所では、逃げるなどということも出来まい。
それよりも心配なのはモモだ。さっきから何かを見つけ急に走り出すシャルロッテはいつも通りとして、呼ばれてあちこち追いかけるモモはかなり疲弊しているように見える。シャルロッテもモモも能力が使えるとはいえ、使いこなせている訳ではない上に、実際にモンスターと対峙したことなどないため、とっさの判断で行動を起こせるとは思えない。疲弊していたら尚更だ。
「シャル! あんまり離れると危険だぞ!」
「はぁ~い!」
「あぁっ、待ってシャルちゃん……!」
「はぁ……ったく。モンスターが出るかもしれないっていうのに能天気だな……」
シャルロッテはロルフに注意されると、素直に走って戻ってきた。その後ろをモモはやっとのことでついてくると、膝に手をあて、はぁはぁと息を整える。その手には小さな植物の様なものが握られていた。何か気になるものでも見つけたのだろうか。
「シャルちゃん……早い……」
「えへへ~」
「褒められてないだろ……」
クロンは、そんな三人の様子を窺うようにしてロロに近づくと、なにやら小声で話しかけた。
「ねぇ、ロロ。そっちは……」
「何よ、向かってるでしょ? アルテトに」
「う、うん……」
ロロに睨まれたクロンは首をすくめて再び黙々と歩き出す。すると、
「ひ、ひゃあ!」
どこからか悲鳴が上がった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界転移で無双したいっ!
朝食ダンゴ
ファンタジー
交通事故で命を落とした高校生・伊勢海人は、気が付くと一面が灰色の世界に立っていた。
目の前には絶世の美少女の女神。
異世界転生のテンプレ展開を喜ぶカイトであったが、転生時の特典・チートについて尋ねるカイトに対して、女神は「そんなものはない」と冷たく言い放つのだった。
気が付くと、人間と兵士と魔獣が入り乱れ、矢と魔法が飛び交う戦場のど真ん中にいた。
呆然と立ち尽くすカイトだったが、ひどい息苦しさを覚えてその場に倒れこんでしまう。
チート能力が無いのみならず、異世界の魔力の根源である「マナ」への耐性が全く持たないことから、空気すらカイトにとっては猛毒だったのだ。
かろうじて人間軍に助けられ、「マナ」を中和してくれる「耐魔のタリスマン」を渡されるカイトであったが、その素性の怪しさから投獄されてしまう。
当初は楽観的なカイトであったが、現実を知るにつれて徐々に絶望に染まっていくのだった。
果たしてカイトはこの世界を生き延び、そして何かを成し遂げることができるのだろうか。
異世界チート無双へのアンチテーゼ。
異世界に甘えるな。
自己を変革せよ。
チートなし。テンプレなし。
異世界転移の常識を覆す問題作。
――この世界で生きる意味を、手に入れることができるか。
※この作品は「ノベルアップ+」で先行配信しています。
※あらすじは「かぴばーれ!」さまのレビューから拝借いたしました。
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
アラフォー料理人が始める異世界スローライフ
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。
わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。
それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。
男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。
いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる