黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

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story .02 *** 旅の始まりと時の狭間

scene .3 緑栗鼠兄妹との出会い

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「ふわぁ綺麗な町ですね」

 モモは汽車を降りると、ぽかんと口を開けながら駅を見渡して言った。中央広場の大きな時計塔をはじめ、ほとんどが木材で作られた駅だ。山を削り、その中に作られたこの駅は大きなドーム状になっている。
 そしてこの町――モクポルトはコンメル・フェルシュタット近くの駅から汽車で三時間ほどの位置にある小さな港町だ。小さいとはいえ、世界図書館へ向かう船が出る唯一の町なので、世界中から人が多く集まり賑わっている。つまり、色々な地域からの汽車が停車するため、小さな村で育ったモモがこの場所を町だと勘違いする程に大きな駅なのだ。

「ここはまだ町じゃないよー! あのねーモモ、駅で立ち止まるとメイワクだからダメ! なんだって」
「そうなの?……あっ」

 シャルロッテはそう言うと、モモの手を握り人混みをすいすいと進んでいく。体制を崩し、引っ張られるがままに進むモモは、案の定見事なまでに人々にぶつかっていく。

「あっすみません……わぁっごめんなさいっ」
「シャルロッテ! ちゃんと周りを見ろ。モモは人混みに慣れてないんだから、もう少しゆっくり歩けって」
「えへへ、ごめんなさーい」

 少し後ろの方からロルフの声が聞こえると、シャルロッテはゆっくり歩き出した。モモも体制を整えられたようだ。
 ――全く……汽車を降りる前に散々注意したってのに……ロルフが二人を見失わない様進みながら、小さくため息をついた時だった。ドスッと何かがお腹のあたりにぶつかった。

「あ、ごめんなさい」

 緑色の髪の大きな尻尾が生えた女の子だ。二人を追いかけるのに必死になっていたからか、全く気付かなかった。ロルフは、俺も人のこと言えないな……と思いつつ、「悪い」と謝りながら、その女の子の顔を覗き込む。

「……怪我はないか?」
「うん、平気」

 女の子は動揺することもなく、淡々とそう答えすぐに歩き出した。そして、すれ違いざまに小さな声で

「……スリには気を付けるのよ?」

 と言うと人込みを縫って駆け出した。――何だったんだ、今の子……ロルフが疑問に思っていると、

「本当にすみません……待ってよ、ロロ!」

 女の子と同じ髪の色の、女の子よりは背の高い男の子が謝りながら通り過ぎていった。
 ぶつかってきた少女……スリ……謝る少年……ロルフは慌てて魔術ポーチを通していたベルトの腰部を触ると、ハッとしたように目を見開いた。そして、勢いよく振り返ると少女と少年の姿を探す――が、二人の姿はすっかり人込みの中だ。

「まずい……!」

 ロルフはシャルロッテとモモに状況を説明しようと、先ほどまで二人がいた方向を見る。ところが二人の姿が見当たらない。少女達に気を取られている間に見失ってしまったようだ。

「くそっ……取り敢えずポーチだ」

 そう独り言ちると、ロルフは一人少女達の向かった方へと走り出した。



*****
****
***



「わぁすごい! これが海?」
「うん、そうだよー!」

 シャルロッテとモモは駅の外の丘の上にいた。眼下にはモクポルトの町と海が広がっている。海に面した方向以外が山に囲まれたこの小さな町は、駅を出た所から一望できるのだ。

「世界図書館はね、海の上に浮かんでるお城みたいでとっても綺麗なんだよ!」
「そうなんだ、とても楽しみ。それと、なんだか不思議な香りがするのね」
「しおのかおりって言うんだって。海にはお塩がいっぱい入ってて、しょっぱいってロルフが言ってたよ」
「へぇ~シャルちゃん物知りなのね」

 海に見とれてすっかり忘れていたが、その名前を聞いてモモは違和感に気づいた。さっきまですぐ後ろにいたはずのロルフがいない。

「あれ? そういえばロルフさんは?」
「ふぇ? もー、ロルフはすぐ迷子になっちゃうんだから……」

 シャルロッテはきょろきょろ辺りを見渡しながらそう言った。モモも辺りを見渡すが、近くにはいないようだ。

「あんまり遠くに行っちゃうと会えなくなっちゃいそうだし、ここで待ってよっか」
「んーいつもひょこって帰ってくるし、きっと大丈夫!」

 当たり前の提案をしたつもりだったのだが、いつでもこの女の子はポジティブなようだ。モモにとって、ある意味その自信はうらやましくもあったりするが、このまま町に出ようなどと言われてしまったらどうしようと心配になる。

「そ、そっか。じゃぁ近くの……」
「うん! だから下に降りてお土産屋さんとか見て回ろっ。面白いものたくさんあるよ!」

 悪い予感は当たるもので、シャルロッテはそう言って元気よく走り出した。

「あっ、まっ、待ってシャルちゃん!」

 ――いつも大変だなぁ、ロルフさん……モモはロルフに同情する。そして、「モモ―早くー!」とこちらに向かって元気よく手を振るシャルロッテを追いかけた。
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