11 / 149
story .01 *** うさぎと薬草と蛇
scene .2 桃兎との出会い
しおりを挟む
秋の心地よい爽やかな風から、冬の冷たく棘のある風にかわる季節。
かすかに暖かい日差しが差し込む森の中で、桃色の髪の少女が何かを探していた。
「あれ……おかしいな……どこに行っちゃったんだろう……」
茂みの中を覗いたり、木の隙間の落ち葉をどけてみたり。どうやら小さなものを探しているようだ。
「また隙間に落っこちちゃったかな……」
そう言ったときだった。
――カサカサカサっ
茂みの中から何かが動いた音がした。
少女はすかさず音のした茂みを覗くと、安心したように呟く。
「もう、こんなところにいたのね」
茂みの中へ入っていくと、少女はしゃがみ込み、愛おしそうに小さなうさぎをその手に乗せて、話しかけた。
「すぐ逃げちゃうんだから。もし知らない人に連れてかれちゃったらどうするの?」
すると、近くで誰かの話し声が聞こえた。
少女にはうさぎの様な耳がついているが、集中して探していたからか、少女の耳が垂れ耳であるからか、人が近づいてきていることに気がつかなかったようだ。少女はびっくりしたように目をパチパチと瞬かせると、茂みの隙間から外を覗き見た。
「どうやら今年はもう見つからなさそうだな……」
「ん~なのかな~」
全身黒いイヌ……いや……オオカミ? 族のような姿をした青年と、白いネコ族の女の子が話しながら歩いている。
犬ならまだしも、狼ってことは狂暴な肉食……? 見つかったら大変。こんなに小さい子、あんな大きなヒトにとってはひと口――と思った時だった。少女の心配をよそに、小さなうさぎは手の中から茂みの外へ飛び出していった。
――カサカサっぴょんっ
「えっなになにっ?」
「どうしたシャル」
「なんか小さい生き物がいる……! 触ってもいいかな……?」
そう言うと白い猫の姿をした女の子――シャルロッテは茂みから飛び出してきた小さなうさぎの前にしゃがみこんだ。
日の当たったうさぎをよく見ると、体が少し透けているようだった。
「ん? あぁ……ニュンフェだな」
「にゅんふぇ?」
ロルフはシャルロッテの後ろからその姿を確認すると、その生き物の正体を伝えた。
「妖精みたいなものかな。――うさぎの形、ということはウサギ族の守護精霊か。そのサイズだとまだ子供だろう」
「ふぅ~ん。私にもにゅんふぇ? いるの?」
シャルロッテはそう言いながら自分の体を見回している。
そんなシャルロッテを見てロルフはクスリと笑うと、小さく首を振ってその問に答えた。
「残念だが、守護精霊は元々森の管理人であるウサギ族やシカ族にしか憑かないそうだ」
「ふぅ~んそうなんだ……」
少し納得のいかないような顔でうさぎの精霊の方に向き直ると、シャルロッテは手を伸ばした。
「おいでー」
するとうさぎはぴょこんと手に乗り、立ち上がって鼻をひくひくさせている。
「わぁかわいい……! 連れて帰ろうよー!」
「んーそうだな、シャル。そうできるといいんだが……」
そう言いながらロルフは辺りを見回す。少し先に「ウサギ族の村“ココット・アルクス”」と書いてある看板があった。
「おそらくそれは誰かの半身だ。近くにウサギ族の村があるから、そこから逃げ出してきたんだろう。ついでだから連れて行って――」
と言ってシャルロッテを立たせようとした時だった。
「だめぇぇぇぇぇ! 食べちゃだめぇぇぇぇぇええっ!」
そう叫びながら、近くの茂みから桃色の髪の少女が草まみれになって飛び出してきた。
「そっその子はきっと美味しくないからっ、たっ、食べるなら、わ、わたしにっ」
少女はスカートをぎゅっと握りしめ、目に涙を浮かべながら小刻みに震えている。何やら勘違いをしているらしい。
――美味しくないって……元々精霊を食おうなんて思ってないんだが。そう思いながら、ずれた眼鏡を直しつつ、ロルフは少女に問いかけた。
「このニュンフェは君の?」
その言葉に体をビクッと震わせ、少女は小刻みに頷いた。
「そっか。だってさ、シャル。飼い主が見つかったんだから返そうな」
「はぁい」
名残惜しそうにうさぎを差し出してくるシャルロッテを、少女は上目遣いで見て不思議そうにお礼を言う。
「あ、ありがとう……?」
「こんなにかわいいにゃんふ、食べたりしないから安心してねっ」
シャルロッテの言い間違えにロルフは再びクスリと笑うと、「じゃぁ帰るか」と声をかけた。そして、来た方向へ体を向けると歩き出した。
「あ、あの!」
少女の声に二人が振り返ると、彼女は上目遣いのまま言葉を続けた。
「もしよければうちに……家に、寄りませんか?」
かすかに暖かい日差しが差し込む森の中で、桃色の髪の少女が何かを探していた。
「あれ……おかしいな……どこに行っちゃったんだろう……」
茂みの中を覗いたり、木の隙間の落ち葉をどけてみたり。どうやら小さなものを探しているようだ。
「また隙間に落っこちちゃったかな……」
そう言ったときだった。
――カサカサカサっ
茂みの中から何かが動いた音がした。
少女はすかさず音のした茂みを覗くと、安心したように呟く。
「もう、こんなところにいたのね」
茂みの中へ入っていくと、少女はしゃがみ込み、愛おしそうに小さなうさぎをその手に乗せて、話しかけた。
「すぐ逃げちゃうんだから。もし知らない人に連れてかれちゃったらどうするの?」
すると、近くで誰かの話し声が聞こえた。
少女にはうさぎの様な耳がついているが、集中して探していたからか、少女の耳が垂れ耳であるからか、人が近づいてきていることに気がつかなかったようだ。少女はびっくりしたように目をパチパチと瞬かせると、茂みの隙間から外を覗き見た。
「どうやら今年はもう見つからなさそうだな……」
「ん~なのかな~」
全身黒いイヌ……いや……オオカミ? 族のような姿をした青年と、白いネコ族の女の子が話しながら歩いている。
犬ならまだしも、狼ってことは狂暴な肉食……? 見つかったら大変。こんなに小さい子、あんな大きなヒトにとってはひと口――と思った時だった。少女の心配をよそに、小さなうさぎは手の中から茂みの外へ飛び出していった。
――カサカサっぴょんっ
「えっなになにっ?」
「どうしたシャル」
「なんか小さい生き物がいる……! 触ってもいいかな……?」
そう言うと白い猫の姿をした女の子――シャルロッテは茂みから飛び出してきた小さなうさぎの前にしゃがみこんだ。
日の当たったうさぎをよく見ると、体が少し透けているようだった。
「ん? あぁ……ニュンフェだな」
「にゅんふぇ?」
ロルフはシャルロッテの後ろからその姿を確認すると、その生き物の正体を伝えた。
「妖精みたいなものかな。――うさぎの形、ということはウサギ族の守護精霊か。そのサイズだとまだ子供だろう」
「ふぅ~ん。私にもにゅんふぇ? いるの?」
シャルロッテはそう言いながら自分の体を見回している。
そんなシャルロッテを見てロルフはクスリと笑うと、小さく首を振ってその問に答えた。
「残念だが、守護精霊は元々森の管理人であるウサギ族やシカ族にしか憑かないそうだ」
「ふぅ~んそうなんだ……」
少し納得のいかないような顔でうさぎの精霊の方に向き直ると、シャルロッテは手を伸ばした。
「おいでー」
するとうさぎはぴょこんと手に乗り、立ち上がって鼻をひくひくさせている。
「わぁかわいい……! 連れて帰ろうよー!」
「んーそうだな、シャル。そうできるといいんだが……」
そう言いながらロルフは辺りを見回す。少し先に「ウサギ族の村“ココット・アルクス”」と書いてある看板があった。
「おそらくそれは誰かの半身だ。近くにウサギ族の村があるから、そこから逃げ出してきたんだろう。ついでだから連れて行って――」
と言ってシャルロッテを立たせようとした時だった。
「だめぇぇぇぇぇ! 食べちゃだめぇぇぇぇぇええっ!」
そう叫びながら、近くの茂みから桃色の髪の少女が草まみれになって飛び出してきた。
「そっその子はきっと美味しくないからっ、たっ、食べるなら、わ、わたしにっ」
少女はスカートをぎゅっと握りしめ、目に涙を浮かべながら小刻みに震えている。何やら勘違いをしているらしい。
――美味しくないって……元々精霊を食おうなんて思ってないんだが。そう思いながら、ずれた眼鏡を直しつつ、ロルフは少女に問いかけた。
「このニュンフェは君の?」
その言葉に体をビクッと震わせ、少女は小刻みに頷いた。
「そっか。だってさ、シャル。飼い主が見つかったんだから返そうな」
「はぁい」
名残惜しそうにうさぎを差し出してくるシャルロッテを、少女は上目遣いで見て不思議そうにお礼を言う。
「あ、ありがとう……?」
「こんなにかわいいにゃんふ、食べたりしないから安心してねっ」
シャルロッテの言い間違えにロルフは再びクスリと笑うと、「じゃぁ帰るか」と声をかけた。そして、来た方向へ体を向けると歩き出した。
「あ、あの!」
少女の声に二人が振り返ると、彼女は上目遣いのまま言葉を続けた。
「もしよければうちに……家に、寄りませんか?」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
なろう390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす
大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜
魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。
大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。
それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・
ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。
< 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界起動兵器ゴーレム
ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに
撥ねられてしまった。そして良太郎
が目覚めると、そこは異世界だった。
さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、
ゴーレムと化していたのだ。良太郎が
目覚めた時、彼の目の前にいたのは
魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は
未知の世界で右も左も分からない状態
の良太郎と共に冒険者生活を営んで
いく事を決めた。だがこの世界の裏
では凶悪な影が……良太郎の異世界
でのゴーレムライフが始まる……。
ファンタジーバトル作品、開幕!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる