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第2章 邪教の国

第30話 魔法の指輪

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 次に向かった先は、採石場だった。
 そこではエレメント族のクリストファーが相変わらず宝石の形をして浮遊していた。
 クリストファーの手前のテーブルには、無数の魔法の指輪が鎮座していた。

「これが、魔法の指輪ですか」

「そうです。これがスキルを付与した魔法の指輪です。スキル持ちじゃなくても、この魔法の指輪を装備する事であたかもスキルを持ったように出来るのでございます。さぁ、このクリストファーは凄いでしょう?」

「ああ、凄い、ちなみに、このサファイアの指輪はなんだ」

「炎纏いスキルです。全身を炎で包み込む事が出来ます」

「こっちのルビーは?」

「水弾スキルです。水の玉をはじき出す事が出来ます」

「こっちのダイヤモンドは?」

「縮地スキルです。距離を縮める事が出来ます。瞬間移動ではないのが注意ポイントです」

「いやー凄いな、これを大量生産できそうか?」

「色々なスキルを付与出来ます。大量生産も出来るでしょう、問題があるとすれば金額にしたら1個100万ボッチはするという事です」

「なるほど、普通の人では購入出来ないという事か」

「そうですね、なので、売るのではなく、自分達の兵力強化に使用してはいかがでしょうか」

「つまり、ノーマルモンスターに装備させるという事だな」

「そうです。特に指の形が小さいゴブリン族がよろしいかと」

「ゴブリンなら結構ノーマルで当ててたからな、ゴブリンを魔法指輪部隊にしようか」

「その方がよろしいかと」

「それと、お金に困ったら売る方向も考えた方が良いな」

「それもよろしいかと、いくらでも製作出来るので、ハンドメイドは基本的に得意であります」

 いやいや、クリストファー君のはハンドメイドではなくて、体内で製造して吐き出しているから、全然違った意味合いになるかと。

 腹の中で製作して吐き出している姿は想像でしかないが、グロテスクではないのだろう。
 しかし、乙女たちから見たら、きっと気持ち悪く映って、とてもじゃないが装備したいとは思わないだろう。

 知らぬが仏とはこの事を言うのかもしれないな。

「では、魔法の指輪については、邪教の城の宝物庫に保管して置こうと思いますので、体内に入れて、持ち運ぶ事が出来ます」

「助かるよ」

「いかようにでも」

 相変わらずむかつく喋り方のクリストファーであったが。
 その後、俺は一度邪教の城に戻ろうとして、魔獣族のゴルフォードの捕まった。

「教祖よ、ちと話がある」

「ゴルフォードよ、どうした」

 少し威厳のある口調で尋ねてみると。
 巨大狼はずらりと並んだ牙を舌なめずりすると、訪ねてきた。

「狩りにでかけてきてよかろうか」

「全然いいが」

「少し体が鈍ってきていてな、野生のモンスターでも狩りに行こうと思う、その時に外の状態について偵察してこようと思うんだが」

「それは助かるよ」

「ブブリンとデラゴンとオメガラッシュがまたダンジョン攻略に明け暮れていてな、少しうらやましかった。このゴルフォードはもっと強くなりたいのです」

「理由を聞いても良いかい」

「もちろんです。魔王ラスガス様を守り切れず、この身だけが生きてきました。教祖様を探しお守りせよとのご遺言、確かに守ろうと思います。しかし今のままではファイブドラゴンに匹敵する力すら持っていません、どうにかしてファイブドラゴン並みの力を手に入れたい、そう願っているのです。魔王ボスボスに殺されかけた教祖様を見て、絶望しました」

「俺の弱さについてかな」

「違います。守り切れなかったこの自分にです」

「そんな事はないよ、あそこにはゴルフォードはいなかったからね」

「強ければ、瞬時に移動出来たはずです。弱さゆえの愚かさです」

「俺も強くなるからさ、お互い強くなろうな」

「御意でございます」

 そう言って、魔獣ゴルフォードは毛むくじゃらの足で地面を蹴り上げた。
 バウンドするように邪教の城壁の真上に着地すると、そのまま、トレント族のドレファンの結界を突き破って森の彼方へと消えて行った。

 そのまま、俺は邪教の城へと帰宅していった。
 まだお昼時だったから、昼飯を牢屋にぶち込んでいるマルハデスと食う事にした。

「いやー教祖様、自らが素晴らしい食事を持ってきてくださるとはねありがたいありがたいこった、デルファルドの旦那も見習ってほしいね」

 俺の隣にはブラックスライム族のデルファルドさんがいた。
 彼は勇者であった頃にエンジェルドに裏切られて追放されて何かがあったらしい。
 エンジェルドを探すために、マルハデスを尋問している訳だが、マルハデスはどうやらエンジェルドの居場所を本当に知らないらしい。

 一応マルハデスは勇者ではあったが、牢屋に大人しく捕まっている。
 それはきっとデルファルドさんが勇者の力を無効化する力を使用しているからだと思われる訳で、ある意味、勇者キラーなのかもしれない。

「あまり、こいつの話を聞くなよ教祖様、こいつは口だけが達者なんだよ」

「そそ、口だけが1人歩きしちまうんでさー旦那、こりゃーうめー飯だな、エダマメかーエダマメになんだこれ、人参? あとはジャガイモにトウモロコシかー野菜ばっかだな、肉をくれよ」

「肉なら、昨日もって来ただろ」

 デルファルドさんがスライムの小さい口を動かして説明している。

「いい加減、デルファルドさんにエンジェルドのヒントでもあげたらどうだ」

 俺は光を見る事で相手の感情を感じる事が出来る。
 邪教レベルが存在していない現実世界では相手の感情に影響されてしまい、自分を見失う事があった。

 だが、邪教レベルが100を迎えたのと、レベルの概念があるおかげで、相手の光の感情に左右される事はない。

 彼の光方は、確実にエンジェルドの何かを知っているというものだが、それは曖昧な光方であり、断定できる光方ではない。

 よってヒント程度しか持ち合わせていないと断定出来る。

 全ては、単なる感みたいな物なのだが。
 光方に教科書みたいなものは存在せず。
 これは俺自身の経験から作り出される物が大半だと思っていい。
 間違う事もあるだろうし、当たる事もあるだろう。
 とても迷惑な力だなと思いつつも。

「あーやっぱり教祖様にはばればれかー」

「やはり何か知っておったな、マルハデスよ」

「あーはいはい、言いますよ、ヒントですね、それはエンジェルド師匠は彼の娘を生き返らせる事に成功しましたが、残念な事に呪われた神を宿していました。それは御分かりでしょう?」

「ゼロなのか」

「それです。ゼロです。ゼロを宿した娘は圧倒的な力を持ち、エンジェルド師匠を下僕にしてしまいました。彼は今どこにいるか分かりませんが、最後に見たのが【勇者の谷】でございますねー」

「あそこか、帝国はあそこを閉鎖したと聞いたが」

「それを解放したんですよ、俺が見たのはそこまで、勇者の谷の向こう側に入ってませんよ、だって、入ったら戻ってこれなくなるかもしれませんからね、いくら勇者の力をもっていても、規格外のモンスターワールドに入りたいとは思いませんぜー」

「勇者の谷とはなんだ。モンスターワールドとは?」

「そうだな、なんと説明していいのやら」

 デルファルドさんがスライムの顔さながらに、少しだけ険しい表情を浮かべた。

「勇者の谷とはもう1つの世界につながる入口なんだ。その向こう側はモンスターワールドと呼ばれて、普通、生き物にはレベルは存在しないんだが、あちらではレベルが存在しており、レベルが上位になる程、勇者を超えた強さ、魔王ボスボスクラスではないが、ファイブドラゴンや8巨人並みのがごろごろいると思ってくれ」

「レベルですか、なんとなく理解しました」

 確かに、この世界のモンスターも人間にもレベルの存在はない。
 だが、スキルにはレベルの存在はある。それは俺だけなのかもしれないが。
 原理は分からない。

 モンスターワールドに行けばモンスターにはレベルがついているという事は。
 モンスターは日々レベルアップしているのだろう、モンスター同士で殺し合って。

「さて、マルハデスよそなたを解放しよう」

「お、まじですかーじゃあ、さいならー」

 そう言いながら、マルハデスは消えてしまった。

「まったく、勇者の力を解放してやったら、テレポート魔法で移動か、礼儀を知らん奴だ」

 牢屋の中には既にマルハデスがいなくなっている。
 あるとすればマルハデスが綺麗に食べたご飯のお皿くらいだろう。
 少し寂しくなると思いつつも。

「デルファルドさん、勇者の谷に行くのか?」

「今は行かない、今のスライムの体をさらに進化させ、強くなってからだ。それに教祖様をお守りせねばなるまい」

「助かるよ」

「教祖様はまだ11歳、これから成長していけば、さらに強くなるでしょう」

「まぁ、そう考えるとまだ11歳なんだよな」

 確かにまだ11歳。
 神目スキルを使えばこの体は40歳にはなるのだが、力を使いすぎたり、1日が経過すると元に戻る。
 今はこの大陸に魔王ボスボスがいない事が幸いだったりするのだろう。
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