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私の想いは精霊とともに……

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「そういえばさ、レンカはカレルのどこが気になったの? 知り合ってまだ二日だよね?」

 確かに、出会ってまだ二日。一目惚れか?と言われても仕方がない時間しか、共に過ごしていない。

 でも、その短い時間の中で、私にとっては結構濃い体験をしたんじゃないかと思う。

 二回も命を助けてもらったし、失格鍛冶師の烙印を押されてもなお、私の腕を信じて武器の制作を依頼してくれたし。気持ちが沈んだ時に、こうタイミングよく手を差し伸ばしてもらえれば、惚れちゃうのも仕方がないと思わない?

「なるほどねぇ。カレルって自覚はあまりないみたいだけれど、そういったことをわりと自然体でやっちゃうから、うん、レンカの気持ちもわかるよ」

 私の理由を聞いて、ユリナは微笑を浮かべながら頷いた。

 ユリナが言うには、カレルの持つ精霊を纏わせた使い魔と心を通わせるのに必須のスキル『精霊感応』が、対人間でも多少は影響しているんだろうって。だから、カレルは人の機微を読んで行動することがうまいみたい。ただ、まぁ、おそらくはスキルだけじゃなく、元々の本人の気質も多分にあるんだとは思うけれど。

「そういうユリナはどうなの? カレルのどこに惚れたのかな?」

 私ばかりがぺらぺらとぶちまけるのも、ちょっぴり悔しい。ユリナの話も聞かないと、不公平だよね。

「うーん……。いっぱいありすぎて、どこから話せばいいのやらって感じなんだけれど……」

 ユリナはポリポリと頭を掻いた。

「ぜひ聞きたいなぁ、ユリナの惚気話」

 私は言いにくそうにしているユリナを促した。少し顔を近づけて、じいっとユリナの顔を見つめながら、さぁ、ほら、さっさと話しなさい、とプレッシャーをかける。

「惚気って、そんなんじゃないよ」

 ユリナは少し口をとがらせて否定をし、ぽつぽつと話し始めた。

「まぁ、カレルとはこのVRMMO『精霊たちの憂鬱』サービス実装からそんなに経っていないころから、ずっと一緒だったからね。もうすぐ三年?」

 ユリナも偶然に、危ない場面をカレルに助けられて知り合ったそうだ。そこで、同年代ということで二人は意気投合し、カレルとゲイルのペアに、ユリナも混ざるようになった。

 カレルとユリナは戦闘でも中衛同士で、連携をして動く機会も多く、打ち合わせと称して普段から二人で会話を交わす頻度がものすごく多かった。自然、二人の仲は急速に接近していった。

 親密になればなるほど、当然、恋心が芽生えていくのは、ごく自然な流れだと思う。お互いがお互いを気にかけているため、とっさの場面に相手をすかさず庇う状況が必然的に増えていった。危機を助けられれば、言わずもがな、その相手をますます気にかけるようになる。そして、また危ない場面で支えあう。こんな循環が出来上がっていたらしい。

 こんな状況で三年近くも共に過ごしていたら、そりゃお互い惚れあうでしょうよ。

「そっかー……。やっぱユリナには敵いそうにないなぁ。まず、なんといっても好きになっている年季が違うよ」

 さすがに三年間と二日間じゃ、比較するまでもなく、積み重ねてきたものが違いすぎる。ユリナは、私の知らないカレルをたくさん知っている。でも、私はほとんど知らない。

「恋って必ずしもそういう物じゃないと思うけれどね。でも、この気持ちは本当。だから、私、レンカ相手に負けるつもりはないよ?」

 ユリナは挑発するような言葉を口にした。けれど、別に悪意は感じない。表情はニッコリと笑っていた。

「うん、今の話を聞いて、私も決心したよ」

 決めた。私は次のステップに進むんだ。ここで停滞しているわけにはいかない。そのためにも、この胸にチクチクと刺さる棘をきちんと抜かないとダメだ。

 だから私は――、

「ユリナを応援する。私のこの気持ちは、カレルのための武器に、精霊として精いっぱい込めるよ。そして残りは、私の心の奥底に、大切な思い出としてしまっておく」

 恋ではなく、コヴァーシュとしての道を取ると心に刻んだ。

 ユリナが驚いた表情を浮かべ、「いいの?」と首をかしげる。

「ま、所詮は初恋なんて、実らないものだしね」

 そう、所詮は一時の気の迷い。私はそう思い込むことにした。この恋は良い思い出に昇華して、再び私は生産道にまい進するんだっ!

「えー、そんな寂しいこと言わないでよ。私だって、これが初恋だよ?」

 ユリナは不満げに、「私の恋も実らないのー?」と呟いた。

「じゃ、余計に頑張らないとね」

 それはユリナ次第だよと思いながら、私は発破をかけた。

「……うん、ありがと、レンカ」

「いえいえ」

 神妙な面持ちでユリナは礼を述べた。

 私の初恋は封印することに決めた以上、ユリナには頑張って想いを成就してもらいたい。でなければ、生産に生きると決めた私の決心が、無駄になっちゃう。

「あーあ、レンカを励ますつもりが、なんだか逆になっちゃったね」

 ユリナは苦笑した。

「ま、いいじゃない。……これからもよろしくね、ユリナ。あなたとはいいお友達になれそう」

 私はユリナに微笑み、手を差し出した。

「うんっ! こちらこそ、よろしくね」

 ユリナは私の手を取り、がっしりと握手を交わした。

 もちろん、そんなにすぐに気持ちを切り替えられるはずがない。私は、内心で泣いたよ。でも、ユリナを思って、おくびにも出さないように頑張った。別に誰かが褒めてくれるわけじゃ、ないんだけれどね。これは、私の矜持。
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