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第二十章 大司教を追って

5-3 もう時間がありませんわ!~後編~

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 アリツェたちは使い魔とともに森へ駆け寄った。木がなぎ倒される音がますます大きくなり、視界が開けてくる。次第に巨大魔獣の全容が明らかになってきた。

「で、でかいな……」

 ドミニクは走りながらも、ちらりと視線を上げた。

 アリツェも顔を上げ、前方を見遣った。それなりに背の高い森の木々の間から、魔獣は頭部を露出している。体長は、少なく見積もっても五メートルはある。……六メートル近いだろうか。

「感心している場合ではありませんわ! ドミニク、正面は頼みます!」

 アリツェは怒声を上げ、手に持つ槍の柄をぎゅっと握りしめなおした。アリツェの動きに合わせ、ペスは素早くアリツェの背嚢に潜り込み、ルゥは左肩に飛び乗った。

「ま、任せてくれ」

 ドミニクは一気に魔獣の正面へ躍り出て、剣を中段に構える。

「お兄様、クリスティーナ。地上は任せます。わたくしは、空から行きますわ!」

 アリツェは使い魔たちの準備が整ったのを確認するや、ラディムとクリスティーナへ大声で指示を飛ばし、ルゥに精霊具現化を施した。風の精霊術による飛行術の発動だ。

 ルゥの身体は白い膜で覆われ、そのまま一気に膨張。と同時にアリツェの身体にも同じ膜が取り巻き、そのまま背後に濃縮されていった。

 数刻の後、濃縮された膜は半透明の白い翼に変化し、アリツェの身体をふわりと浮かせる。

「了解した!」

「オッケー、任せなさい!」

 一方、ラディムとクリスティーナはアリツェの指示に大声で応じ、それぞれの使い魔に精霊具現化を施し始めた。

 クリスティーナはそのままドミニクの傍につき、ラディムは魔獣の背後に回る。地上の配置は整ったようだ。

 アリツェもぐんぐんと高度を上げ、魔獣の頭上でホバリングを始めた。飛行術が安定したところで、追加の霊素を練り、背嚢に潜むペスへ精霊具現化を施した。ペスには水属性だ。

 この段階で、魔獣は自らの周囲でちょこまかと動くアリツェたちの動きに気づいた。両腕を大きく振り回し、「グォォォォッ」と大きく吠える。

 アリツェたちはその魔獣の遠吠えを合図に、行動を開始した。

 ドミニクは地面を蹴り、魔獣との距離を一気に詰めた。前衛として、魔獣のターゲットをすべて引き受けるつもりのようだ。

「お前の相手は、このボクだっ!」

 怒声とともにドミニクは剣を振り上げ、飛び上がった。先制攻撃に魔獣は動揺しているのか、回避行動がとれていない。

「いっけぇぇぇっ!」

 鋭く振り下ろされたドミニクの剣が、魔獣の胸を強襲した。だが――。

 ガキンッ!

 金属と金属がぶつかったような嫌な音を立て、ドミニクの剣は大きくはじかれた。勢い余り、ドミニクは不自然な姿勢で落下、バランスを崩して地面に尻もちをついた。

「いけないっ!」

 アリツェが叫ぶや否や、大木の幹のように太い魔獣の右足が、起き上がろうとするドミニクへと襲い掛かった。

 アリツェは一瞬目をつむった。直後、ドシンッと大きな地響きが響き渡り、もうもうと土煙が待った。

 アリツェは恐る恐る目を見開いた。ドミニクは――無事だった。無傷でニヤリと笑っている。

「参ったな。いきなり『奥の手』を使ってしまったよ」

 魔獣の左側面に立ちながら、ドミニクは何度か肩を回す。どうやら踏まれる直前に、『時間停止』の技能才能を発動したようだ。ドミニクの無事に、アリツェはホッと胸をなでおろす。

「ドミニク、いけませんわ! まず魔獣が纏う霊素を剥がさねば、剣は通りません!」

 アリツェがドミニクに怒鳴ると、ドミニクは頭を掻きながら、「頭に血が上って、すっかり忘れていたよ」と、きまり悪そうに答えた。

 以後は、ドミニクも適切な距離を取りつつ魔獣を牽制し、立派に盾役を勤め始めた。ドミニクの背後では、クリスティーナが精霊術でうまいこと支援と回復を使い分けている。

 その周囲では、ラディムと使い魔たちが飛び回りつつのヒットアンドアウェイを繰り返し、ドミニク一人に注意が行き過ぎないようにうまくバランスを取っていた。

「ドミニクが前衛の盾役、回復とサポートにクリスティーナ。背後からお兄様とミアの遊撃。……いい感じで連携できていますわ」

 即席にしては、いい塩梅で連携が取れていた。戦況が安定し始めたのを見計らい、アリツェは手に持つ槍を頭上に大きく掲げた。

「わたくしは、魔獣の隙をついて、一発強力な奴を頭上に撃ち落としますわ!」

 アリツェは叫ぶと、ペスが背嚢からひょいと顔を出し、精霊術を発動した。

 霊素が上空に一気に拡散し、そこにルゥの風の精霊術も混じり始める。そのまま徐々に雲が沸き起こり、どんどん成長し始めた。

「初めて使いますが、うまくいきますように!」

 アリツェはちらりと天を見遣り、黒く、厚くかたまり始めた雨雲へ目を遣った。轟音とともに雲中に数条の光の筋を確認し、おもわず口角を上げる。準備は万端だ。

 アリツェは今度は地上へと視線を送り、ドミニクたちと魔獣との戦闘の様子を、ジッと注視した。あとはうまくタイミングを合わせるのみ。

「今ですわ!」

 魔獣が一瞬バランスを崩し、膝立ちになった瞬間をアリツェは逃さなかった。

「ドミニク、クリスティーナ、お兄様! いったん離れてくださいませ! 強力なのを撃ち落としますわ!」

 アリツェは怒声を放つと、頭上に掲げた槍の穂先を雷鳴とどろく黒雲へと向けた。

『ペス、いきますわ!』

『合点承知だワンッ!』

 ペスと呼吸を合わせ、アリツェは頭上へ槍を振りかぶった。と同時に、ペスの身体から一際強烈な霊素が放出され、雲塊へと直撃する。

 アリツェはちらりと上空を見遣ると、一気に構えた槍を振り下ろした。アリツェの槍の穂先の動きに沿って、一条の光の筋が地上へと走る。

 稲妻が一気に頭上から襲い掛かり、魔獣はなすすべもなく直撃を受けた。

 すさまじいまでの轟音と地響き、そして、魔獣の立てる悲鳴が、思わず耳を塞ぎたくなるほどの音圧で周囲に響き渡った。

 アリツェは眼下を鋭くにらみつける。霊素交じりの雷光で、魔獣の纏う霊素は打ち消されるはず……。

「これで魔獣の全身の霊素が剥がれたはずですわ! 仕上げは任せますわ!」

 アリツェは呆然と立ち尽くしているドミニクたちに叫び、ペスの精霊術を解いた。霊素消費が激しいため、雷雲を維持し続ければ飛行術が解けかねなかったからだ。

 ハッと我に返ったドミニクたちは、それぞれの得物を構えなおし、全員一斉に魔獣に襲い掛かった。

 魔獣は稲妻の直撃でしびれているのか、動きが非常に鈍い。今この瞬間が、最大の攻撃チャンスだった。

 ドミニクとラディムは長剣を、クリスティーナは短剣を手に持ち、突進していく。使い魔たちも霊素を纏った爪などで、ドミニクらの剣によってつけられた傷を集中的に狙い、引き裂いていった。

 アリツェはと言えば、何かがあった時にとっさの対応ができるよう、上空でホバリングしながら戦況を見守った。

 そのまま、ほぼ一方的な展開が続き、とうとう土煙とともに魔獣の巨体は地に崩れ落ちた。






 アリツェは飛行術を解き、横たわる魔獣の亡骸のすぐわきに降下した。

 稲妻によって茶色の毛皮は黒く焼け焦げており、周囲に肉の焼けたにおいが充満している。あちこちに深くつけられた切創からは、おびただしい量の血液が流れ出ていた。

「きつかった……」

 ラディムがぼそりと呟きながら、アリツェの傍に歩み寄ってきた。

「さすがに、霊素が空っぽですわ……」

 アリツェは横目でラディムに視線をくれつつ、大きく息を吐きだした。全身の疲労感に、立っているのもつらくなってきた。

「でもアリツェ、見事な稲妻だったわ。カレル――悠太君の術かしら?」

 背後からクリスティーナの声が聞こえた。

「えぇ……。特に意識はしていなかったのですが、あの場で急にひらめきましたの。間違いなく、悠太様のものですわ」

 アリツェは振り返ると、ゆっくりとうなずいた。

 精霊術を発動する際、アリツェは特に疑問も感じず、自然と身体が動いた。元々のアリツェ自身の精霊術の知識では、決して成しえない術だったので、悠太の意識が無意識に働いたのは確かなはずだ。

「そぅ……。今度、私にも教えてね」

 クリスティーナは微笑を浮かべ、小首をかしげた。

「もちろんですわ!」

 アリツェは胸を張り、左の拳でぽんっと胸元を叩いた。

「魔獣は倒せた。これでジュリヌ周辺の脅威も、ひとまずは去ったかな」

 ラディムは魔獣の遺骸の確認を終えると、ミアに火の精霊術を発動させた。これ程の巨体を、そのまま放置するわけにもいかない。死肉を求めて新たな魔獣がやってきても、都合が悪いからだ。

 バチバチと大きな音を立てながら、魔獣の肉体は燃やし尽くされていく。その様子を、ラディムはうつむきながら、無言で見つめていた。

「大司教捕縛はなりませんでしたが、民の脅威を一つ取り除けました。……落ち込んでばかりいてはいけませんわ、お兄様」

 撤退の決断以来、ラディムの表情に影が差す場面をアリツェは度々見かけた。口では何も言わないが、やはり心の奥底で、吹っ切れないものが残っているのだろう。

「あぁ、そうだな」

 ラディムは顔をアリツェに向け、苦笑を浮かべた。

「大丈夫、きっと奴らを捕まえられるさ。春になったら、また四人で探そう」

 そこにドミニクがやってきて、ラディムの肩をポンポンっと叩いた。

「……あぁ」

 ラディムは天を仰ぎ、ぼそりとつぶやいた。






 魔獣撃破後、霊素を使いつくしたアリツェたちは、一日回復に専念した。

 残された魔獣の骨にはわずかに霊素が残されていたため、何かに使えるのではとのドミニクの意見から、持ち帰ることになった。ひとまとめにしてひもでくくり、ラースの背に乗せた。

 十分に休息を取り、気力、体力、霊素を回復させたアリツェたちは、再び街道に沿ってジュリヌの村を目指した。以後はこれといって問題もなく、順調な行軍となった。

 秋の最も気候が良い季節なので、雨に降られることもなく、また、気温も暑すぎず寒すぎず、非常に過ごしやすい。作戦失敗の重荷さえなければ、ピクニック気分で楽しく語らいながら歩けるのにと、アリツェは残念に思った。

 それから数日、眼前に見覚えのある村の門が見えてきた。

「ようやく……、ジュリヌに戻ったな」

 ラディムはつぶやきながら、肩に乗るミアの頭を優しく撫でた。

「僅かひと月少々しか経過していないはずなのに、なんだか何か月も山にこもっていたような感覚ですわ」

 アリツェは視線を空へ向け、苦しかった山中行軍の様子を脳裏に浮かべた。不思議な感覚だった……。俗世から隔絶された地だったからだろうか。それとも、短期間で環境の激変が繰り返されたためだろうか。

「それだけ、毎日が濃かった証拠よ。……あまりうれしくない濃さだったけれど」

 クリスティーナはアリツェの脇に立ち、苦笑を浮かべた。

 確かに、来る日も来る日も、新たな難題の解決のために頭を捻り続けた。アリツェにも、濃密な時間を過ごした実感はある。

「まったくだね。すぐにもう一回エウロペ山脈に行けって言われても、さすがのボクも躊躇するよ」

 ドミニクは肩をすくめながら、頭を振った。

 アリツェも思う。あの苦しい行軍をもう一度繰り返すには、相当の覚悟が必要だと。






 ジュリヌの村の拠点に戻ったアリツェたちは、長旅の疲れと汚れを一気に落としにかかった。今後の方針を話し合う前に、気分を一新させる必要がある。

 ラディムの計らいで、すぐさま湯が用意され、順番に入浴と相成った。新たな気持ちで前に進むためにも、胸の奥にこびりついた負の感情は、湯とともに一気に洗い流すべきだとアリツェは思う。

 クリスティーナの次に浴場に入ったアリツェは、少し狭めの浴槽に静かに身を沈め、全身の凝りをもみほぐした。体力に自信があるとはいえ、経験のない登山はさすがに十四歳の肉体には堪えた。あちこち硬くなった筋肉を、温めながらゆっくりほぐす。

「はぁー……。極楽ですわ」

 アリツェは両手を組んで伸びをした。ちらりと天窓に目線をやれば、隙間からかすかに星空が見えた。

「大司教一派も、今頃はこの星空を見上げているのでしょうか……」

 彼奴等の悪意のこもった眼で、この素敵に瞬く満天の星空を、決して見上げてほしくはない。アリツェの愚かな願いであろうか……。

「あぁ、このまま地を明るく照らす月となり、天高くから大司教の行方を追うことができさえすれば、いかほどにわたくしの心は軽くなるでしょうか……」

 アリツェは叶わぬ願いをつぶやき、伸ばした手をゆっくりと湯の中へ戻した。

 夢見心地の中、しばし目を閉じ、じんわりと身体に沁み込む湯の熱を全身に感じ取った。






 湯から上がると、アリツェは与えられた自室に戻り、身づくろいをはじめた。全員の入浴後、簡単な夕食を取り、今後の話し合いをする予定だった。

「湯もいただき、どうにか落ち着きましたわ」

 アリツェは鏡の前に座り、丁寧に髪へ櫛を入れた。薄汚れ、くすんでいた金髪も、すっかり元の艶を取り戻していた。

 アリツェは改めて、目の前に映る自身の姿を凝視した。目の下にわずかに差すクマも、安全なこの拠点の部屋でしばらくゆっくりと眠れば、きれいに解消するはずだ。偏った栄養による吹き出物も、アリツェの若さならほどなくして消えるはず。

「こうして自らの顔を見ても、今回の旅がいかに厳しいものだったかがわかりますわ」

 普段の生活であれば、ショートスリーパーのアリツェが目の下にクマを作ることはまずない。栄養にも気を配っているので、吹き出物などもできはしない。その現れるはずのないしるしが、今目の前のアリツェの顔にはあった。

 しばらく鏡を注視していると、廊下からドミニクの声が聞こえた。どうやら食事の準備ができたようだ。アリツェは返事をし、すぐさま部屋を発った。






 夕食後、今後を確認し合う会議が開催された。

 テーブルにはアリツェ、ドミニク、ラディム、クリスティーナが座る。使い魔はラースを除き、傍の床に腹ばいに横たわっていた。さすがに仔馬のラースは建物の中には入れないので、外の馬小屋にいる。

 テーブルの中央に置かれた照明の火が、わずかに揺らめきながら周囲を照らす。アリツェはちらりと全員の表情を窺ったが、どうやら湯と食事のおかげで、皆血色もよく、沈んだ様子は見られなかった。

「さて、今後の方針だけれど……。どうするの、ラディム様?」

 クリスティーナが口火を開き、ラディムに問うた。

「とりあえずは皆、各国へ戻り、然るべき人物へ報告だな」

 ラディムは顎に手を当てながら答えた。

 それぞれ、今回の行軍に当たって許可を求めた人物がいる。まずはその人物への報告が、当然の筋だろう。

 アリツェとドミニクはフェイシア国王に、ラディムはムシュカ侯爵に、そして、クリスティーナはヤゲル国王に、と。

「ま、そうよね。特にあなたたちって、条件を付されての派遣だったんでしょ?」

 ぐるりと全員を見遣りながら、クリスティーナは口にした。

 アリツェはドミニクとともに首肯した。

 付された条件――本格的な冬を迎える前に、結果いかんにかかわらず下山をすること。この条件は、今回きちんと守り通した。道中の経緯も含め、しっかりと報告をし、条件を破らなかったことをきちんと示す必要がある。ここで信頼を失えば、次はもうないだろうから。

「その後についてだが……。冬場は動けない。それに、その間に大司教たちがエウロペ山を脱し、協力者の元へ逃げ落ちる可能性もある」

 ラディムはため息交じりに言葉を紡ぐ。

「当面は情報収集。そう言いたいのかな?」

 ドミニクは腕組みをしながら、ラディムに視線を向けた。

「情報を集めつつ、それぞれの立場で、内政にでも精を出すべきだと考えた。まずは、足元をしっかりと固めなければならないしな」

 ラディムは首肯した。

「それがいいと思うわ。私は領主じゃないから、その辺良くはわからないけれど、ラディム様もアリツェも、そしてドミニク様も、しばらくは自分の領地をよくすることも考えないとね」

 クリスティーナは大仰にうなずき、にこりと笑った。

「トップ不在の状態が続くのも、領民に不安を抱かせかねないしな。戦争があった直後だけに、地に足をつけて内政に取り組むべき時期だ」

 ラディムはテーブルに置いた手を、ぎゅっと固く握りしめる。

「大司教一派については、ある程度自由に動ける私が主体で探すわ。任せて頂戴」

 クリスティーナは胸を叩きながら、力強く宣言した。

「すみませんわ。クリスティーナに押し付けるようで……」

 クリスティーナに悪いと思い、アリツェは謝罪の弁を述べた。

「気にしちゃだめよ、アリツェ。いつも言っているけれど、適材適所。これは私がやるべき案件よ」

 クリスティーナはケラケラと笑い飛ばす。

「じゃ、方針は決まったな。私とアリツェは腕輪でこまめに連絡を取り合おう。クリスティーナについては、悪いがアリツェのルゥをどうにか活用して、密に連携を取ってくれ」

 ラディムは、アリツェとクリスティーナに交互に視線を遣りながら言った。

「新たな腕輪が見つからない以上、致し方ないわね」

「ルゥには負担を掛けますが、報告や連絡は大切ですものね」

 クリスティーナとアリツェはお互いの顔を見て、うなずきあった。

「今回は不本意な結果に終わったが、まだ大司教捕縛をあきらめたわけではない。みな、これからも頼むぞ!」

 ラディムの言葉に、アリツェ以下全員が首肯した。






 中央大陸歴八一四年十一月――。

 アリツェたちは大司教を取り逃がした。

 だが、決してあきらめてはいない。あきらめるわけにはいかない。

 大司教一派は、帝国国民と皇帝一家を不幸に陥れた元凶だ。このまま捨て置いては、亡くなった者たちに申し訳が立たない。

 どこへ逃げようとも、必ず、必ず、追い詰める。

 アリツェは固く、心に誓った……。
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