上 下
222 / 272
第二十章 大司教を追って

4-2 ここに大司教が?~後編~

しおりを挟む
 日が暮れるころ、探索に当たらせていた使い魔たちが戻ってきた。だいぶ疲れの見える使い魔たちに、アリツェたちは存分の労いの言葉をかける。

 それぞれの使い魔から一通りの報告を受けたアリツェたちは、焚火の傍に集まって情報を整理した。その間に、ドミニクとクリスティーナの作ったご馳走を、使い魔たちは我を忘れて貪り食べていた。

「ミアたちに再度探ってもらった成果、どうやらあったな」

 ラディムは横目でちらりとミアに視線を向けた。ミアも気づいたのか、元気よく「にゃー」と鳴き声を上げる。

「えぇ、まだまだ十分とは言えませんが、ある程度は絞り込めました」

 使い魔たちの報告を取りまとめたところ、特に怪しい場所を五か所程度まで絞り込めた。大小百以上はあるかと思われる横穴の中から、ここまで絞り込めれば上出来だろうとアリツェは思う。

「どうする? この中でも特に怪しそうなところから、順繰りに探索するって感じかしら?」

 クリスティーナは地面に描かれたしるしを、順々に指さした。

 指し示す地面には、クリスティーナによって描かれたこの周辺の地図がある。使い魔から報告に上がった怪しい穴の位置には、しるしもつけてあった。このしるしは、怪しさの度合いにより、大きさが変えられている。

 クリスティーナの意見では、このしるしのうち大きいものから順に、全員で探索をしていくというものだった。

「臭いところからの捜索はもちろん、当然だ。ただ、承知のとおり時間がない。全員でまとまって行動するのはダメだな」

 ラディムは頭を振った。

「四人ばらばらでってこと?」

「まぁ、そういうことだ。幸いドミニクも、使い魔とコミュニケーションが取れるようになったみたいだしな。何かがあれば、使い魔経由で全員にすぐ連絡が取れるだろう」

 クリスティーナの確認の言葉に、ラディムはうなずいた。

「少々危険ではありますが、今は、ある程度のリスクを負わねばならない局面でもありますわ。お兄様の言うとおり、各人バラバラに、それぞれ使い魔を連れて探索をいたしましょう」

 怪しい横穴は五か所。四人バラバラに行動をすれば、一度に四か所を潰せる。だいぶ時間が節約できそうだった。

「ドミニク様にはどの使い魔をつけるの? 関係性を考えれば、アリツェのペスかルゥだと思うけれど」

 食事を終えてアリツェの傍に寄り添ってきたペスとルゥに、クリスティーナはちらりと目線をくれた。

「今回は広範囲に散らばりますし、ルゥには上空から監視をしてもらいつつ、各人間の調整役を務めてもらいたいと思っておりますわ」

 アリツェは自身の考えを口にした。

 バラバラに行動をする以上、何かがあった時のためにすぐ駆け付けられるよう、連絡役の用意は必須だと思えたからだ。であるならば、その連絡役は、空を飛べ機動力のあるルゥが適任だ。

 確かに、四六時中アリツェと行動を共にしているドミニクにとっては、アリツェの使い魔ペスとルゥが最も相性の良い、ふさわしい相手と言える。その点は、クリスティーナの言うとおりだった。

 だが、今は腕輪のおかげで、直接言葉で意思疎通が図れる。ラディムやクリスティーナの使い魔とでも、ドミニクはうまくやっていけるとアリツェは踏んでいた。そう思っての、ルゥの調整役への推挙だ。

「ってことは、使い魔三匹の私から、ドミニク様に提供したほうがよさそうね」

 クリスティーナは納得がいったのか、うなずきながら自身の使い魔のイェチュカ、ドチュカ、トゥチュカを傍に呼び寄せる。三匹の子猫は嬉しげに鳴き、クリスティーナの膝へめいめい飛び乗った。

「悪いね、クリスティーナ様」

 ドミニクは礼を述べると、すっと立ち上がった。そのままクリスティーナの脇まで移動し、再び座り込む。

「かまいませんわ。この子たちは皆、優しく素直です。ドミニク様の指示にも、しっかりと従うと思うわ。……ただ、ドミニク様は、あくまで精霊使いとしては未熟。少々不安ね」

 クリスティーナは膝に乗る子猫たちの頭を撫でつつ、横目でドミニクの姿に目を遣った。

「大丈夫、無茶はしないさ。それに、ボクには剣の技術と、『奥の手』がある」

 ドミニクは腰に下げた剣の柄を軽く叩き、「ボクにはボクの強みがあるんだから」と、クリスティーナの懸念を笑い飛ばした。

「その『奥の手』が何なのかを、私は知らないから不安なのよね。まぁ、アリツェもその点に関しては信を置いているみたいだし、あえては聞かないわ」

 クリスティーナは苦笑しつつ、子猫の内の一匹、トゥチュカに何やら話しかけている。どうやら、トゥチュカをドミニクに付けることにしたらしい。

 トゥチュカは「にゃーん」と答えると、クリスティーナの膝から飛び降り、ドミニクの膝に飛び乗った。ドミニクは相好を崩し、トゥチュカの頭を優しく撫ではじめた。

「じゃ、方針は決定だな。アリツェとドミニクは、同行する使い魔が一匹ずつになるので、特に慎重に行動を頼む」

 ルゥを調整役にするため、アリツェに従うのはペスのみだ。その点をラディムは心配しているようだった。

「あぶないと思ったら、すぐに私たちに救援連絡を寄こしなさいね」

「もちろんですわ!」

 心配ご無用とばかりに、アリツェは声高に答えた。






 探索を始めて数日が経った。各々の横穴はそれなりに深く、複雑であったので、慎重に慎重を重ねて調査をした。そのため、思いのほか時間を取られていた。

 一つの横穴だけでこれだけの日数がかかるのであれば、もし、使い魔たちによって候補の横穴を減らしていなかったら、収拾のつかない事態になっていただろう。また、四人で並行してバラバラの横穴を調査していなければ、この絞り込んだ横穴ですら、すべてを調査しきれなかったかもしれない。

 最初に割り当てられた四か所の穴は、結局何もなかった。人が潜んでいた気配も、残念ながら見つけられなかった。アリツェたちは一旦外に集まり、今度は全員で、残された最後の穴へと踏み込んだ。

 この最後の穴は、候補だった五か所の横穴の中でも最大のものだった。四人がかりにもかかわらず、最初の穴の探索同様、最深部まで達するのに数日を要した。

 全員協力しながら、慎重に一歩一歩歩を進め、アリツェたちはとうとう、最後の穴の最奥、少し広がった空間へとやってきた。だが――。

「なんてこった……」

 ラディムは頭を抱えた。

「まさか、すべてハズレとはねぇ」

 ドミニクもうんざりとした様子で頭を振り、手に持っていた剣を鞘に収めなおした。鞘に収まった際のチンッという音が、空洞内にひときわ大きく、むなしく響き渡る。

 アリツェは用心深く、周囲の様子を窺った。

 柔らかい凝灰岩が削られてできた洞穴なので、上を見上げても鍾乳洞のような岩石のつららは見えない。当然、地面から突き出る石筍もないので、非常にのっぺりとした空間だった。壁には苔が張り付き、アリツェたちの放つ光源の光を反射し、わずかに光り輝いていた。

 時折、入り口側から吹きつける風が、石の裂け目を通っていき、ヒューッと音を立てた。動物の気配も感じられず、風切り音以外は静寂に包まれている。アリツェは地面に手を触れ、堆積した粉塵を確認した。湿り気はなく、乾いている。足跡らしきものは、まったく見当たらない。

 アリツェはペスにも指示を出し、人の臭いはないかを探らせた。だが、結果としては、まったくの不発だった。ラディムたちも同様のようだ。皆一様に、沈んだ表情を浮かべている。

 結局、使い魔たちの感じた人間の臭いは、横穴の入口に少しだけ残されていただけだった。こうなると、残されていた臭いも、大司教一派の罠だったとすら思えてくる。

「どういたしましょう、お兄様。そろそろ時間が……」

 ラディムに視線をくれ、アリツェは弱々しい声でつぶやいた。

 焦燥感が、アリツェの薄い胸をじくじくと突き刺す。締め付ける胸の痛みに耐えようと、アリツェは胸の前で両手をぎゅっと握りしめた。

「わかっている! ……わかってはいるのだが、いったいどうすれば」

 ラディムはラディムで、悩み、苦痛を感じているのだろう。アリツェたちに背を向け、ブツブツと何やらつぶやいていた。拳を固く締め、小刻みに震わせている。

「人の臭いが残された横穴は、もうこの周辺には見当たらないとペスが言っております。ここから他のくぼ地へ移動したのでしょうか」

「可能性はある。冬が来るまでは、とにかく一か所にとどまらず、探り当てられないように移動を続けている。そう考えられなくもない」

 ラディムは振り向くと、アリツェの考えに賛同を示した。

 知覚に優れた使い魔に探られないよう、大司教一派は慎重に行動をしているのかもしれない。ラディムの見立ては、もっともなようにアリツェにも思えた。

「だとすると、もう無理かもしれないね。平地とは違って、こう登り降りの激しい地形だと、大司教一派とボクたちとで、移動の速度もそう変わらないと思う。いつまでたっても追いつけないよ」

 ドミニクはあたりを行ったり来たりとうろうろしながら、大げさにため息をついた。

 確かに、このまま追いかけっこを続けたところで、行軍速度に差がなければいつまでたっても距離を縮められない。徒労に終わるだけだった。

「ああん! まったくもう、腹が立つったらないわね!」

 クリスティーナは地団太を踏み、大声で吐き捨てた。クリスティーナの足踏みとともに、地面からもわっと堆積された粉塵が立ち上る。

 粉塵はそのまま周囲を漂い、アリツェの鼻に襲い掛かる。アリツェは不用意にもその粉塵を吸い込んでしまい、せき込み、むせかえった。恨めし気にクリスティーナを睨むと、クリスティーナは「ごめんっ」と口にし、両手を合わせて謝った。

「……もう、どうしようもないのでしょうか」

 アリツェは布で口元をぬぐいながら、沈んだ声でつぶやいた。

「とにかく一度落ち着いて、もう一度今後の方針について話し合おう」

 ラディムはぐるりと、アリツェたちに視線をくれた。

 今はアリツェを含め、皆が動揺を隠せないでいた。確かに一度、冷静になるべきかもしれない。

 ラディムの指示に従い、アリツェたちは一旦横穴を出て、キャンプを設営することにした。

 温かい食事をとり、気分を落ち着かせたうえで、今後の方針を慎重に定める必要がある。

 タイムリミットは刻一刻と迫っていた。だが、あちこちに張り巡らされている大司教一派の罠を思えば、慎重さを欠くわけにもいかない。

「妙案が浮かべばいいのですが……」

 先の見えない現状に、アリツェの胸はますます締め付けられ、苦しくなった。

 本当に、アリツェたちは大司教一派を捕縛できるのであろうか。失いつつある自信とともに、アリツェの内にこもっていたはずの熱意も、急速に冷え込んでいった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...