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第十五章 再会

7 かつての疑問を院長先生にぶつけましたわ

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 精霊教徒帰還の宴の翌日、トマーシュから新しい孤児院をぜひ見てほしいと言われ、アリツェはドミニク、ラディムを伴い孤児院へ足を運んだ。

 孤児院に着くや、子供たちが殺到しアリツェに飛びついてきた。もみくちゃにされるが、決して嫌ではない。かつての孤児院時代を思い出し、アリツェは懐かしさでいっぱいになる。

 ドミニクが隣で大人げなく「アリツェに抱き着いていいのはボクだけだぞ!」と吠えているが、アリツェは聞かなかったことにした。

 子供たちが落ち着いてアリツェから離れると、孤児院の入口からトマーシュが現れ、ゆっくりと歩いてきた。軽く抱擁し挨拶を交わした後、アリツェはトマーシュの誘導のもとに、孤児院内の談話室へと案内された。

 談話室に備え付けらえたソファーに腰を掛け、アリツェはいい機会だと思い、トマーシュに前々から聞いてみたかった件を尋ねてみた。

「そういえば院長先生、わたくし前から疑問に思っていた点があるのですわ」

 トマーシュは何だろうとばかりに首をかしげる。

「かつて、わたくしを初めて見た瞬間に、霊素があると見抜きましたわよね。いったいどういった理由だったのでしょうか」

 三年前、初めてアリツェがエマに伴われて孤児院を訪ねた時、トマーシュはアリツェを一目見て、すぐに霊素持ちだと看破した。通常、霊素を持たない人間には、相手の霊素を感じる能力がない。可能性があるとすれば、『ステータス表示』の技能才能を持つか、何らかの特殊なアイテムを使って判別するか、といったところだ。

「あぁ、なるほど。確かに不思議に思うよね」

 トマーシュは首肯する。

「実は、これなんだ」

 トマーシュは腕を持ち上げ、アリツェに見せた。手首には複雑な意匠が彫り込まれた、銀に輝く美しい腕輪がはめられていた。ぼんやりと鈍く光を発しており、目を惹かれる。

「ちょっ、おい、これは!?」

 トマーシュの腕輪を見るや、ラディムが目をむいて素っ頓狂な声を上げた。

「お兄様、どういたしましたの?」

 ラディムの豹変に、アリツェは訝しんだ。

 確かに不思議な腕輪に見えるが、マジックアイテムを見慣れたラディムが驚くような要素が、果たしてあるだろうか。

「ザハリアーシュが持っていた『生命力』測定用の腕輪と、まったく同じものじゃないか! なぜ院長がこれを?」

 ラディムはトマーシュに詰め寄る。

「おや、ザハリアーシュとはもしかして、ザハリアーシュ・ネシュポルでしょうか?」

「そうだが、知り合いなのか? 精霊教の関係者が、世界再生教の司教であるザハリアーシュを?」

 怪訝な表情を浮かべながら、ラディムはトマーシュを見据えた。

 アリツェも意外に思い、トマーシュの顔を覗き込んだ。トマーシュとザハリアーシュの接点が、まったく分からなかった。

「私、精霊教が組織されるまで、世界再生教に所属しておりましたから」

 さも大したことのない話だとばかりに、トマーシュはあっけらかんと答えた。

「あ、そんな驚いた顔をしないでください。結構いますよ、そういった経歴の精霊教徒は」

 アリツェとラディムが返す言葉もなく無言でいると、トマーシュは慌てたように弁明した。

「……冷静に考えてみれば、元々世界的な宗教は世界再生教だけで、精霊教はここ十年ばかりの新興宗教だったな」

 ラディムの言うとおり、精霊教はこの世界に霊素が実装された十三年前に、初めて組織された新興宗教だ。なので、トマーシュのような年配者が精霊教誕生前に、別の宗教を信仰していたとしても、別におかしな点はないだろう。

 そもそもの話、最初から精霊教と世界再生教が対立していたわけでもない。その当時に改宗をした者が多いのだろう。

「えぇ、ですので宗旨替えで精霊教徒になった者は多いんです。世界再生教は非常に歴史のある宗教だけあって、なんだかんだで末端には不正も多く見受けられましたからね。現実を知って絶望した人間もそれなりに……」

 トマーシュは頭を掻きながら、「私もそういった絶望を感じた者の一人でした」と呟いた。

「では、その当時にザハリアーシュと知り合ったってところか」
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