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第八章 皇帝親征

14 精霊王のメダルの謎とは……

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「このメダルか? 母上からいただいたもので、私のおじいさま、つまり先帝が若いころに、帝国領のはずれにある古代遺跡から見つけてきたものらしい」

 ラディムは黄金色に輝く龍の意匠が刻まれたメダルを手に取り、じいっと見つめた。

「そして、このメダルとまったく同じものを、私の実父カレル・プリンツ前辺境伯も持っていたそうだ」

(なんですって……)

 優里菜は絶句した。

(そのメダル……『精霊王の証』っていうんだけれど、私も転生前に持っていたの。VRMMO『精霊たちの憂鬱』の、精霊王撃破ボーナスアイテムとして)

 戸惑いがちに優里菜は告げる

「どういうことだ? 同じメダルを私の両親であるカレル・プリンツ前辺境伯とユリナ・ギーゼブレヒト、そして、別の世界とはいえ、ユリナ・カタクラも持っていた」

(私だけじゃない。私の冒険仲間のカレル・プリンツも持っていた。一緒に精霊王を倒したからね)

 システム上の父であるカレル・プリンツまで持っていた。

「四人か……」

 まったく同じ意匠のメダルを、この世界でのラディムの両親であるカレル前辺境伯、ユリナ・ギーゼブレヒト、システム上の両親である精霊使いのカレル・プリンツ、ユリナ・カタクラ、以上の四人が持っていた。この事実が意味するところは、いったい……。

(うーーーん、これって、偶然? でも、偶然にしてはできすぎてるよね……)

 優里菜はうなり声をあげる。

(もしかして……)

「どうした?」

 何やら思いついた様子の優里菜に、ラディムは尋ねた。

(このメダルが転生のためのキーアイテムになっていたんじゃないかなって)

「可能性がないわけではないな。このメダルが転生元と転生先をつなぐカギとなっているって考えは、あながち間違っていないのかもしれない」

 改めて優里菜の記憶にある情報を整理し、ラディムは優里菜とお互いの考えをすり合わせる。

 二つの世界にまったく同じデザインの金のメダル『精霊王の証』が存在していた。しかも、持ち主はいずれもラディムの両親に当たる人物だ。転生に際し、何らかの関係があったとしても不思議ではない気がする。

 それに、ヴァーツラフも言っていた。VRMMO『精霊たちの憂鬱』とこの世界は、基本のシステムが同じだと。だからこそ、ラディムのシステム上、遺伝上の両親が、この世界の両親であるカレル・プリンツ前辺境伯とユリナ・ギーゼブレヒト皇女ではなく、別世界のゲームキャラクターである精霊使いのカレル・プリンツ、槍士のユリナ・カタクラになりえたのだ。

 同一のシステムを利用しているのであれば、両世界にまったく同じアイテムが存在し、それが両世界を橋渡しする転生のキーアイテムになっていたとしてもおかしくはない。

 ヴァーツラフ側がテストプレイヤーを募集するときに、条件としてゲーム内で何らかの『強者の証明』を手に入れることを挙げていた。そして、おそらくはその『強者の証明』に対応するアイテムが、この世界にもある。

 つまり、『精霊王の証』のような『強者の証明』なるアイテムを通じて、『精霊たちの憂鬱』の世界とこの『新・精霊たちの憂鬱』の世界とをつないでいると、ラディムと優里菜は推測した。

「おそらくは悠太も、転生先の素体の父親としてカレル・プリンツを選択しているはずだ。で、転生先へ記憶を送る段階で、同じメダルを持つ男をこの世界での父と認識した。たまたまそれが、同姓同名のカレル・プリンツ辺境伯だったのは、何の因果かわからないけれどな」

 メダルが転生元と転生先を紐づけする役割を担っている。納得できる推論だと思う。

「そして同時に、優里菜も転生先への記憶送致の際に、メダルを持つ者を条件として、この世界の父母が選ばれた。カレル・プリンツ前辺境伯とユリナ・ギーゼブレヒト皇女のどちらのメダルに紐づけされたかはわからないがな。まぁ、二人が二人とも、同じ人物のメダルに紐づけされるのもおかしいとは思うので、おそらく優里菜はユリナ・ギーゼブレヒトのメダルに紐づけされたと私は思う」

 とにかく思いついたことをラディムは吐き出した。口に出したほうが、頭の中が整理できるからだ。

「ただ、いずれにせよ、このメダルを持った人間を親に持つ子供は、現状では私ただ一人。だから、二人の転生者の記憶は、私の中に一緒に入り込まざるを得なかった」

 ラディムはどうだと言わんばかりに優里菜を見つめた。

(なるほどね……)

 優里菜は腕を組み、考え込んでいる。

「これは、もっと辺境伯家について調査した方がいいかもしれないな。私の出生に、まだ何か秘密があるような気がする」

 優里菜と悠太の人格が入り込んだラディム。その出生時の様子は果たしてどうだったのだろうか。また、母が妊娠中の様子はどうだったか。確か一回、流産しかけたと聞いたが、もしかしたら、その流産がきっかけで悠太の人格に影響が出た可能性もある。

 調べたい問題が山積みだった。

(でもどうするの? このままだと戦争だから、辺境伯家に潜り込むなんてできないよ?)

 帝国軍と辺境伯軍が対峙している間に、領都オーミュッツ内に侵入する。……確かに厳しそうだ。だが――。

「幸いにも私は軍に所属していないし、自由に動ける。夜中に魔術を駆使して、領館に潜り込んでみるよ」

 夜中、両軍が兵を引いている隙に入り込めばいい。そのための魔術だ。

(大丈夫かなぁ……)

 優里菜は不安げな声を上げる。

『それならあたいにお任せにゃ!』

 不意に脳裏に甲高い声が鳴り響いた。
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