49 / 272
第五章 帝国の皇子
11 事後処理、そして決意
しおりを挟む
「彼らは……、いったいどうなるのです?」
地下牢で取り調べを受けるのはわかるが、その後の信者たちの行く末がどうなるのか気になった。
「このまま入れ墨を入れられ、まとめて東の国境に捨て置かれる。実質は、フェイシア王国への追放だな」
さすがに命までは奪わないのか。精霊教が禁教化されていないフェイシア王国へ行けるようにとの、温情措置ともとれる。
「少し、甘いのかもしれないな。見せしめに皆殺しにするべきなのかもしれない。だが、さすがにそこまですれば、フェイシア王国以外の精霊教を受け入れている国との関係も、一気に悪化しかねない。大国フェイシアと対峙しつつその他の国とも戦う余裕は、今の帝国にはない。政治の難しいところだな」
ベルナルドの優しさ、というわけでもなかった。外交関係を見据えての処置のようだ。
徹底的に処断をしたい。だが、対外関係を考えればそこまでするのもうまくない。両者のバランスを見た結果、追放という結論に達したのだろう。
ただ、一つ懸念があった。追放された彼らが、帝国に対する恨みでどのような行動をとるかがわからない点だ。積極的に王国内の精霊教会と連携を取って、帝国に害をなす可能性も無きにしも非ずだ。帝国全土から追放される精霊教徒の総数は、果たしてどれほどの数になるだろうか。将来に禍根を残さないことを、ラディムは祈った。
「あとは、一部の暴力行為に走った者については、かわいそうだが……」
頭を振るベルナルド。つまり、死刑ということか。
「そうですか……」
徹底的な処遇が必要だとはいえ、ラディムの心は少し重い。
「今回の作戦で、ミュニホフ内の精霊教は一掃された。同じ作戦が帝国内各地で同時進行されている。一月もすれば、この帝国から精霊教は完全に排除されるだろう」
重苦しい雰囲気を払うように、少し誇らしげにベルナルドは語る。
「これで、帝国の安寧は守られるのですね?」
「そうだ。ただ、帝国外の精霊教もどうにかしなければ、いずれ世界は崩壊するだろう」
ベルナルドは頷いた。ただ、その表情は少し硬くなる。
「はい……」
『世界は崩壊する』と聞き、ラディムも顔が引き締まる。
まだまだ、これで終わりではないのだ。事は帝国内にとどまらない。世界的な問題だった。
「我が帝国は、世界の崩壊を防ぐためにも、この大陸から精霊教を消し去らなければならない。場合によっては武力に訴えてでもだ。今後、他国に干渉をする必要も出よう」
ベルナルドは少し間を置くと、ラディムの肩をつかみ、鋭く見据えた。
「ラディム、お前もいずれ、戦場に立つかもしれない。心しておくように」
「はい、陛下……」
戦場に立つ……。皇家の人間であれば、避けては通れない道。しかも、ラディムは数少ない『生命力』持ち。戦いに引っ張り出されないわけがなかった。
初陣がいつになるかはわからない。だが、このタイミングでベルナルドはラディムに告げた。意味するところは、おそらく――。
(帝国外の精霊教掃討作戦……。おそらくは、プリンツ辺境伯領への侵攻、か。そこが、私の初陣になるのだろうな)
改めて覚悟を決めなければならない時が、もうすぐ来る。ラディムはそう直感した。
ベルナルドの言葉通り、一月後、帝国政府から精霊教が一掃されたとの宣言が出された。
帝国による精霊教徒の追放処置は、フェイシア王国を大いに刺激した。受け入れる側に立つプリンツ辺境伯領が、いくら精霊教を篤く信奉している地域だとはいえ、いきなり数千人規模の難民が押しかけてくれば混乱は必至だったからだ。
辺境伯家はフェイシア王家を通じて正式に帝国へ抗議を出したが、ベルナルドは無視を決め込んだ。間違いなくベルナルドはプリンツ辺境伯領へ侵攻するつもりだと、この時ラディムは確信した。
地下牢で取り調べを受けるのはわかるが、その後の信者たちの行く末がどうなるのか気になった。
「このまま入れ墨を入れられ、まとめて東の国境に捨て置かれる。実質は、フェイシア王国への追放だな」
さすがに命までは奪わないのか。精霊教が禁教化されていないフェイシア王国へ行けるようにとの、温情措置ともとれる。
「少し、甘いのかもしれないな。見せしめに皆殺しにするべきなのかもしれない。だが、さすがにそこまですれば、フェイシア王国以外の精霊教を受け入れている国との関係も、一気に悪化しかねない。大国フェイシアと対峙しつつその他の国とも戦う余裕は、今の帝国にはない。政治の難しいところだな」
ベルナルドの優しさ、というわけでもなかった。外交関係を見据えての処置のようだ。
徹底的に処断をしたい。だが、対外関係を考えればそこまでするのもうまくない。両者のバランスを見た結果、追放という結論に達したのだろう。
ただ、一つ懸念があった。追放された彼らが、帝国に対する恨みでどのような行動をとるかがわからない点だ。積極的に王国内の精霊教会と連携を取って、帝国に害をなす可能性も無きにしも非ずだ。帝国全土から追放される精霊教徒の総数は、果たしてどれほどの数になるだろうか。将来に禍根を残さないことを、ラディムは祈った。
「あとは、一部の暴力行為に走った者については、かわいそうだが……」
頭を振るベルナルド。つまり、死刑ということか。
「そうですか……」
徹底的な処遇が必要だとはいえ、ラディムの心は少し重い。
「今回の作戦で、ミュニホフ内の精霊教は一掃された。同じ作戦が帝国内各地で同時進行されている。一月もすれば、この帝国から精霊教は完全に排除されるだろう」
重苦しい雰囲気を払うように、少し誇らしげにベルナルドは語る。
「これで、帝国の安寧は守られるのですね?」
「そうだ。ただ、帝国外の精霊教もどうにかしなければ、いずれ世界は崩壊するだろう」
ベルナルドは頷いた。ただ、その表情は少し硬くなる。
「はい……」
『世界は崩壊する』と聞き、ラディムも顔が引き締まる。
まだまだ、これで終わりではないのだ。事は帝国内にとどまらない。世界的な問題だった。
「我が帝国は、世界の崩壊を防ぐためにも、この大陸から精霊教を消し去らなければならない。場合によっては武力に訴えてでもだ。今後、他国に干渉をする必要も出よう」
ベルナルドは少し間を置くと、ラディムの肩をつかみ、鋭く見据えた。
「ラディム、お前もいずれ、戦場に立つかもしれない。心しておくように」
「はい、陛下……」
戦場に立つ……。皇家の人間であれば、避けては通れない道。しかも、ラディムは数少ない『生命力』持ち。戦いに引っ張り出されないわけがなかった。
初陣がいつになるかはわからない。だが、このタイミングでベルナルドはラディムに告げた。意味するところは、おそらく――。
(帝国外の精霊教掃討作戦……。おそらくは、プリンツ辺境伯領への侵攻、か。そこが、私の初陣になるのだろうな)
改めて覚悟を決めなければならない時が、もうすぐ来る。ラディムはそう直感した。
ベルナルドの言葉通り、一月後、帝国政府から精霊教が一掃されたとの宣言が出された。
帝国による精霊教徒の追放処置は、フェイシア王国を大いに刺激した。受け入れる側に立つプリンツ辺境伯領が、いくら精霊教を篤く信奉している地域だとはいえ、いきなり数千人規模の難民が押しかけてくれば混乱は必至だったからだ。
辺境伯家はフェイシア王家を通じて正式に帝国へ抗議を出したが、ベルナルドは無視を決め込んだ。間違いなくベルナルドはプリンツ辺境伯領へ侵攻するつもりだと、この時ラディムは確信した。
0
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる