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 白い霞がかるところに私はいる。

 何時からここにいるかはわからない。
 ただ何かを考えようとすれば目に見えているだろう霞は私の身体へと纏わりつけば、次第に私は何を考えそして何をしようと思っている事さえどうでもよくなってしまうのです。

 ええ、この霞は私が息を吸って吐く事により私の身体の内部へと侵食……ああそれすら、ええ物事を考える行為そのものが酷く緩慢となり、私は身体と共に心をこの世界へ預けきっているのでしょう。
 頭の、心の奥の片隅で、考える事を辞めてはダメ……と言われるけれどもです。

 ここは本当に悩みもなく……ああ私に悩み等あったのでしょうか。
 ふふ、それすらどうでもよく――――?



『ベス、エリザベス……ああこれでようやく貴女は私の妻であり正妃となったのだよ』


 妻?
 正……妃?
 どなた……なのでしょう。
 一体何処から?

 何もわからず思い悩もうとした所へふにゅっと、私の唇へ温かくも柔らかなモノが押し当てられればです。
 ほんの少しずつではあるのですがこれまで私の身体へ纏いつけば私の身体の内部までも侵食していただろう白い霞が消えてゆくのです。

 それと同時に指一つでさえ動かしてみる事さえも億劫で仕方なかったのにです。
 何故かこれも少しずつですが纏いつくものが減ってきているのでしょうね。
 何やら身体そのものが軽くなってくるのです。
 またそれ以上に驚くべき事に言葉として発する事は出来ませんが、物事を考えられる……頭の中がクリアとなって――――⁉


「おかえり私の愛しいリズ。さあ式は終わったからね。お化粧を直してって貴女はそのままでも十分過ぎる程に可愛らしくまた今日この喜びの日は貴女以上に美しい女性は存在しないよ」
「――――っっ⁉」

 
 目の前……ええ頭の中がクリアとなって初めて、ええ余りの近さへ驚くと共に悲鳴を上げそうになりましたわっっ。

 いいえそれ以上にです。
 一体何故?
 どうして貴方は蕩ける様な満面の笑みを湛えれば、私をグイっと引き寄せると優しく抱き締めてくるのですか?
 あ、あの私は確か、そう確か貴方と……ええ、両陛下そして私の両親それから……。

「貴女を永遠に、それこそ誰よりも幸せにするよエリザベス。貴女以上に愛する存在はいない」

 そうしてあり得ない!!
 全くあり得ない事にそのまま私の唇へ殿下、貴方は自身のそれを重ねられたのです。
 
 バクバクと心臓が煩く打ち鳴らします。
 だってそうでしょう。
 私にとってこれはそう恋愛小説でいう所の……なのですもの!?
 
 
 でも、でも何故なのですか。
 何故貴方は婚約を破棄ないしは解消する令嬢である私へキスを……?

 その時でした。
 
「ご結婚おめでとう御座います!!」
「王太子殿下っ、王太子妃殿下バンザーイ!!」
「キャーエセル様っ、エリザベス妃殿下!!」
「お幸せに――――!!」

 口々に発せられる大勢の観客と言う名の民達が眼下に集まっているのが見えました。
 皆口々にお祝いの言葉を叫んでいます。
 最初は何の事か全くわかりませんでした。
 
 ええ何故なら皆思い思いに叫んでいるのですもの。
 また私の頭が幾らクリアになったからとは言えです。
 膨大な情報が一気に流れ込めばその処理なんて幾ら何でも直ぐには出来ないのですもの。
 
 ですが叫ぶメッセージの中で不可解なモノがありましたの。
 それは――――。

「エリザベス殿どうぞお幸せに――――っっ」

 何故私が妃殿下なのでしょう。
 確かにセジウィック公爵家の娘であり王太子である貴方の婚約者なのはわかります。
 でもそれもあと僅かな筈なのです?


 そこで初めて私は私の腰へと腕を回せば今までにないそれこそ一部の隙もなくぴったりとくっついておられる貴方の纏っておられる濃紺に金糸の刺繍が施された我が国の王太子だけが許された正装、また周囲を見回せばやはり正装姿の両陛下並びに私の両親と何故か満面の笑みを湛えられているのは確かリドゲート公爵閣下の隣には、激しい憎悪とも取れる瞳でギリギリと睨まれておいでになるキャサリン王女殿下も正装でした。

 ここに至り私は嫌な予感めいたものを感じつつも私自身一体何色の、そしてどの様なドレスを纏っているのかが知りたくなれば恐る恐る足元よりゆっくりと視線を這わせていき――――⁉
 
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