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「あははははは、ふふ、ククク……」

 俺が安心したと同時にリドゲート公爵は声を立てて笑い出した。
 それも部屋中に響き渡る程の大きな声で。
 俺は公爵よりも年下だが身分的には上位であり、決してこの様に不敬とも取れる笑いなんてされる立場ではない。
 然も公爵のそれは一般的な笑いではなくどちらかと言えば不快極まりのない


 また当然その様に嗤われれば俺の機嫌は急行直下で悪くもなる。
 時間にしてほんの一、二分もなかっただろうが嗤われている俺にしてみれば永遠に近いくらいの長さを感じてしまったのだ。

 しかし何故王太子である俺が抑々そもそも臣下である公爵に嗤われなければいけない。

 俺自身が暗愚であればそれも致し方がない。
 だが俺は嗤われる程の暗愚ではない心算つもりだ。
 確かに実の妹に俺の弱みとなる愛しい貴女の命を握られているとは言え、その妹の贄となり乞われるままに恋人ごっごからの肉体関係を持ってしまったのだ。

 あぁ確かにこの内容だけでも十分愚かと言えば愚かでしかない。
 でもだからと言って公爵には嗤われたくはない。
 そして一頻ひとしきり嗤ったであろう公爵は眦に涙を滲ませれば詫びを言うかと思えば全く正反対の事をのたまったのである。

「いやこれは失礼、しかしこれ程迄とは思いませんでしたな」
「何を言いたい」
「ふふ、殿下は狂女であるキャサリン王女よりもある意味人間臭いですな。いやいやそれはそれで大いに結構な事ですが――――忘れて貰っては困りますよ殿下」
「忘れるとは……?」

 忘れるも何も公爵と何か約束を交わした覚えはない。
 そしてこの様に私的な事を話すにしても今回が初めてなのだ。
 だからこそ俺は公爵の意図が分からなかった。

「まあ私も意地悪をして愉しむ趣味はないと言う訳ではないのですが、それはあくまでも私の趣味となる者だけのもの。それ以外は至ってノーマルですからね。いいでしょうお教え致しますよ。ですが全てを聞き終えれば貴方は多少壊れてしまうかもしれません」

 嫌な予感しかしなかった。
 しかし今聞かなければ後悔するだろうとも思ったのだ。
 俺の知らないところで、俺の了承もなしに話を決められるのは二度とごめんだ!!

 そう、父王である父が将来貴女の両親を始末する分は構わない。
 だが貴女までもその枠へ入れ、俺の許し無く命を奪う算段をしている父を許せなかったのだ。

 あの12歳の時に聞いた俺にとってある意味の死刑宣告に等しい言葉。
 もう二度と貴方を脅かす者より貴女を護りたいと我が身までもキャシーへ投げ出したのだっっ。

 貴女へ我が想いを示す事が出来るのは貴女だけしか存在しない我が心のみ。
 それしか今の俺にはないだろう。
 でもあとはこの肉体が朽ちようとも絶対に貴女と言う唯一の存在を護ってみせる!!

 その為にも公爵の話を冷静に聞くとしよう。
 そう必ずこの道は愛おしい貴女へと繋がっているのだから……。
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