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 俺達兄妹は定期的に母である王妃が催す茶会へと引き摺り出されている。

 目的は勿論未来の側近若しくは妃候補の選定。
 キャシーの場合は将来の嫁ぎ先若しくは降嫁した場合に備え社交界の人脈作りと言ったところか。

 まあそれは両親と少なくとも俺にとっての利害は一致している故に問題はない。
 ただ側近候補に関しては有意義なる時間かもしれないが、将来の妃候補と言う名目で集められた同じ年頃の令嬢の相手ははっきり言って面倒臭い。

 まだ当時10歳だった俺は貴女と出逢っていなかったからね。
 そう、貴女と出逢う前の俺の恋愛観と言うモノは存在しなかったのだよ。
 群がる令嬢の顔なんてカボチャかよくてサツマイモにしか見えなかったのだから……。

 
 そんな中で事件が最初に勃発したのは俺によく絡んできただろう公爵家の令嬢だった。
 傲岸不遜な性格で何時も周囲の令嬢達を見下していた。
 また出来得る事ならば俺自身絶対に関わり合いを持ちたくはないと願っていた相手。

 その件の令嬢がある日怪我をしたと一報が入ったのだ。
 普通は態々わざわざ王族へその様に細かな報告までは流石に上がってはこない。
 だがその令嬢の怪我が実に異常であったのだ。

 以前より催された茶会の席で令嬢は自身の瞳の色がこの国でも珍しい虹色だった事をよく自慢していた。
 何でもその昔精霊族の姫を花嫁として迎え入れたとかいないとか。
 性格はともあれ、俺もその瞳の色だけには少しだけ興味を持ったのだがしかしそれだけの事なのだ。

 
 ある夜の事だった。
 令嬢は寝る前に窓を見れば夜空に瞬く星々へと暫くの間魅入られたらしい。
 普段は決して日が落ちれば窓を開けなかったと言うのにだ。
 その夜に限って窓を開け、そうして満点の夜空を暫く見つめていたであろうほんの少しの刹那な時間。

「ぎゃあああああああああ⁉」

 然したる物音や何者かの気配すらもなかったと言う。
 ただ夜空を眺めた時に右目へ突如激しくも強烈な痛みに令嬢は屋敷中へ響く程の叫び声をあげれば、部屋へと駆け付けた者達は痛みの余りのた打ち回り右目には細くしなやかな矢でぐっさりと射抜かれれば、周囲は令嬢の流したもので血塗れになっていたと言う。

 右目を見た医師よりの報告で細くも硬い矢の様なものが令嬢の眼球を射抜いていたと言う。
 矢は取り除かれはしたものの右目は失明し、やがてそう遠くない将来左目も見え難くなるだろうと診断された。
 賊の類なのかと暫くの間は国中で捜索を大々的に行ったのだが結局何も手掛かりはなく、傷物となった令嬢は二度と王宮には伺候しないと言うのか数年後領内にある修道院へ入ったと報告を受けた。


「ふん、エセルへ執着するからよ。でも残念ね。これでもう珍しい瞳を見れなくなってしまったわ」
「キャシー、幾ら何でも不適切な言動は控えた方がいい。性格はどうであれ彼女は二度と眩い太陽を見上げる事は出来ないのだからな」

 この時の俺はそれは単なる不幸な事故としてしか認識をしてはいなかった。
 まさかそれが不幸な事故ではなく、仕組まれたものだと気づくまでにそう時間はかからなかった。
 
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