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第五章  忘れられし過去の記憶

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「ほぉこれが矢と言うものなのか。初めて、ふむふむこの先が尖って……確かに刺されば力の弱き物の殺傷能力が高い武器だの」

 妾は木に刺さっているだろう矢へそっと触れる。
 次の瞬間矢が木より押し出される形でゆるりと抜け出ていく。
 抜け出た矢を手に取り繁々とそれをじっくりと観察した。


 抑々神界には武器と呼ばれし原始的なものは存在しない。
 存在はしないが世界を育む故に知識は豊富にある。
 だがこの様に手に取って武器を見るのもましてや触るのも生まれて初めての体験に思わず感動してしまったのだが――――。

「やはり武器は好かぬ」

 ぽいっと握っていた矢を放り出せばそれはそのまま大地へと突き刺ささればだ。
 その場より新たな木の芽が芽生えていく。
 これこそが神である妾の力。

「おい!!」

 さて珍しいものを見終われば妾は当初の目的を遂行しなければならぬな。

「おい!!」

 妾は傍にある泉へと身体を屈め、手を伸ばし水底迄透き通る様に見えている清水を掬えば、ひり付いている喉をゆっくりと潤していく。

「ほぉ美味じゃ。これ程美味なるものはほんに初めてだ!!」

 基本神は生物とは違い、食なるものを摂る必要はない。
 何故なら食を必要――――。

「おい、先程から呼んでいるだろうが!! いい加減こっちを向け!!」

 ぐいっと力任せに腕を握られれば、そのまま反対側へと向きを変えさせられた。
 なんと無礼な奴。

「その様に喚かなくとも聞こえておるわ。そなたこそ妾に向かっておいおいと、それだけしか話せぬのかと思うておったのだが、どうやら普通に言葉を話せるのだな」

 感心感心。
 妾の創りし人間の言語機能に問題が生じておるのかと思ってしまったぞ。
 常に外側より見守っているとは申せ、生き物の話す内容までは感知しておらぬ。

 そこは妾とて生き物達のプライバシーと言うものを考慮しておる心算ゆえにの。

 妾も日々成長をしておる証でもある。
 ふふん。

 だが何故なのかこの人間の雄は何やら機嫌が悪そうだ。
 何か理由があるのかそれとも……。

「何処か具合でも悪いのか?」

 本来ならば世界の干渉は極力控えたい。
 したが今は武器なるものを初めて見たしな。
 泉の水が想像よりも美味であったのも大いにある。
 そして何よりこの雄に出会った故に妾は機嫌が良い。

「故に此度は特別に治して進ぜよう」

 妾はにこやかに話しておったと言うのにだ。

「お前は馬鹿か?」

 
 ガッシャ――――ン


「はて?」

 妾は鉄の棒が等間隔で並べられておる、おまけに窓もなく冷たい石造りの小さき部屋へと押し込められてしまった。
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