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第三章  別離

10  Sideジーク

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 そうして俺と魔の植物との戦いを見て、きっとエルなりに心配をしてくれたのだろう。

 正直に言えば俺を心配してくれる気持ちが非常に嬉しかった。
 エルの記憶の中で何時も存在をなかったかの様にされている側にしてみれば、譬えこの一瞬であろうともエルの心に俺と言う存在があるだけで本当に嬉しかった。

 だが気持ちは嬉しいけれどもその行動だけは譬えエルと言えど絶対に許せない!!

『に、逃げて、ジーク、様――――』

 幾ら靄を吸い込み思考が侵されていたとしてもだ。
 
 何故貴女はそう簡単に何時も自分の命を捨てるのだ!!

 また次に目覚めれば間違いなく俺の存在等少しも覚えてはいない癖に、どうして簡単に命を懸けられる!!

 俺は怒りの余り目頭がカァァァっと熱くなる。
 花の中へと引き摺られていく貴女を俺が黙って見送る訳なんてないだろう。
 

 その後の事は俺もかなり興奮し過ぎたのもあり、余り詳しくは覚えてはいない。
 華と立ち向かい何とかエルを花より引き離す事は出来た。
 そして俺は彼女の盾となり花と対峙したのだが、騎士団の中でも期待の星と持て囃されてはいるものの、まだまだ俺は新人で、剣の腕は未熟過ぎたのだ。
 
 思った通り戦況は思わしくない。
 得意の氷属性の魔法を放ちつつ、触手を凍らせその度に叩き割ろうともだ。
 直ぐに新しい触手が伸びて俺へと襲ってくる。
 向こうも俺と言う餌を前にして必死なのかもしれないが、俺自身は簡単に喰われる心算等毛頭ない。
 可能ならばこの森を覆う結界が解かれ、ライン殿下若しくは彼女の影達が来るまで何とかこの場を持ち堪えさせたい。

 それまでは剣を握る腕一本でもいい。
 少しでも長くエルへ触手が伸びない様にしなければいけないと思っていたのだが、時間は経てども応援がくる様子はまだみられない。
 その内俺の魔力どころか体力も底を突き、後数撃打ち込めれば御の字だ。

 この瞬間俺は自らの死を悟った。


 まぁ最期の瞬間まではしっかりと抵抗をさせては貰うが化け物よ。
 悪いが身体の大きな俺を喰って満足してくれ。
 人生最期の願いくらい聞いてくれてもいいだろう。
 
 だからその代わりにエルだけは絶対に喰うな!!

 俺は本心から喰われる心算で花へと切り込もうと、剣を構え立ち向かおうとした時だった。
 背後……そうエルのいる辺りから何か温かいものを感じたのだ。
 思わず新手なのかと思い振り返れば……。

「エル、ネスティーネ?」

 最初に感じたのは温かな陽光。
 中心で眩い光を放ちながらエルが両手を組み願う動作で静かに佇んでいた。
 次の瞬間その光は目を開けてはいられないくらいに輝きを放ち真っ直ぐに俺の方へ、いや多分あの化け物の方へ向けられたのだと思う。
 
 何故なら光が俺を通り抜けた次の瞬間、あの化け物の断末魔を聞いたのだ。

 
 光を失ったエルは気を失った様に眠っていた。
 俺は倒れゆく彼女を受け止めつつ周囲を見回す。
 ガゼボ一帯を囲う様に咲いていただろうあの禍々しい青い花やその化け物全てが消えていた。
 また気づけば青紫色の靄も消失していたのだ。
 そうして何時もの森に戻ったのだろう。
 木々の間より温かな陽光が射している。

 あぁ助かったのだと、安堵からの疲労が半端ない。
 そして多分結界が解けたのだろう。
 人の、殿下達の気配を察したと同時に俺は意識を手放したと言うか、どうやら魔力を枯渇して倒れたらしい。




「……そうか。色々不確かな事はあるとは思う。だがまさかそなたが運命の番……」
「いやいや少し待って下さい陛下。それは時期尚早でしょう。何しろシュターデン公爵は何時も我が娘の記憶に残らないではないですか。それに第一まだ経った9歳なのですよ。婚約なんて私は絶対に認めない!! 私の大切な娘に婚約者? はあ?その様な不埒者等この私自ら叩き切ってやりましょう」

 陛下への報告が終わったと同時に清々しい表情でさらりと宰相が怖い事を宣っている。
 多分、いや絶対に本気だ。
 そして宰相が目の前の陛下の何倍も怖い。

「いや待てユリアン……ってお前何処からその様な剣を持ってきたのだ!! 第一お前はこの国の宰相であって文官の長なのだぞ!! 抑々剣を持ち歩く宰相が何処にいる」
「ほれここに、陛下の御前にいるでしょうが!!」

 何気にしれっと帯剣しているだけではなく、何故王の前で剣を鞘より抜いているのだよ宰相。
 またよく手入れの行き届いた剣らしく、刃こぼれの一つもなく鈍い光を放っているのが何とも憎らしい。


「お前な、少しは落ち着け。ジークはわしの義弟なのだぞ」
「クソ王の義弟がどうしたのです。到頭とうとう国家権力を笠に振り翳す愚王へなり下がったのですか」
「全くエルの事になるとお前はどうもわし以上に馬鹿になる」
「ふん、放っておいて下さい。私のエルは生涯、えぇ永遠に私が親として護りますので!!」
「それを言うか。わしだとて可愛いエルの為ならば権力や色々なモノを行使してでも護ってやるぞ。はっきり言って宰相の権限より国王の権力の方が上だ!!」

 それから二人はほぼ俺を無視した状態でお互いに罵り合っていた。
 
 果たしてこれは何時終わるのだろうか。
 そしてこの場に俺は必要なのだろうかと今真剣に考えている。

 また心の中でエルの番なのだと改めて嬉しくも思った。

 だがほんの一瞬顔がニヤついてしまったのだろうか。
 宰相からの半端ない殺気が飛んできたので、ここは努めて冷静を保つ事にした。



 ※何時も拙作を読んで下さり有難う御座います。

  ゚.+:。(´∀`)゚.+:。ありがとう!

  ただ今よりコメント欄を解放させて頂きます。
  今日までHotランキングに掲載されるのも全て皆様の応援の賜物です。
  どうぞこれからも宜しくお願いします。
 
  眠気と心臓と闘いながら完結迄まっしぐらで頑張りますね。

                  Hinaki
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