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第一章  不可思議な現実?

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 『さようなら、どうぞお幸せに……』

 その言葉を最期に私はふわりとした浮遊感を身体に感じた刹那――――地面へと、凄まじいスピードで地上に向かって一人堕ちていく。

 叶うならば死を迎えた後も笑顔で、ジークヴァルト様の瞳に映る最期の私は笑顔でありたいと思っていた。

 何故なら初めて好きになった御方だからこそ、ほんの少しでも私の嫌な部分は見せたくはない。

 えぇそう私はジークヴァルト様に笑顔の私だけを覚えておいて欲しいの。
 ジークヴァルト様の御心のほんの片隅でもいいのです。

 ジークヴァルト様、貴方を慕っていた娘がいたと言う事を……。




 これは夢?
 でも今9歳のエルネスティーネの前には16歳の、あの日バルコニーよりダイブしたままの姿。
 真っ白なウェディングドレスを纏うエルネスティーネが悲しそうに佇んでいた。
 

『私はエルネスティーネ。私は貴女の……。貴女はまだ何も思い出してはいないし覚えてもいない』

「な、にを?」

 何かを忘れているって事?

『……てはいけない。一刻も早くこの場より立ち去りなさい』

 そうエルネスティーネは静かに告げると踵を返し何処かへ向かおうとしていた。

「待って。私は何を忘れているのか、どうしてここにいてはいけないのかを教えて!!」

 私はすーっと、音も立てず静かに床を滑るように進むエルネスティーネの後を追い掛けようと駆けだしていたわ。
 でも何故か一向にエルネスティーネに追いつかない。
 こちらは全力で駆けていると言うのによ。
 
 私と16歳のエルネスティーネの間には常に一定の距離が保たれていた。

「待ってぇ、どうして追いつかないのよぉ」


 どれだけ走った事だろう。
 はあはあ、息をするのも苦しくて、でもここで止まればもうエルネスティーネに会えない。
 何故そう思ったのか何てわからない。
 ただ私は諦めずに彼女を追い掛け続ける。

 とは言え幾ら何でも子供の体力にも限界と言うものはある。
 果たして時間にしてどのくらい走っただろう。

 ううん、初めから時間なんてものすらわからない。
 抑々そもそもここは一体何処なの?
 タウンハウスの庭でもなければ王宮の森でもない。
 郊外の領地でもこんな場所は知らない。
 
 いやいや最初は……って何?
 私は一体何処からここへ来たの⁉

 私の中で一つの疑問が生まれた。
 また当然一生懸命駆けていた足も疲れている。
 確かに疲れているけれども、自分が何処にいるのかって気になってしまうと同時にその場で立ち尽くしてしまった。


 ここは見た事も来た事すらない場所。
 周囲にあるのは今にも崩れ落ちそうな廃墟ばかり。
 その廃墟も所々だしね。
 草木は枯れ落ち、荒廃した大地に人の気配はない。

 空を見上げれば青空何てものは何処にもない。
 どんよりとした重く、紫混じりの暗い雲にすっぽりと覆われている。
 まるで陽の光を暗い雲が拒絶しているかのよう。

 なのにとある一角へ目を向ければ一面に咲き乱れているのは禍々しい色の青い花。
 生まれて初めて見る花だった。
 一見にして普通の花とは何かが違う。
 青いのに何故か鮮烈且つ赤黒さを連想させる様な花と、その異質な色合いを持つ花より放たれる気配に恐怖を覚える。
 
 花が怖いって何なの。
 でも本当に怖いって感じるもの。
 何だかあの花に今にも殺されそう……って、いやいや流石にあり得ない。

 何を考えているの私!!

 きっと見知らぬ場所と変わった花を見たから心細くなっているのね。
 おまけにこんなに霞がかっているのもあって、当然視界は物凄く悪い。

 よくもまぁこんな所を全力疾走出来たものだと我ながら感心する……って、そこ感心する所ではないでしょ。

 兎に角この場所から一刻も早く逃げなきゃ!!


 理由はわからない。
 でも何気に肌で感じる危険な予感。
 まさか16歳のエルネスティーネがわざとこの場所へ連れてきた?

 それこそあり得ない。
 夢若しくは時間が巻き戻ると仮定をしたとしてもよ。
 二人のエルネスティーネが出会う事はないでしょ。
 
 あ、夢ならあり得るのか。

 私は頬を軽く抓ってみる。
 痛くなければこれは夢。
 そうはっきり言って悪夢ね。
 悪夢ならば直ぐにでも目覚めなけれ――――。

「……痛い」

 夢だと思ったから軽くではなく思い切り抓ってしまった。
 余りの痛さにじわりと涙が滲んでしまう。
 
『ふふふ、可笑しな子ね』
「エルネスティーネ!!」

 頬を擦っていると目の前にエルネスティーネが立っていた。
 先程まで絶対に追いつかなかったのに……。

『心配しなくてもいいわ。間違いなく私は貴女よ、エルネスティーネ。貴女の夢や愛そして幸せ、そうこれより先の未来の全ては私のもの。えぇジークは貴女には渡さないわ。クク、彼は永遠に私のものよ』
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