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第五章 拗らせとすれ違いの先は……
【17】
しおりを挟む初めて貴女の祝福の力を我が身へと受けてしまったのは忘れもしない俺がまだ6歳の子供で、貴女と初めて逢った時の事だった。
あの頃は貴女と再会を果たたしたと同時に俺自身の前世を思い出しそして――――母上の死。
色々と、6歳児にしてはかなり膨大な情報量と言うか出来事であったな。
だが生憎ながら俺はそこら辺りにいる平和な6歳児ではないからそこは割愛しようか。
最初は、いや前世で貴女の父親であった時もだが、俺の中では何としてもこの運命を変えたい一心だけで根本的な事に何も気づかなかった。
6歳児の頭の中へ流れ込む膨大な情報に眼前では身勝手な俺が招いてしまった母上の死。何も知らなかった頃の様に泣くだけでは済まされない。自身を追い詰めた結果闇の眷属に隙を突かれてしまい、ヴィー貴女がいなければ今の俺はここにはいなかっただろう。
そこで漸く貴女に再会出来たことを喜び溺れてしまった。何と言っても愛しい貴女と虫や犬そして肉親でもない。
異性として堂々と貴女の愛を乞う事の出来る喜びは譬え様もなかったのだ。
だから俺はその幸せへ完全に溺れ切っていたよ。
今度こそ貴女の隣に立ちたいと、そうして少しでも貴女に近づきたいと希うと共に行動し始めた。年齢差はどうする事も出来ないが逸れ以外の事で何とか距離を詰めようと必死だった。
一方俺の想いを知らず貴女はその間に22歳となり過去の記憶を思い出してもいたね。
貴女からすれば俺は貴女を何度も苦しめ命を搾取したリーヴァイにしか見えなかっただろう。幾ら幼くとも関係ないと思う。
だが俺はと言えば悲しみと恐怖の対象でしかないリーヴァイより逃れようとする貴女を何が何でも逃がさない為に父上との約束を破ればだ。ミルワード領にある修道院へ駆け込もうとする貴女を取り戻した事で満足……あれは完全に俺の自己満足だったな。
俺が屋敷へ貴女を連れて戻った早々父上より雷が、恐らく天より堕ちてくるだろう本物の、それよりも遥かに恐ろしいものであると初めて知ったと同時に親との約束は絶対に違えてはいけないと思い知った日でもあったね。
いや如何に恐ろしい父親の怒りの鉄槌を食らったとしてもだ。愛しい貴女が初めての転移による疲労で休んでいると聞けば普通に様子を確かめたくなると言うのにあのくそオヤジ!!
『わしとの約束を違えただろう。よって彼の令嬢には逢わせられんなぁ』
あの狸ジジイっ!!
父上は自慢の顎髭を撫でながら悔しがる俺の姿を見てはにんまりと意地悪気に笑っていたな。
だがその直後……。
『じゃがわしも過信しておったのやもしれぬ。まあそれはさておきリーヴァイよ、来年に話す心算であったのだが今話したとて然して変わりはしないだろう。よいか、これより話すはそなたの母、聖女アリシアの遺言だからな。心して聞くのだぞ』
聖女アリシア――――。
癒しと先見の聖女として帝国でもトップクラスの能力を有しておられた俺の母上。
優しくも芯の強い、そう言う所は貴女とよく似ているのかもしれない。
誰よりも責任感が強くまた己を厳しく律しておられ、亡くなられた今も敬愛する母上よりの遺言?
まさか四年前に、いやもしかすればもっと早くにあの時の光景を母上は視えておられたのだろうか。
御自身では対応出来なくともだ。
きっと息子である俺ならば成し遂げられるとわかっておられたのかもしれない。
そうして母上の遺言と俺の抱いていた疑問はある法則へと導きだしたのである。
『あれはそう丁度そなたが誕生した日だったな。今も決して忘れはしない。生まれたばかりのそなたを疲れ切った表情で愛おしげに見つめた直ぐであった。アリシアは、アリーは一瞬で何かを深く悟った様な表情をした後、静かな口調で、いや何か神々しさを感じられる様な口調でわしに告げたのだよ』
全ての運命の歯車が今再び巡り合おうとするだろう。
愛と祝福を背負わされし乙女は永劫の呪いにより己が命で以って罪を贖い続けよう。
だがやがて幾千幾万掛けて時は満ち、全ての運命が重なり合う今再び乙女の許へ神々は集い、その罪は浄化される。
生まれし赤子は運命の乙女と出逢う事により封印されし全ての真実を思い出す。
たが努々道を違えてはならぬ。
乙女の存在は諸刃の剣そのもの。
光と闇……乙女の選ぶ道によって世界は光に満ち溢れるのかはたまた終焉を迎えるであろう。
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